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Joyce Wrice @Billboard Live TOKYO(20240519)

 セクシーとチャーミングが交互に顔を出した、至極のR&Bショウ。

 5月17日の横浜を皮切りに、東京、大阪それぞれのビルボードライブ公演を経て、5月24日のインドネシア・ジャカルタ公演まで続くジョイス・ライスのアジアツアー〈JOYCE WRICE ASIA TOUR〉が開催。その5月19日のビルボードライブ東京公演の2ndセットを観賞。2022年10月のビルボードライブ東京公演(記事→「Joyce Wrice @Billboard Live TOKYO」)以来2度目となる。

 米国人の父と日本人の母をもつ出自や音楽性のルーツなどは、前回のライヴレポート(「Joyce Wrice @Billboard Live TOKYO」)に譲るとして、前回同様、本公演でも鍵盤のジョンテ・ロバーツを左手に、ドラムのブランデン・アキニエルを右手に配し、2名のフィメールダンサーを従えるという布陣。ダンサーはマライア・ティリは前回に引き続き、クリスタル・ジャクソンが初めてのステージで、ジョイス・ライスのパフォーマンスを後押しした。

〈JOYCE WRICE ASIA TOUR〉

 「ソー・ソー・シック」が終わると待ち切れなかった気持ちを吐露するように「トーキョー!」と叫んだ本公演。2021年リリースのアルバム『オーヴァーグロウン』の楽曲を中心とした構成は前回同様だが、EP『モーティヴ』の楽曲も含め、曲順やアレンジには大いに変化をもたせた模様。「ルージング」から「ユー」、「ホット・ミニット・インタールード」から「シンク・アバウト・ユー」といった前回同様の流れもあるにはあったが、ダンサーとともにステージ袖へとウォーキングしてステージアウト風に見せたり、MCをいくつか入れたりしながら、メリハリあるエネルギッシュなパフォーマンスを構築。約70分ほどでアンコール含めて20曲以上というのは、なかなかの楽曲数だと思われるが、元来の楽曲がそれほど長くないのと、コンパクトに凝縮したアレンジによって、ヴォルテージの上昇が立ち消えないヴァイブスを継続させていった。

 「オオキイコエダシテー!」「ミンナタッテモラッテイイデスカー」と日本語で煽る姿も何度も見られ、そのキュートな表情で語りかける姿が微笑ましい。だが、楽曲に入ると一変。「アディクテッド」や「チャンドラー」「オン・ワン」などでも、ステージ前方に設置された3台のサーキュレーターから吹く風に腰まで伸びたロングヘアをなびかせながら、2名のダンサーとシンクロしたセクシーでパッションみなぎるダンスでオーディエンスを沸かせていく。

 「マスト・ビー・ナイス」を終えた際には、メンバーたちが「オレノナハブランデン、ヨロシク」といったように日本語で自己紹介を。「ミンナレンシュウシテタ」とジョイス・ライスが呟くと、続く4月に来日公演を行なったウミ(記事→「UMI @LIQUIDROOM(20240402)」)との楽曲「ザッツ・オン・ユー」では、オーディエンスから女性1人をステージに上げて、ウミのパートを観客に歌ってもらうサプライズ・ステージに。ウミのライヴでもフリースタイルと称して観客6名をステージに上げてセッションしていたが、ウミと共感することも少なくないだろうジョイス・ライスも、特に日本にルーツをもつゆえ、日本のファンとの交流を実現させたかったのかもしれない。

 イントロで「ジャパニーズ・プロデューサー(?) マツオキヨシー!マツオサン!」と叫んでから始まった「ドゥー・ユー・ラヴ・ミー?」は、日本語詞ヴァージョンで披露。歌い終わりにジョイス・ライスが「マツオサン、ホントウニアリガトウゴザイマス!」などと叫んでいたから、日本語詞を松尾潔が手掛けたのだろうか。中階の端の席にジョイス・ライスの声に手を挙げて応えていた松尾を目にすることができた(「FUKUOKA CITY」と大きく書かれたTシャツは、地元愛が強いんだな、ということにしておこう…笑)。

 ジョーダン・ウォードに客演した「サイドキック」は軽快なビートと叙情性に富むヴォーカルメロディに、ノスタルジックやヴィンテージ感も顔を覗かせる好みのタイプの楽曲だが、本ステージに組み込まれていたのは個人的に嬉しい限り。オリジナルも2分ちょいと短めなのであっさりと終わってしまった感もあるが、ビートを利かせたタイトなアレンジで、“山椒は小粒でもぴりりと辛い”よろしく瞬間的ながらインパクトを残すアクトとなった。

