HIPHOPブーギー 第2話 ユニット結成
大学のHIPHOPサークルはクソだった。どいつもこいつも何とかザイルみたいにメロばっか歌いたがって、どこもHIPHOPしてなかった。HIPHOP舐めんなって感じよ。
フリースタイルだってできる奴は皆無だった。俺がバトルやろうって言っても誰もついてきやしねえ。お坊ちゃん達が恋だの愛だのきっちしノートに書いててな。モノホンのB‐BOYなんて一人もいなかった。
それに比べて、俺はいつだって臨戦態勢。目の前のあらゆるものでライムできるぜ。このスキンヘッドの中にはいつでも韻がこだましてる。なりてえのは最高のリリケスト。髪型だ、女だなんて考えた事もねえ。
そんな感じですぐに大学はドロップアウト。いや、誤解しねえで欲しい。大学は今でも行ってるぜ。親が金出してんだ。それが理解できねーほど俺も馬鹿じゃねえ。姉ちゃんだってたまにこずかいくれるしな。
そうさ。俺はそこまで恵まれてなくはねえ。ゲットーで育ったわけじゃねえ。お袋と親父は離婚して、姉ちゃんと二人暮らしだが金には困ってねえ。ヤクなんてやった事もねえし、犯罪だって中坊ん時の万引きくらいなもんさ。
だけど、俺ん中にあるHIPHOP魂はマジもんよ。B‐BOY気取ってNEW ERA被ってるだけのチャラ男とはわけが違え。
そんな中でも一つだけ。大学にはいい出会いがあったな。トラックメイカーのDJサーバイブに出会った事だ。
チャラいサークルのイベントであいつとは出会った。マジあいつの鬼スクラッチはハンパなかった。SERATO使って縦横無尽にその場でどんどんビートを作って行くんだ。
顔見ると完全に外人だったけど、話してみるとバリバリ日本語なのも気に入った。
バイブはメキシカンとのハーフで横浜育ちだった。いや、マジそりゃ熱かったぜ。ブラックがやるガレージパーテイーでDJした事あるって言うんだ。この時代にそんな本格的な事してるやつなんかいるのって感じ。
俺なんて十代の時はクラブに行った事すらなかった。ID確認が厳しくて入れねえんだ。ラップしてんのにクラブ行った事ねえなんて最低だろ?二十歳になるのが待ち遠しくて仕方がなかったな。そのイベントだって、真っ昼間だった。もち酒もなし。
そんな中あいつは、DJサーバイブはすでにクラブを経験済み。んでもって家行くとそこがまたホット。
MPCにPRO TOOLS。レコードの数も半端じゃなかった。すぐに俺は組もうぜって言ったんだ。そしたらあいつ、
「フリースタイル見せろ」
なんて言いやがったんだ。あいつもサークルの連中には飽き飽きしてたんだ。こんな奴らとやってらんねえって。さすがチカ―ノ。
だから俺の事も疑ってたらしい。こいつはマジもんかってな。当然、俺はすぐに見せつけてやった。
HEY YO
このMPCで打ち鳴らせビーツ
DJ SIR VIBE 今がその時
俺のラップ お前のトラック
交わり残らず 世界を揺らす
「YO MEN」
その途端にハイタッチでユニット結成よ。
その後はいろんな話をした。2PAC、NAS、NWAマジ最高。日本のメジャーシーンはつまんねえ。歌ってばっかでラップしてねえ。
ちなみにバイブはすでに女をクラブで食ってやがった。俺はその話に興味津々。あいつはスパニッシュの女が一番だって言ってたが、俺はジャパニースの良さを譲らなかったぜ。
そんで辿りつくのはリアルの話。俺達にとってのリアルってなんだ?ストリートってなんだ?バイブはこう言った。
「アメリカのラップは貧困。人種差別。ヤク。ギャング。金。ストリートにあるもんを題材にしてる。小っちぇえ子供がそこら辺でラップしてんだ。そっから成り上がるのがあいつらの夢だ。そんでリアルだ。日本のリアルは・・・正直わかんねえ。俺だって、お前だって、それなりに暮らしていけてる。そこに向こうのHIPHOP持ちこむのは正直難しいぜ」
「だったら俺は何書いたらいいんだ?確かに俺はギャングじゃねー事はわかってる。だったら何をライムすりゃいいんだ?」
「わかんねえ。でも俺はお前のラップが好きだ。フロウが気に入った。だからトラックを作る。そこに思うがままにライムすりゃいい。とにかくそっからだ」
OK MY MEN。思うまま。そのフレーズマジキタぜ。考えた時、それはリアルじゃなくなるって事だろ?
そうだ。こっから始まったんだ。俺のHIPHOPライフは。城南の街角。けっこういい感じの海外移住者専用の住宅の、レコードと機材に囲まれた部屋で俺とバイブのイントロが鳴り始めたんだ。
そん時に、バイブが俺に名前を付けた。俺はその名前のクールさにバッチシキマッちまった。
「MCワールド。世界を揺らすんだろ?」
YHEA。こんなクールでデカイ名前持ったラッパー他にいたかよ?
俺がMC WORLD 目の前のクラウド
玄人素人関係ねえぜ
お前らの鼓膜 心を揺らすぜ
そんな感じで、一曲目のパンチラインは一瞬で降りてきた。
僕は37歳のサラリーマンです。こらからnoteで小説を投稿していこうと考えています。 小説のテーマは音楽やスポーツや恋愛など様々ですが、自分が育った東京の城南地区(主に東横線や田園都市線沿い) を舞台に、2000年代に青春を過ごした同世代の人達に向けたものを書いていくつもりです。