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リクオ・プレゼンツ 〜 JIROKICHI CONNECTION 〜 第1夜 リクオ、上田正樹、Yoshie.N。

2021年10月30日(土)

高円寺・JIROKICHI で「リクオ・プレゼンツ 〜 JIROKICHI CONNECTION 〜 第1夜」。リクオ。ゲスト:上田正樹、Yoshie.N(コーラス)。

20数年前、上田正樹さんと有山じゅんじさんのツアーにサポートで参加して、あちこち一緒にまわっていたことがあった……という話を、インタビューしたときにリクオさんから聞いていた。上田正樹と有山じゅんじ。永遠の名コンビによる歌とギターにリクオさんの鍵盤が重なる状態を想像し、いつかそれをナマで聴いてみたいと思っていた。決め事通りを嫌い、アドリブの応酬で進んでいくふたりのやりとりにリクオさんはどう絡んでいたのか。それによってどのような曲世界が立ち現れていたのか。それは容易に想像できるものではなく、だからいつか体感することができたらいいなと思っていたのだ。

今回、リクオさんと上田さんの共演ライブが発表され、自分はすぐに予約を入れた。有山さんはといえば、この日はバンバンバザールの継続30周年ライブのゲストで渋谷クアトロに出演。なので、コーラスで2005年から上田さんに師事しているYoshie.Nさんも出演されるとはいえ基本的にはリクオさんと上田さんのガチ共演ということになる。上田さんとリクオさん、ふたりの呼吸、ふたりの共鳴によって場が生まれ、歌が形になるのだ。そう考え、楽しみにこの日を待った。

第一部がリクオさんの弾き語り。休憩挿んで、第二部が上田正樹&リクオ(4曲目以降でYoshie.N参加)という構成だ。

1部のリクオさんソロは、SUPER BUTTER DOGの「さよならcolor」で始まり、そのあと新作『リクオ&ピアノ2』からの曲を中心に。ランディ・ニューマン、イーグルスなど、オリジナル曲のリファレンス元についても言及しながら歌い進めていくリクオさんは、JIROKICHIという場所に戻ってこれて、しかも有観客という”ライブのあるべき形”で演奏できるということを心の底から嬉しがっているようで、いつにも増して「やった~~!!」「音楽最高~~!!」の声も大きく響かせていた。そして「上田さんの”悲しい色やね”がなかったらこの曲は生まれなかった」と話して歌われたのが「大阪ビタースイート」。この夜だからこそ歌われた1曲だろう。また「オマージュ - ブルーハーツが聴こえる」では「サウス・トゥ・サウスが聴こえる」とも歌い込まれ、バトンを受け取りながらここでこうしていることを力強く表明。一部の最後は「アイノウタ」で、「この世界はまだ終わらない」「カラカラの日々も すべてはこのときに」という歌詞のフレーズがまさしくいまこのとき、この瞬間を讃えているかのように響いたのだった。

2部では、まずリクオさんが軽くピアノを弾き鳴らしてから、ゲストの上田さんを呼び込んだ。出てきて早々、自身がレイ・チャールズに影響されて絶対に歌手になるとの思いで家出した若き日のことを語り始め(それはこれまでも何度となくステージで語られた話ではあったが、出てきてすぐにその話で「つかむ」あたりがさすがだ)、そこから「大阪に出てきてから」を歌いだす、というオープニング。”ライブという物語”の始まりを感じさせた。そんな上田さん、やはりスターのオーラがすごい。引き込む力がすごい。声の出力がすごい。この約2年、コロナでいくつものライブが中止になったことを話していたが、休まずにずっとライブを続けてきたかのような声のハリ艶だ。

続いて2曲目だが、個人的にはここで気持ちがグンとあがった。わっ、これを聴けるのかと驚いた。「悲しい日々」。サウスを解散し、ソロになった上田正樹が1977年7月に出した2ndシングル曲で、初ソロアルバム『上田正樹』(1977年9月)のA面1曲目に収録されていた曲だ。この初ソロアルバムは、(キティレコードでの2ndアルバム『PUSH&PULL』は数年前にタワレコ限定で再発されたのに)未だ一度もCD化されておらず、もちろんサブスクにもない、つまりいま聴くのが極めて難しい盤になっているのだが。これ、自分的には特別な思いのある作品で。中学のとき、NHKホールで「NHKフォークコンサート」(イルカやユーミン、ハイファイセットらが出演)と「NHKロックコンサート」(クリエイション、マキオズらが出演)というのが土曜日曜とあり、その「ロックコンサート」のほうにソロになった上田さんが出演されていて、それをテレビで見て衝撃を受け、すぐに買いに行ったのがLP『上田正樹』だったのだ。それまで自分はアリスやチューリップなどニューミュージックを夢中で聴いていたのだが、上田さんが熱くシャウトしながらステージを走り回っている姿をテレビで見て衝撃を受けた。ロック的なる衝動と躍動を初めて感じてガッと引き込まれた。フォーク~ニューミュージックを夢中で聴いていた中学生の自分にとって、上田正樹こそが実はロック音楽とソウル音楽の入り口であり、そういう音楽を好きになるきっかけだったのだ。LP『上田正樹』は、音を聴く前に、まずジャケットの写真と色味からしてかっこよかった。原宿にそのポスターが何枚も貼られていたのも覚えている。自分は中学生ながら、孤独な大人の男のかっこよさ・渋さをそこに感じていたのだろう。そのときはまだサウスを知らなくて、遡ってサウスを聴くようになったのはそれよりずいぶんあとだった。サウスの煮えたぎる熱さからしたら、『上田正樹』には静のトーンもあって、決して派手さはなかった。サウス好きだった人たちの評判はそこまで高くなかったかもしれない。が、僕は何度も聴き返した。そのなかで「悲しい日々」は特に好きだった曲だ。作詞作曲は関西のシンガー・ソングライターの重鎮、金森幸介さん。

