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カノサレ&FAREWELL, MY L.u.v @青山月見ル君想フ〈The Band〉

 バンド・サウンドがもたらす、2つのユニットの新たな顔。

 何はともあれ、再び“フェアラブ”のステージに辿り着くことが出来た。愛知・名古屋を拠点とする音楽プロジェクト“フェアラブ”ことFAREWELL, MY L.u.v(フェアウェル・マイ・ラヴ)と、東京と福岡を拠点とするあおぎとえりのユニット“カノサレ”による2マンライヴ〈The Band ~カノサレバンド×フェアラブバンド~〉が東京・青山月見ル君想フにて開催。それぞれにバックバンドを率いて、バンド・スタイルで贈る東京では珍しいステージに足を運んだ。直前までSNSにて告知展開を行なっていたようだが、フロアに足を踏み入れると、かなりの盛況ぶり。頻繁には名古屋や福岡へは行くのが難しい東京近郊のファンたちが期待を胸に一堂に会したという感じなのかもしれない。

 ところで、フェアラブについて思い返せば、2023年1月3日、新春モード真っ盛りの時に突風のように舞い込んできたのが「現FAREWELL, MY L.u.vを解散すると言う結論に至りました」という解散発表だった。紆余曲折を経て、“リブート”という形で2021年12月にスタートした“フェアラブ”は、シグネチャーともいえる銀のフライングソーサーへと吸い込まれ、宇宙に瞬く“STELLA”(星)たちを“Stargazing”(眺める)する旅へと旅立った……はずだった。

 当時の解散発表文にあった「現FAREWELL, MY L.u.vを解散」の“現”という言葉にいくばくかの引っ掛かりがあり、何らかの形でその意志を受け継いだプロジェクトが再開しないだろうかという、淡い期待をその“現”という文字に馳せていたが、考えていた以上にフェアラブは早々と戻ってきた。
 個人的にはリブート期の活動しか体感していないため、フェアラブを草創期から知っている訳では全くない。そのあたりの顛末は拙記事(「さらば、愛しきフェアラブ」)に譲るが、ただ、活動休止ではなく“解散”という言葉を選んでのことだから、すぐに復活することはないだろうと踏んでいた矢先、時間とともにフェアラブの情報に次第に疎くなりかけていたところで、リブート期にオリジナル楽曲として最後に放った「stargazing」を、2023年9月にFAREWELL, MY L.u.v feat. 山添みなみ名義でリリース。気まぐれな、飛行路が読めないフライングソーサーが、再び帰ってきたのだ。

山添みなみ

 FAREWELL, MY L.u.v feat. 山添みなみというネーミングは、例えばインコグニート feat. メイサ(・リーク)やザ・ブラン・ニュー・ヘヴィーズ feat. エンディア・ダヴェンポートのように、かつてオリジナルメンバーだったディーヴァを改めて迎えるということを意識してのものか。グループの中の一人として再始動するというよりも、まずは独立したソロシンガーとしての敬意を表し、フェアラブに招き入れたということなのだと思う。事実上、再び歩みを始めたフェアラブはオリジナルの(物理的な意味での)演者が存在しないゆえ、FAREWELL, MY L.u.vという概念・意匠に山添みなみが息を吹きかけ、フェアラブを鮮やかに蘇生させたということになろう。

 オリジナルメンバー時代の山添は未体験だが、リブート期のメンバーとラヴァーズ・レゲエ・アイドル・ユニット“FAREWELL, MY D.u.b”として何度かステージを観ていたから、それほど違和感もなし(オリジナルメンバー時代を知っている人は違和感などなくて当然だが)。名古屋をはじめ、主に東海地方で活動するソウル・バンドのBBQからメンバーを招いたフェアラブバンドをバックに、ファンキーかつソウルな演奏でフェアラブの名曲群を披露してみせた。

 リブート期も出囃子的に使われていた“チュッチュチュルチュ ラヴチュッチュ”のスキャットが耳を惹く「プリティKiSS」のBGMを駆使したイントロダクションを経て、「7 DAYS FOCUS」からフェアラブバンド東京篇が開幕。山添は中日ドラゴンズのダヤン・ビシエド(2024年から日本人選手扱い)の66番のだいぶ大きめのユニフォームをボタンを開けた着こなしで登場(当日着るように手渡されたとのこと)。リブート期よりもショートなヘアはどちらかというと以前のおっとりとした感じよりも活発そうな印象を与え、「やるぞ!」という表情にも感じられた。

 序盤は「7 DAYS FOCUS」から「gloomy girl」までを一気に披露。佳曲が多いフェアラブ楽曲の中でも代表格の「gloomy girl」は、CDとしてリリースした音源やリブート期のアレンジとはやや異なり、ビートを立てたアタック感の強いダンス・ファンクというよりも、やわらかさを帯びたレイドバック感を湛えたソウルフルなモードに。これはバンドがBBQのメンバーゆえ、BBQが得意とする音を基軸に、弾き語りなども行なってきた山添のシンガー・ソングライターとしてのメロディアスな歌唱とフィットさせるアプローチを考慮してアレンジしたのかもしれない。

