中村佳穂@東京国際フォーラム ホールA
2022年2月4日(金)
東京国際フォーラム ホールAで、中村佳穂。
タイトルは「うたのげんざいち 2022」。
中村佳穂のライブはグリーンルーム、フジロックといった野外フェスや、スタジオコーストなどのライブハウスでこれまで観てきて、それはどれもバンドセットだったが、今回は弾き語り。バンドのライブではメンバーとかけあい、音で遊び、となるわけだが、ひとりではどうか。というと、ひとりでも「ひっそりと」なんてことにはならず、彼女は観客に喋ったり、ひとりごと(≒モノローグ)を言ったり。言ったり、というか、ひとりごとが歌になる。それは最早ひとりごとではなく、歌なのだ。いまそこで思っていること、感じたことをピアノに乗せ、メロディに乗せて、声にする。モノローグと歌の境目がない。そしてとても楽しそう。「小鳥はとっても歌が好き、母さん呼ぶのも歌で呼ぶ」という歌があったが、彼女もきっとそうなんじゃないか。そうだな、そこはまるで彼女の家の彼女の部屋。ピアノが2台向き合ってステージ真ん中にあり、そのまわりにもいくつかの鍵盤楽器があって、そういう部屋…ではなくステージを彼女は子供みたいに跳ねたりしながら動いて、前置きなんてなしにどれかの前に座って弾いて(モーグシンセ弾くときには床にぺたっと座って)歌を乗せる。そうか、ここは彼女の部屋で、我々はそこに招かれたんだな。家のなかでもこのひとはずーっとこうやって暮らしてるんだな。と、そう思った。
そういう、まるで彼女にとっての日常のような音遊び=音楽には、しかもものすごく引き込む力がある。自分は2階で観てたのだが、フォーラムならではの音の反響も特別感あり(1階ならもっとそれをダイレクトに感じられただろう)。
こっこっこっこっこっこっこっこと彼女が鳴くように歌いだしたときだった。緑色のひとが突然ステージに走り込んできて、中村佳穂に対面する形でピアノの前に座って弾きだした。ざわめく観客たち。上原ひろみだった。佳穂ちゃんのおうちに遊びにきて、一緒にピアノ弾いてるひろみちゃん。そんな感じ。子供みたい、というか、なんか動物みたい。丸みを帯びた2体の音楽生物(=音楽でできてる生き物)がピアノとピアノ、ピアノと歌で嬉しそうに、楽しそうに、会話したり、撫で合ったり、弾み合ったり、溶け合ったり。音源ではドラムンベースが入ったりしてた「さよならクレール」は、上原ひろみがピアノ弾いて、中村佳穂は自由に歌ってた(その途中からはピアノの即興セッション)。となるとその曲の聴こえ方というか意味性みたいなのも変わって感じられるようで、印象深かったなぁ、あれ。さらにそれに続いての「忘れっぽい天使」はといえば、もうピアノを完全に上原ひろみに任せて、中村佳穂はハンドマイクで歌ってた。
1月の末に友達になって誘った。そう言ってた。ひろみちゃんって呼んでねって言われたから、ひろみちゃんって。緊張するけど。みたいなことも言ってた。音楽世界の住人だからそんなふうに、というよりも、このふたりだからそんなふうにできるんだなと思った。アンコールでも2度目のアンコールでも「ひろみちゃん」と一緒にステージにでてきて一緒に遊んでた。そこに迫力もあり。連弾と歌の合わさる様は、壮絶とも言い表したくなるほどだった。
初披露された新曲はちょっとこれまでと違った成り立ちでもあったし、3月に発売されるという新作『NIA』、ますます楽しみ。
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