ジョイス・ライスとダンサーが一旦退いて、バンドによる「ウェストサイド・ガンズ・インタールード」を終えると、クライマックスへ向けて、ギアもさらにアップ。クールな佇まいながらもエナジーが横溢する「アイスド・ティー」でセクシー&スタイリッシュなパフォーマンスで歌い綴ったのを皮切りに、「ケイトラナズ・インタールード」を経て、エスタの曲にジョイス・ライスとダックワースが客演した(「明日ミュージック・ヴィデオが公開されるの!」と言っていたと思う)「トゥー・ファスト」へ。妖艶なムードとポップでチャーミングなジョイス・ライス、それぞれが顔を出すアクトは、ジャネット・ジャクソン「トゥゲザー・アゲイン」あたりにも通じるポップネスも垣間見られた。

 「チョットサミシイケド、サイゴノキョクデス。ミンナタッテモラッテモイイデスカ!」と煽って、本編ラストは「ビタースウィート・グッバイズ」へ。琴線に触れる濃密な夜へと滑り込むようなヴェルヴェット・テイストのメロディ&トラックと、ハスキーかつソフトなブランディも想起させるヴォーカルで紡ぐミディアム・グルーヴァーは、いつ体感しても、五感を刺激してくれる。

 「もう1曲聴きたい?」と告げ、観客からの鳴りやまない歓声とクラップに「マジデ~!?」とお茶目な反応を見せると、ステージ背後のカーテンが開いて、煌めく夜の借景をバックにアンコールの「ルッキン・フォー・ヤ」へ雪崩れ込む。ジョイス・ライスの「オオキナコエダシテー!」「ミンナタッテー!」の声に促されるまでもなく立ち上がった観客の歓声でフロアが埋め尽くされるなか、名残惜しくならぬよう髪を振り乱して誘うような視線で踊るレディース3名と、そのパッションをさらに引き上げる乾いた音のタイトなドラミングと幾重にもなって押し寄せる鍵盤が絡み合い、ステージのヴォルテージも最高潮へ達した。

 90年代~00年代のコンテンポラリーR&Bの王道を下敷きにしたソングライティングと、宇多田ヒカルやCrystal Kay、m-flo、CHEMISTRYあたりに影響を受けたUSマナーのポップ/ソウルを独自の解釈で咀嚼したアティテュードは、ジョイス・ライスの特長のひとつでもある。R&Bを好んで聴いてきたリスナーからすれば、ステージにおいても、ジャネット・ジャクソンはもちろん、アリーヤ、エイメリー、タミア……といったアーティストが脳裏に浮かぶシーンも。声を張り上げたパワフルで押し切らないところは、日本人らしさもあるのだろうが、時折ハスキーでソフトな肌当たりで滑らせるヴォーカルは、やはりブランディのアプローチにも親和性を感じて、耳にスッと馴染んでくる。それはライヴでも同様だった。機微をなぞるように伝うヴォーカルは、日本語詞との相性も良さそうで、これまでにもちょくちょく日本語詞を入れ込んでいるから、そのうち「ザッツ・オン・ユー」に続くオリジナルの日本語詞曲が生まれるのも、時間の問題かもしれない。

 バンドは音源に鍵盤とドラムを重ねた形ではあるが、全編生演奏でなければならないということもないし(90~00年代R&Bアーティスト・マナーであればなおさら)、このバンド・チームとの相性も良さそう。芳醇なサウンドで包み込むというよりも、快活なビートを活かしたタイトなグルーヴを優先としたアレンジも、コンパクトな楽曲群にもフィットしていた。
 フル・アルバムはまだ『オーヴァーグロウン』1枚のみだから、次の来日公演では新たなアルバムを引っ提げて……となれば、この上ないところ。そんな想いも早々に沸き上がる、充実の夜となった。

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<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 Pace Yourself (*M)
02 So So Sick (*O)
03 Losing (*O)
04 You (*O)
05 Fall In Love (original by Lucky Daye feat. Joyce Wrice)(*O)
06 Overgrown (*O)
07 Hot Minute Interlude (*O)
08 Think About You (*O)
09 Addicted (*O)
10 Chandler (*O)
11 On One (*O)
12 Must Be Nice (*O)
13 That's On You (Japanese Remix)(original by Joyce Wrice feat. UMI)(*O)
14 Do You Love Me?(Japanese lylic ver.)
15 Sidekick (original by Jordan Ward with Joyce Wrice)
16 Westside Gunn's Interlude (*O)
17 Iced Tea (*M)
18 Kaytra's Interlude (*O)
19 Too Fast (original by ESTA feat. Joyce Wrice & DUCKWRTH)
20 Bittersweet Goodbyes (*M)
《ENCORE》
21 Lookin for Ya (*M)

(*O):song from album “Overgrown”
(*M):song from EP “Motive”

<MEMBERS>
Joyce Wrice / ジョイス・ライス(vo)
Johnte Roberts / ジョンテ・ロバーツ(key)
Branden Akinyele / ブランデン・アキニエル(ds)
Mariah Tlili / マライア・ティリ(dancer)
Crystal Jackson / クリスタル・ジャクソン(dancer)

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【Joyce Wriceに関する記事】
2022/10/08 Joyce Wrice @Billboard Live TOKYO
2024/05/19 Joyce Wrice @Billboard Live TOKYO(20240519)(本記事)


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