 MC明けに披露した「obsession」も、従来のヒップホップマナーよろしく推進力あるビートで突き進むというよりも、モータウンや70年代ソウルを意識したような気品を配したソウル・グルーヴを湛えていて、音源で数多く耳にしたのとは異なる表情を見せていた。甘茶ソウルとまではいかないけれども、ほんのり艶やかなヴォーカルワークも垣間見えたりと、山添のソロシンガーとしての成長と個性がフェアラブ楽曲と新たな化学変化を見せ始めていた……そんなパフォーマンスだったともいえる。それは、ミラーボール煌めくなかで歌われた「stargazing」も同様で、瞬間的なインパクトの強度は高くなくても、じんわりと沁みてくるしなやかなグルーヴが後味の良さ、余韻を残す薫香となって伝わってくるようだ。

 「染まってゆく」やラストに歌った「Good Day」は、ラヴァーズ・レゲエ・アイドル・ユニット“FAREWELL, MY D.u.b”として早くからステージで歌っていたから、歌唱にも自信があるのだろう。元来、こういったゆったりとした間を含んだ楽曲群に特性があるのかもしれないが、そのあたりが全体的にレイドバック/ムーディ・ソウルなアレンジのステージと感じたところなのかもしれない。

 2024年2月にリリースした楽曲「Old School」をステージで聴いたのは初めてとなるが、タイトルほど(ヒップホップの)オールドスクール濃度は高くなさそう。ただ、楽曲が持つ仄かに這うヴィンテージ感と跳ねるビート、抑揚の大きなフックなどが躍動感をもたらす意味では、ヒップホップのそれ。ファルセットも駆使した耳を惹くフックもあって、「gloomy girl」や「obsession」といった王道名曲を橋渡しするユーティリティ性に長けた楽曲として長く重宝されそうだ。

 初めてフェアラブ楽曲をバンドスタイルで観賞した今回。生バンドをバックに演奏することが必ずしも全てグレードアップになるとは思わないが、BBQの面子を擁したバンドは、しっかりと山添の声色の特性を活かしていたから、(好みはあるだろうが)バンド・スタイルでも心地よいビートとグルーヴに身を委ねられたのは良かった。もう一つ付け加えるとすれば、東京に住む山添のリアルフレンズだという“おと”をコーラスを配したことは、かなり奏功だったのではないだろうか。特段に派手なコーラスワークではなくとも、ヴォーカルに厚みと表情の彩りを生んで、バンド・サウンド全体的にメリハリと余白をもたらす効果の一助になっていたように思う。

◇◇◇
<SET LIST>
《FAREWELL MY L.u.v. Band Section》
00 INTRODUCTION~プリティKiSS(BGM)
01 7 DAYS FOCUS
02 UP DOWN
03 gloomy girl
04 obsession
05 Old School
06 stargazing
07 染まってゆく
08 Good Day

<MEMBERS>
フェアラブバンド are:
山添みなみ(vo)
鈴木孝之(g / from BBQ)
廣江光洋(b / from BBQ)
水野真志(key / from BBQ)
川井崇史(ds / from BBQ)
おと(cho)

フェアラブバンド
フェアラブバンド

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カノサレ(あおぎ、えり)

 カノサレは、あおぎ(安達葵袖)とえり(畠山英莉)によるユニットで、2021年4月にそれまで名乗っていた“彼女のサーブ&レシーブ”から改名。ユニットとして観るのは2020年のイヴェント〈UNDERPASS〉(記事→「〈UNDERPASS〉@CIRCUS TOKYO」以来だから、カノサレ名義になってからは初めての観賞となる。こちらのバンド・セットは、インスタントシトロンの長瀬五郎、元インスタントシトロンの松尾宗能を中心とした、楽曲ともどもカノサレ始動当初から深く関わってきた面々で、一朝一夕で組んだものではないから、そのコンビネーションの安定感は十全だ。

 だいぶライヴにご無沙汰していたこともあって、実際ステージで聴いたことがある楽曲はおそらく「スキッ!~Love Magic~」「STILL BE SHINE」、そしてアンコールに披露した「Cheerio!」という“This is カノサレ・クラシックス”とも言うべきド定番曲しかなかった。とはいえ、ズッチャ、ズッチャというリズムをはじめ、ロックンロールやリズム&ブルース(“R&B”ではない)、モードなロックあたりの淀みないアプローチでヴォーカル2人の屈託のないキャラクター&ヴォーカルワークを際立たせていたから、初めて耳にした曲でも朗らかに、身体を揺らすことが出来た。

 カノサレは元来“フューチャーテニスアイコン”というコンセプトから出発しているため、長らくテニスウェア風の衣装だったが、一時衣装も含め、“テニス”というコンセプトから離れていた。前述の2020年の〈UNDERPASS〉の際もたしかテニスウェア風の衣装ではなく、ドレスだった気がするが、どうやらテニスウェア風衣装を復活させたようで、それが今回のステージでマイナーチェンジしたとのこと。以前はラケットを持ってステージに上がっていたこともあったが、そこまでは遡らなくとも、見慣れた柄の衣装は懐かしさと時の経過の早さを感じさせた。

