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コメットと僕【第四回】砂上の楼閣

キャプチャ

「今だから言うけど、もう何もかも嫌んなっちゃってね…
売り払ってしまったわ。コメット…」
好きな戦車はコメットですかpart9より


しばらくの間はとにかく順風満帆だった。
特につまずく事もなく優等は上がり続けて、
2優等も難なく取れたし、
投稿動画の方も常連の視聴者さんがついて、
コメントで色々アドバイスとかももらえて、
このゲーム初めて良かったなぁって初めて思えた。

この時期は本当に楽しかった。
漠然と、これは近いうちに優等取れるな
って思っていたし、
僕はもう下手くそじゃなくなっている
気分になっていた。

気がつけば90%目前まで到達していた。

と言っても、もうこの時期200戦していて
上手い人ならとっくに優等取れてて
当たり前の戦闘数になっていて、
僕は生意気にもそれを
恥ずかしく思うようになっていた。

90%手前まではスルスルと上がったんだけど、
そこがピークだった。

2000~3000ダメアシ取っては
0ダメ爆散のサイクルを繰り返して
下がりもしないけど、上がりもしない状況がしばらく続いた。

でも、僕はまだ楽観視していた。
調子がいい試合が立て続けに続けばすぐに
上げられるんだって…

しかしここで、乗り出しからずっと続いていた
僕の強運は尽きた…

上手くなってるつもりでいたのは完全に勘違いで、
ここまで調子が良かったのは運の偏りに過ぎなかったのだ。
そもそも、何もしていないのに
いきなり上手くなるわけなんかないわけで…

落ち始めると早かった。
急降下を始め2優等ラインの85%は
あっという間に通り過ぎ、
それでもなお、下がり続けた。

それまでは最低でも1000ダメージぐらい取れるのは当たり前で
普通のことだと思っていたのに、
もう、自分がこれまでどうやってダメージを
取っていたのかもわからなくなった…

なんとか以前の調子を取り戻そうと足掻きに足掻くんだけど
それは叶うことなく優等は下がり続ける。

当然だった、これまで優等を上げてこれたのは、
自分の実力とは全く関係のない
強運の力が働いていたからにすぎないのだから。

ついに70%を割ってしまったところで
僕はその事に気づいた…

すでに優等は67%…
2ヶ月前に初めて動画を投稿したときと
同じぐらいまで下がってしまった。

たぶんこのまま続ければ
65%も割ってしまうだろう。

この2ヶ月は何だったんだろう…
調子に乗って、勘違いして、動画まで上げて…
だけど、そんなの全部神様のいたずらで、
本当の僕は参加賞以下の人間で…

でも、優等急降下しながら本当にいろいろ試したんだ…
でも全部ダメだったんだ…
もう、どうすればいいのかわからない…

65%を割るところを見るのが怖かった。
参加賞以下の人間だと突きつけられるのが怖かった。

僕はコメットを売却することにした…

車両を売却するのはワンクリックじゃ出来なくて、
確認のために、売却価格をキーボード入力しなくてはいけない

一桁入力するたびに罪悪感がこみ上げてきて
胸がチクリといたんだ

仕方がないんだ…僕にはもうどうすることも出来ないんだ…
そのつど自分に言い訳をしながらキーを押した。

最後に売却ボタンを押すとき、
初陣のライブオーク戦のことが頭によぎった。
あのときは本当に楽しかった!気持ちよかった!
でもそれはただの神様のいたずらだったのだと
思い出して少し寂しくなった…

動画シリーズはそのまま失踪することに決めた。

そうしたら少し気分が軽くなって
もう、自分の好きな戦車に乗れるんだ。
難しいことはやめて楽しいことだけやればいいんだ!
って思ったけど…

僕はまた、戦闘開始ボタンを押せない病気が再発してしまった。
上げて落とされたショックと、逃げ出した罪悪感で
味方に撃ち殺されたあのときよりも重症だった。

そうして、戦闘開始ボタンを押せずにボーッと
コメットがいなくなったガレージを眺めていたある日のことだった。

僕は知らない人からメッセージが届いていることに気づいた。
個チャではいつも罵られていたから開くのが怖かったけど、

なんだか気になったので開いてみることにした。

「突然のメッセージ失礼します。
 コメット動画いつも楽しみに見ています。
 私も最近初めての3優等が取れたばかりなので
 親近感をもって見ています。
 これからも頑張ってください」

罵倒ではない個チャが初めてだったし、
動画の視聴者さんからの応援だし、
ものすごい嬉しかったんだけど、
すぐに悲しくなった。

僕のガレージにはもう、コメットはいなかった…

せっかくだから小隊プレイでもしませんか?
って話になった。
やすおさんって名前の人だった。
やすおさんと、そのクラメンの若い人と遊んでもらうことになって
ボイスチャットできますかって聞かれたんだけど
出来なかったので、それを伝えると
じゃあ聞き専でいいのでって話になった。

実は僕は聞き専でボイスチャットに
参加させてもらうのも初めてだった。

だから、二人が会話しながら作戦を練って
進軍していくのを見るのはすごく新鮮だった。
そこに参加させてもらって、
連勝を重ねるのはすごく楽しかった。

でも、二人の会話を聞きながら、
僕はあることに気づいた。

ここはこうだから詰めよう、とか
あそこに駆逐がいるから詰めれないね、とか

行動の全てに理由があって、
二人が、何も考えずに漠然と動くことは皆無だった。

それが、とても重要なことだってことは知っていた。
でも、僕にそれが出来ていたかと訊かれたら、
出来てなかった。

頑張ったけど駄目だったから諦めたつもりだったけど…
僕は何を頑張ったというのだ!?
当たり前のことすら僕には出来ていなかった!


コメットを売り払ったときの
胸の痛みの正体がわかったような気がした。
一生残るような深い後悔が胸に残り続けている
理由が分かった気がした。

そうだ、僕はやりきっちゃいなかったんだ!
本当にすべて出し切ってやりきったなら
こんなに後悔は残らないはずだ!
あの罪悪感もなかったはずなんだ!

やすおさんとの小隊が終わったあと、
僕は一人つぶやいた

もう少し頑張ってみよう…

軽い言葉とは裏腹に、
僕の胸には滾るような熱い思いがこみ上げていた。

今度こそ全力だ!やれることは全部やりきるんだ!
どれだけ時間がかかってもいい…


どんなに歩みは遅くても
そこに至る道を進み続ければ
いつか必ずそこに至る。

だから、一つ、一つだけ自分に誓おう…
次は絶対に諦めない!
絶対にuseless manを卒業するんだ…


りーぷすさんが僕に憧れを抱かせてくれて、
コメットとの出会いのきっかけを作ってくれた
第1の恩人だとしたら、

逃げ出した僕を連れ戻してくれて
もう一度、コメットと向き合わせてくれた
やすおさんは第2の恩人だった。


次回
コメットと僕【第五回】示された道標
10月29日投稿予定


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