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『パンケーキを毒見する』

2021年7月30日(金)

新宿ピカデリーで、『パンケーキを毒見する』。

菅義偉というひとの言うことを自分は1ミリも信用してないし、同意できたことなどひとつもないし、本当に最悪だ、即刻退任してほしいと常々思っている。それが大前提。

どうしてかくも世論に鈍感なのか。どうしてかくも楽観的なのか。あるいは、それは計算の上なのか。もしくは考えることを放棄しているのか。

いつから、どのようにして、ああいう人格が形成されていったのだろう。いつから、どのようにして、ああいう人間になったのだろう。いつから、どのようにして、「心」と呼べるものをなくしたのだろう。果たして昔はそれがあったのか、それともある時期から自分の考えでそれを意識的に捨て去ったのか。といったことを、会見など見ていて、よく思う。どうしたらああいう人間ができあがるのか、単純に不思議なのだ。

そういうことが少しでも解き明かされればいいなと思って、この映画を観に行った。因みに観に行った日の夜は、(いつもよりは)多少長めの会見があったのでそれを通しで見て(ここまできてもいつもと変わらず「答えない」ことに徹することができるのが逆にすごい)、結局この日はけっこう長い間、あまり考えたくもないこのひとについて考えることになってしまった。

映画は、ぶふふふと笑ってしまう場面がけっこうあった。実際、声を出して笑ってるひとも何人かいた。ただ、その笑いの種類は「うわ、どうしようもねえなあ」といった呆れ笑いだったりして、つまりその「笑うしかない」という状態もあとで考えれば相当怖いことでもあるわけだが。

そういった笑いの散りばめを含めた政治バラエティーといった作りで、政治にそこまで詳しくなくともわかりやすく伝わるのはよかったところだ。ただ、何度か挿まれる風刺アニメは、わかりやすいとはいえ賛否ありそう。「逆にドキュメンタリー映画としてのノイズになってしまっている」という意見がSNSにあったが、自分もそう思った。

答弁の論点ずらしを「ご飯論法」として広めた上西充子さんによる菅首相の国会答弁解説が面白かった。こうした分析は効果的だ。が、映画は中盤の転調から切り込みの鋭さがやや失われていった感があり、全体通して突貫制作感も否めなかった。このタイミングで仕上げて公開するという時間的な制約があったのだろうことはよくわかるが、驚きの新事実などはなく、切り込みの角度に斬新さも足りないようには思った。スターサンズ・河村光庸プロデューサーの制作によるものだが、スターサンズ作品なら森達也さん監督の『i-新聞記者ドキュメント-』のほうが断然面白い(あの作品は望月衣塑子さんの面白さと共に、監督である森達也さんの面白さもまた滲み出ていたので)。

菅政権がどうしようもなくダメなことは既にわかっている。それよりも自分は先に書いた通り、どうしてああいう人間ができあがってしまったのかに興味があった、そこを少しでもわかりたかったのだ。それに関して腑に落ちた、というふうにはならなかったのは、ちと残念だったところ。

ただ、上西さんが述べていた「不毛な言説の繰り返しで我々を呆れさせ、票を投じる気力を萎えさせるという戦略」というのは、なるほどそうか、そうなのか、と思えるもので。もしそうならば、そこを可視化することをもっとやってくれたら……とも思ったり。

と、述べてきたような食い足りなさも残りはしたが、とはいえやはりこのタイミングでこれが公開されたのは意義あること。はあぁ、どうしたもんかね、この国は……と、最後は深くため息つくしかないわけだが、それでも現実を知って向き合うのは大事なことだし、困難ななか、よくぞ公開してくれました!  とは思ったな。因みに、席はしっかり埋まってました。


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