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『BELUSHI ベルーシ』感想。

2021年12月18日(土)

新宿シネマカリテで、『BELUSHI ベルーシ』。

高1だったか中3だったかのときに、有楽町のシネマ1で、ひとりで『アニマル・ハウス』を観た。そこで出会ってしまったのだ、ブルート役のジョン・ベルーシという怪優に。破壊的で、パワフルで、ぶっとんでた。主役じゃなかったが、ベルーシだけが強烈に印象に残った。こんな人間、見たことない。ゲラゲラ笑い、魅せられた。この1作で僕はベルーシのファンになった。

そのベルーシがやり始めたブルース・ブラザースのライブ盤にしてデビュー盤『ブルースは絆(Briefcase Full of Blues)』が出たのは『アニマル・ハウス』の公開年である1978年で、僕はヒットしてたそのレコードを池袋パルコのレコ屋で買い、映画『ブルース・ブラザース』が封切られたとき(日本は1981年)には友達のユージと一緒に東銀座の東劇に観に行った。僕もユージも始まりのベルーシの後ろ姿が映っただけでクククククと笑いを抑えきれなくなった。ということは、ベルーシが世界で一番面白いということをこの時点でユージと共有してたわけだ。

『ブルース・ブラザース』は言うまでもなく最高だ。最高なんだが、ベルーシのインパクトの強烈さは『アニマル・ハウス』のほうがより強く出ていた気がする。ベルーシを初めて観たのが『アニマル・ハウス』だったからそう思うのかもしれないが、とにかく自分にとってのベルーシはジェイクの前にまずブルートだったのだ。

『1941』も『Oh!ベルーシ絶体絶命』もベルーシ観たさに観に行ったが、やっぱり『アニマル・ハウス』が最強だった。今回『BELUSHI ベルーシ』を観ると、『ブルース・ブラザース』の撮影の時点で既にベルーシのドラッグ依存はけっこう深刻で、撮影に支障をきたすところもあったことがわかったが、『アニマル・ハウス』の段階では(その前からドラッグをやってはいたようだが)まだ生命力が溢れていてパワフルそのものだ。そういう意味で、遂に映画デビューを果たして存在が知れ渡った『アニマル・ハウス』(その前に『ゴーイング・サウス』の脇役出演もあったが)の頃が実はベルーシの最充実期だったのだろう。

『BELUSHI ベルーシ』。哀しい映画だった。『サタデー・ナイト・ライブ』『アニマル・ハウス』あたりまでの前半はまだパワフルなベルーシを見ることができるが、映画のけっこう早い段階でドラッグの問題が重く描かれ始め、後半は観ていて辛くなりもした。破天荒でパワフルで最高に面白いベルーシの姿をもっと観たかったのだが、全体のトーンは思った以上にヘヴィー。面白くてかっこいいベルーシを切り取った場面は想像してたより少なく、もう少しそっちサイドを見せてほしいと正直思った。ダークサイドを描く時間が長く、全体のバランスは決していいとは言えない。ベルーシを知らない世代のひとがこの作品を観ても、彼のぶっとんだ面白さは伝わらないだろうし、この映画を観てどれだけ彼に興味が湧くかも疑問だ。彼のことを知らないと、単に「面白くて破天荒なひとりの男が成功し、すぐにドラッグに依存して死を迎えた」というよくある薬物による破滅物語のひとつに思えてしまうのではないか。

といったわけで、自分が期待していた作品、いま見たかったベルーシは、こういうものじゃない……というのが正直な感想ではある。今年観た『ビリー・アイリッシュ: 世界は少しぼやけている』がとてもよく、それを監督したR・J・カトラーの新作ということでかなり期待して観たのだが、やはり現在進行形のアーティストと約40年前に亡くなったコメディアン/俳優を撮るのでは勝手が違うのだろうし、材料も豊富にあるわけじゃないので難しいのだろう。

とはいえ、映像のない部分を個性的なアニメーションで補うやり方はわりとよかったと思うし、何よりベルーシの妻のジョディスがとっておいたベルーシからの手紙や詩、音声テープなどは貴重なもので、その内容は感動的でもあった。ジョディスがそれらを人々と共有することを決めたことで、この映画は成り立ったのだ。

そのジョディスとベルーシの、これは愛の物語とも言えるし、実際この映画は、ベルーシを通してのジョディスの映画とも言うことができる。そう思って観ると、少し印象は変わるかもしれない。

ジョディスと、もうひとり。ベルーシの短い人生になくてはならなかったひとがいる。ダン・エイクロイドだ。彼と親友だったことがベルーシにとってどれほど大きなことだったか。どんなに破滅的な状態になってもエイクロイドが離れなかったことがどれほどベルーシの救いになったか。その存在の大きさが痛いほど伝わってきた。友達は多数である必要なんかない。ただ、人はひとり、ああいう無二の親友がいるといい。

いやそれにしても、以前は爆笑しながら見てたベルーシのジョー・コッカーの物真似を泣きながら観ることになるとは思わなかったな。


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