「ひとりぼっち部屋にいると さびしさに狂いだしそうになり ともだちと笑い合えば やっぱりひとりぼっちなんだと思い知らされる」

この歌詞の、特に「ともだちと笑い合えば やっぱりひとりぼっちなんだと思い知らされる」というのは、中学生から大人になっていく数十年の間ずっと感じていたことで、初めて聴いたときからすごいと思った。サビの「笑い合えば笑い合うほど、オレたちは離れていく そんな気がする」というところもずっと頭に残っていて、特に80年代の僕はよくそのフレーズを頭のなかで再生していたものだった。つまりなんというか、聴けばあの頃の自分を思い出してしまう1曲でもあるのだ。

『上田正樹』では「寒い野原」も大好きだった。探したらYouTubeにあったので、これも貼っておく。シティポップブームのいま再評価されてほしい(再評価されるべき)曲だ。この頃、つまりキティ時代の上田正樹の楽曲と声と醸し出すムードが僕はとても好きなのだ。

JIROKICHIのライブの話に戻そう。その曲「悲しい日々」を、上田さんは長い間ライブで歌っていなかった。自分もライブで聴いたのはこれが初めてだった。しかもリクオさんのピアノの音で新たな膨らみがあり、上田さんの節回しはレコードの素朴さとは違ういま現在の節回しで、懐かしさと共に新鮮な感触も受けとれた。この曲をやりましょうとリクエストしたのは、リクオさんだそうだ。さすが!  

というわけで、このように長々と書くくらいに自分にとっては「悲しい日々」がひとつのハイライトとなったのだが、その先も1曲1曲どれも素晴らしく、いま自分はそうそう観れないセッションを観ているのだという実感があった。リクオさんは喜びと共に、緊張感ももって弾いているようだった。なにしろ上田さんはその場その場で気の赴くままに歌うアドリブ重視のソウルシンガーだ。同じ曲を同じようには歌わない。毎回違う。どう出るかわからない。役者に譬えるなら、その場で台本にないセリフを付け足したり引いたり、長くのばしたり短くしたりするタイプ。「それがソウルや」という信条を持つひと。しかもリハーサルを嫌い、この日も当日の会場リハのみの、ほぼぶっつけセッションだったそうだ。「曲の進行は多くは上田さんの合図頼りなんで、終始気が抜けなかったです」とリクオさんも振り返ってFBに書いていらした。が、しかし決して”ついていく”といった感じではなく、リクオさんのプレイの方向によって上田さんの泳法が変わる瞬間も度々見られたし、まさに互いが互いに敬意を払いながら息遣いを感じ取り、共鳴して曲を表現しているといったふうだった。非常に高いレベルの緊張と融合のバランスがなんとも実に音楽的だった。リクオさんはもちろん、上田さんにとっても得難いセッションだったんじゃないか。

「悲しい色やね」もいつも聴く「悲しい色やね」とは違って感じられたし、「買い物にでも行きまへんか」や「梅田からナンバまで」の軽やかな弾みには、「リクオちゃんのピアノのスタイルは、ニューオリンズの感じがすんねん」と上田さんの言うそれがまさしく表れていて最高に楽しかった。そしてリクオさんの「光」を「ええ曲」と言い、即興でコーラスをつける上田さんの勘にも唸らされた。いままでライブで聴いていた「光」とは一味も二味も違う「光」だった。その次に歌われたのはふたりとも好きだというランディ・ニューマンの「ルイジアナ1927」で(歌う前にリクオさんが「伏線回収です」と言っていたが、まさにセットリスト自体に物語性があるように感じられたのも、このライブのよかったところのひとつだ)、これがまた心に沁みた。このあたりのバラードにおいてのYoshie.Nさんの歌声もとてもよかった。

アンコールで「My Old Kentucky Home」を3人でやったのもまた物語的な大団円を感じさせたもの。そして最後の最後はリクオさんの弾き語りで「イマジン」。因みに翌日の「JIROKICHI CONNECTION 〜 第2夜。ゲスト:吾妻光良」はその「イマジン」から始まったらしく(あとでアーカイブで見てみよう)、そんなあたりにも物語性といまこのときのメッセージ的なるものを感じることができるのだった。

リクオさん自身もSNSで「神回」「宝物の夜」とつぶやいてたけど、いやほんと、いいライブだったなぁ。

↓アーカイブ配信で見ることできるので、ぜひ。


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