「3年に亘ったコロナ対策の総括を」

   ちょうど一年前の5月8日に新型コロナは5類に移行した。つまり、普通のインフルエンザと同じになった。これまでの3年余りの日本のコロナ対策を今こそきっちりと総括しておく必要がある。
   鈴木亘学習院大学教授が新聞紙上で次のように発言した
「日本のコロナ感染者数は世界的にみて桁違いに少なかった。が、感染の波が来るたびに病床がひっ迫した。第3波からは必要な医療措置が受けられずに死亡するコロナ患者が出現し、東京オリンピックの行なわれた第5波では受け入れ先が見つからずに入院待機中に死亡する自宅療養者が250人に達した。これは他の先進国でも珍しいほどの事実上の医療崩壊である。」
   しかし、私たちは、そこから何の教訓も引き出すことなく今に至っている。
今の時期にメディアも積極的に総括の視点でコロナを取り上げてくれたらいいのだが。朝からニュースを観ているがコロナが話題になることはなかった。
 
   これまで、会計検査院や各種調査から得た知見を並べて、過去3年に上る日本政府のコロナ政策についての問題点を明らかにしておく。
まずコロナ予算の使い方について、会計検査院は、その立場から報告をしてくれている。
●会計検査院指摘
・3年間のコロナ対策予算総額は9兆3千億円。
それが真に役立ったのか徹底検証は必要なのは、予算総額4兆7千億円の病床確保料だ。22年3月、会計検査院が不適切な需給55億円があったと指摘した。日経の調べでは、感染ピーク時の病床使用率が都道府県の平均値を大きく下回った404病院に2年間で3660億円を超す額を交付していた事実が分かった。6割超は国公立・大学病院だった。
補助金で病院経営が潤ったことで、非効率な病床を再編する改革機運が後退するなどの副作用も出てきた。日本は人口当たりの病床数が世界首位なのに医療逼迫を繰り返している。役割分担せずに病院が乱立し、医療人材や設備が分散しているからだ。非効率な地域医療体制を改善するにはかねて病床の再編が必須とされてきた。
・緊急対応のコロナ予備費、事業の3割が全額翌年に繰り越していたことが、会計検査院の調査で判った。
予備費は不測の事態に備え、政府が毎年度計上する。使い道は政府が閣議で決める。通常は年5千万円程度だが、コロナ対策では、年5兆~10兆円用意した。検査院は、20,21年度の約12兆6千億円の使い方を調べた。すると58の対象事業のうち、18事業で予備費の全額を翌年度に繰り越していた。
・地方創生臨時交付金は20年度にコロナ対応として国が地方に配った。23年度までの累計が18.3兆円に及ぶ。その使い方が、例えば、石川県の都庁では、巨大スルメイカのモニュメント「イカキング」の政策に使われたり、広島県三次市では、20年度に公用車10大を購入した。京都府向日市では着ぐるみのスペアを300万円で制作した。
●補正予算が拡大していった。
コロナ感染が拡大していった20年度から22年度までの3年間で補正予算は約140兆円に達した。予算は、コロナ対策として多方面に充てられた。その一つ一つが有効であったかどうかの検証が必要だ。
例えば、20年4月に決定された一人当たり一律10万円の特別定額給付は、多くが貯蓄に回り、消費の喚起という目的を外している。貯蓄額を可処分所得で割った家計貯蓄率は20年度に12.1%と19年度の3倍を超す状態だった。
 休業者向けの雇用調整助成金は23年3月末まで延長を繰り返し、約6兆円を給付した。そのため財源である雇用保険財政が枯渇し、一般会計から借り入れる異例の措置を取らざるを得なかった。
国会で問題になった「予備費」も同様だ。例年5000億円ほどだったが、23年度予算でも5.5兆円と高止まりしている。国会の監視も届かず、政府の都合で支出できるものだけに問題がある。結果、国際通貨基金(IMF)によると、日本は、地方政府なども含めた債務残高はGDP比で260%に達していて、第2次大戦期を上回る状態になっている。
●コロナに便乗
