箸使いの話

登場人物:M子、A男、E男
*この話はフィクションです。

ここは港区内にあるとあるバー
「M子さん久しぶり。グループLINEに載ってたのって例の彼氏ですか?」
「A男さんお久しぶりです。いえいえ、あの人はE男さんですよ、私の上司の」
「あー、そうなんだ。E男さんとは長らく会ってないから勘違いしちゃったよ」
「他の人も勘違いしているかも知れませんねぇ」
「で、どうなの?彼氏さんは?」
「さっきまで銀座でE男さんと飲んでて、相談してたんですよ。そしたらM子さんがもっと鷹揚になって受け入れないとって言われちゃって」
「ふーん、何か気に入らないことでもあるの?」
「彼のことは好きなんです。優しいし何でも受け入れてくれると言うか。でも礼儀マナーで気になることがあって。箸使いがすごく変なんです」
「そっかぁ。箸使いは気になるよね。今日もランチで横の席に座った女性の箸使いが気になっちゃったし」
「ですよねぇ。父なんか箸使いの悪い奴とは食事しない!って宣言しているくらいで、こんなんじゃ紹介もできないし。直して欲しいって言ったんですけど」
「大人になるとなかなか難しいよね。子供の時なら親が言い聞かせて無理やりできるけど、大人になると自分の意思になるから」
「そうなんですよ。誰がそんな箸使いのルールを決めたんだって言うくらいで、直す気がないみたいです」
「気になり出すと余計に気なるよね。まぁそのくらい我慢すればいいと言ったE男さんのアドバイスも分からないでもないけど」
「そうなんですけど。マナーに関してはもう一つ気になることがあって、カトラリーの持ち方なんですけど」
「単純にナイフは右手、フォークは左手に持てばいいんじゃないの?」
「はい。それを逆に持つんです。右手にフォーク、左手にナイフみたいに」
「ナイフは右手、フォークは左手はプロトコールみたいなものだから周りから見ると奇異に映るよ。マナーって同じ時間、空間を共有するもの同士がお互いに不快感を与えないため、気持ちの良い時間を過ごしてもらうためのものだからさ」
「そうなんですよ。まさに私を含めて周りの人達のことはどうでもいい、ただ自分が良ければそれで良いってことですもんね」
「郷に入りてではないけど、例えばインドだと左手は不浄の手とされているから絶対に右手で食べるよね。そこに左手でカレーを食べる人が現れたらギョッと思われちゃう」
「誰が決めたルールだって言いながら左手で食べちゃいそうです。彼は左利きだから」
「そんな些細なことでって言う人もいれば、そういうのは絶対無理って言う人もいるだろうね。ルールやマナーって周りを不快にさせないためのものだから順応性も疑ってしまう」
「ですよね。実は明日会う予定なんですけど、今日も会いたいからってメッセージしたんです。そしたら今日は疲れているから予定通り明日にしようって」
「早朝の国際便フライト帰りのM子さんよりも疲れている人は、せいぜいパイロットくらいしかいないでしょ」
「そうですよ。もう明日も会わなくていいって送っちゃいました」

続く、かも

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