 その時の経過の早さを経て一番に感じたのは、あおぎのヴォーカルワークの成長だ。えりは以前から自身がギター弾き語りで活動していることもあって、安定の歌唱を見せていたが、あおぎは良くも悪くも奔放で気分屋的な歌い口だった印象が強かった(それが彼女の魅力の一つでもあったかもしれないが)。それが久しぶりに観たこのステージでは、その気まぐれさも失わず、(なかなか上手く表現出来ないが)メロディを掴んで歌うことが様になってきたと言えばいいか。えりと寄り添う距離が近づいた歌い口になってきたという感じも受けた。

 初見ながら印象に残ったのは、MC明けに歌った「Dance in Lies」と本編ラストに披露した「光速サテライト」。特に「Dance in Lies」は、序盤の「ウルトラマリンガール」「カノサレの!気楽いこうぜ」「魔法少女だった頃には」とはタイプを異にした音鳴りで、全体的にはギターポップやネオアコ風情ではあるが、シティポップやアーバンなAOR/フュージョンを透過させたセンチメンタルかつノスタルジックな琴線に触れるメロディラインが魅力的。これまで彼女たちにあまり感じなかった(すみません)淡い妖艶さや虚ろな表情も覗かせる展開は、カノサレとしての音楽的振幅を拡げる意味でもカギとなる楽曲になるのではないだろうか。

 フェアラブでいうところの「gloomy girl」に当たる「STILL BE SHINE」に続いて奏でた「光速サテライト」は、“トゥットゥ トゥルル トゥトゥトゥ トゥワ~”というスキャットが微笑ましい。ジメジメしないカラッとした夏の晴れ間が似合いそうなジョイフルなポップロックで、フロアにチアフルな空気をもたらすキラーチューンとしての効能がありそう。今回は見られなかったが、そのうちオーディエンスとともにスキャットをシンガロングやコール&レスポンスしてステージが大団円を迎えるといった光景にも発展しそうだ(もうしているのかもしれないが)。

 カノサレのステージを見渡して思うのは、演者とオーディエンスが実に楽しそうに身体を揺らし歌っていることか。バンドによる快活なサウンドもそうだが、カノサレの2人が放つ、気取らないリラクシンな雰囲気とトゲトゲしくないポジティヴなヴァイブスがそうさせるのだろう。ギター、ベース、ドラムが三位一体となって軽快に刻むリズムのなか、オーディエンスのシンガロングが響く「Cheerio!」を聴くにつけ、オーディエンスを破顔させるカノサレの不思議なマジックを見たような気がした。

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<SET LIST>
《KANOSARE Band Section》
01 ウルトラマリンガール
02 カノサレの!気楽いこうぜ
03 魔法少女だった頃には
04 Dance in Lies
05 スキッ!~Love Magic~
06 STILL BE SHINE
07 光速サテライト
《ENCORE》
08 Cheerio!

<MEMBERS>
カノサレバンド are:
あおぎ(安達葵袖 / vo)
えり(畠山英莉 / vo)
長瀬五郎(g / from インスタントシトロン)
松尾宗能(b / ex-インスタントシトロン)
bearstape(ds)

カノサレ
カノサレバンド
〈「The Band」~カノサレバンド×フェアラブバンド~〉

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【FAREWELL MY L.u.vに関する記事】
2018/12/31 MY FAVORITES ALBUM AWARD 2018(「ブライテストホープ賞」の項)
2020/07/11 FAREWELL, MY L.u.v『DONT TOUCH MY RADIO』
2020/12/09 FAREWELL, MY L.u.v『GOLD』
2021/01/13 MY IMPRESSIVE SONGS in 2020
2021/12/04 FAREWELL, MY L.u.v @LOFT HEAVEN
2022/04/17 FAREWELL, MY L.u.v / HALLCA @LOFT HEAVEN
2022/05/03 FAREWELL, MY L.u.v @恵比寿CreAto
2022/07/17 FAREWELL, MY L.u.v @LOFT HEAVEN
2022/09/19 FAREWELL, MY L.u.v @LOFT HEAVEN
2023/01/04 さらば、愛しきフェアラブ
2024/08/15 カノサレ&FAREWELL, MY L.u.v @青山月見ル君想フ〈The Band〉(本記事)

【カノサレに関する記事】
2018/05/30 MILLI MILLI BAR@六本木VARIT.
2019/03/01 LOOKS GOOD! SOUNDS GOOD! @北参道ストロボカフェ
2020/03/12 彼女のサーブ&レシーブあおぎ Birthday Live@渋谷CIRCUS Tokyo
2020/12/27 〈UNDERPASS〉@CIRCUS TOKYO
2022/08/20 〈Softly Blue #3〉 @ROCK CAFE LOFT
2024/08/15 カノサレ&FAREWELL, MY L.u.v @青山月見ル君想フ〈The Band〉(本記事)


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