 日本経済新聞は、政府が予算の支出先や事業の達成度を示す行政レビューシートを調査し、コロナ関連事業をチェックした。その結果、20%が「国土強靭化」や「地方創生」など別の目的で始まったコロナ禍前から存在する事業だった。そして、それらの事業の平均執行率が75%でコロナ前に19年度比で10%下がっているのだ。コロナ予算全体を膨らませ、需要乏しい事業を延命させ、なおかつ未執行の予算を多く抱えることになったのだ。
●露呈した「バラバラ行政」
   国が接種の進捗状況を一元的に把握できていなかった。
21年2月、コロナワクチン投与開始時には、自治体ごとに接種県が発行され、接種記録も各々が管理していた。
役所の電算化が加速した70年代以降、電機大手が行政へのコンピュータ導入を競った。その結果、自治体ごとにシステムが異なり、役所内でも業務単位で別のシステムが用いられた。そのため、一元化することが困難で、その弊害は、国民一人当たりに10万円を支給した特別定額給付金に露呈した。これら一連の騒動は、21年9月のデジタル庁発足に繋がっていくが、十分にクリアできているとは言えない。
さらに
●23年11月、会計検査院報告:政府系コロナ融資、不良債権6% ゼロゼロなど8700億円
   政府系金融機関が中小企業に行った新型コロナウイルス対策融資で不良債権が拡大している。実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)などの不良債権が2022年度末に約8700億円と全体の6%になったことが会計検査院の調べで分かった。回収不能額は既に697億円に上る。民間の融資分も含めれば不良債権は2兆円を超す可能性があり、スピード優先の副作用が出ている。
検査院は11月7日、官庁や政府出資法人を調べた22年度決算検査報告を岸田文雄首相に提出した。検査で税金の無駄遣いを指摘したり改善を求めたりしたのは344件、
併せて日本政策金融公庫と商工組合中央金庫によるコロナ対策融資の検査結果を示した。同貸付は国が財政援助しており、焦げ付きは国民負担になる恐れがある。検査院は債務者の状況把握を適切に実施するよう求めた。
   ゼロゼロ融資はコロナ禍で需要が蒸発した中小企業の資金繰りを支えるため20年3月に公庫や商工中金など政府系金融機関で取り扱いを始めた。
融資要請が殺到し同年5月から民間金融機関でも受け付けるようになった。合計の利用件数は22年9月末時点で約245万件、実行額は約43兆円にのぼる。民間分も同様の傾向ならゼロゼロ融資全体の不良債権は単純計算で2兆円超になる可能性がある。
   公庫と商工中金の22年度末までの貸付実績は19兆4365億円で5兆582億円が返済され、残高は14兆3085億円だった。回収不能額を減損処理する「償却」は697億円あった。
「正常債権」は13兆5064億円だった。回収不能の恐れがある「リスク管理債権」が8785億円、公庫が回収不能の可能性が高いとして償却した「部分直接償却」が1246億円あった。
リスク管理債権の額は20年度末の3倍強になった。8785億円の内訳は、返済が3カ月以上遅延したなどの「要管理債権」が4929億円、経営・財務が非常に悪化した「危険債権」が3731億円だった。経営破綻先の「破産更生債権」などが124億円だった。
ゼロゼロ融資はコロナ禍で中小企業の資金繰りを支え、倒産や失業者の急増に伴う社会不安の抑制に効果を発揮した。半面、スピードを重視した結果、すでに経営が行き詰まっていた企業を延命させたり審査が甘くなったりする副作用を生んだ。
金融庁によると銀行や信金など民間金融機関の融資に占める不良債権比率は22年3月末時点で1.6%。民間を補完する役割の政府系金融機関の不良債権比率はおのずと高くなりがちだ。
   ゼロゼロ融資を利用した企業の倒産は増えている。東京商工リサーチによると20年7月から23年9月までの累計の倒産(負債額1000万円以上)件数は1077件。23年4〜9月は333件で前年同期比44%増えた。23年5月から5カ月連続で50件を超えるなどペースは速まっている。

これだけの問題があったのだが、それに対する政府からの回答がない。このまま忘られて行って、また同じ過ちを繰り返すことになるのだろう。
コロナ禍の総括はこれに止まらない。
 

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