ダメ元で起業したら一年も生き残れてありがたかった話

こんにちは。Scientist/Developer Relationsとして気ままに活動しているじゅんです。Hokkaido MotionControl Network(#DoMCN)というxR開発者コミュニティの活動お知らせ担当もやっています。

 本日が個人事業主登録からちょうど一年になりますので、振り返りを簡単にまとめたいと思います。コミュニティの話は出ません。今回の対象の読者は『○○したいんだけど仲間や事業会社がいないので仕方なく起業だけした』人です。狭い。

「バイトした」

 今年度の一年でお仕事をさせていただいた相手は、株式会社金星さま、北海道大学URAステーションさま(複数回)、北海道立総合研究機構(道総研)、株式会社ホロラボさまです。ありがとうございます。
 金星様ではVR・AR関連の継続的な情報収集と社内チーム作りのお手伝いを行いました。去年3月に行った社内向けセミナーでは当時の予測を盛り込んだりして、オンライン時代の知り合い作りの重要性を説明したりもしました。

 北大URAステーション様では、当局主催イベントのオンライン化のアドバイスと本番当日の現地見守り係をさせていただきました。セミナー・ワークショップと続いて、最近はVR関連機器の出張体験会などもさせて頂いております。

 北海道立総合研究機構様では、工業試験場主催AR/VR 活用オンラインセミナー&オンライン情報交換会の運営アドバイス&小ブース登壇を行いました。関わるのは今年で3年目ですが、ただの客→Holo体験会要員→スピーカーに進化しています。

http://www.hro.or.jp/list/industrial/research/iri/news/20/work/202012arvr_seminar.pdf

 株式会社ホロラボ様では3月までのキャンペーン対象になっていた「ファーストラインワーカー」シリーズをサポートする係として、あれやこれややらせてもらいました。お客さんに使い方をデモしたりする役もヘルプで入りました。

 お仕事を頂けるみなさんありがとうございます。各仕事を終えた時の振り返りは記事末尾にまとめてリストします。

心がまえ

 お仕事を頂ける以上は価値を提供して効果を実感して頂かないとダメでしょうというのはもちろんですが、それ以上にフリーランスとして猛烈に心がけている事があります(正しいかどうかは知らない)。「人のまねをしない」「競争にしない」「ステークホルダ(関係者)を最少にする」の基本3つと、『痕跡を残す』『あらゆる仕事をコミュニティまたぎの構造にする』『Not sell "to" the community』などのコミュニティならではもののセットです。私がパラレルワークで疲れないために実践しています。

人のまねをしない

 自分の軸は、科学者がユーザとしてxR技術を導入するのを助けるというものです。これは二年かけて全国の自然科学の所属学会を視て回って、専業の人がどうやら居ないし増えないという事に気づいた事に基づきます。2017年当時に自分が助けてもらいたかった人に自分自身がなってみるという方針で現在の活動内容を決めました。当然この時点で競合はいません。
 お仕事を相談してきた方とお話する上で、過去のxR技術応用で似た事例を思い出したりします。そういう時はムリに自分が頑張らず、事例の実行者の存在を公開情報添えて教えたりします。先行者に単純に追いつこうとしても先行者の劣化版にしかなれないので、もし可能なら一緒にやれた方がみんなハッピーだよね!という発想で動いたりします。
 一方でまったく聞いたことが無い内容だったら、新しいオリジナリティに繋がるかもしれないので、調査ついでに請けてみたりもします。意外な知見が溜まって、しかも多方面に展開できて面白いことが多いです。
 マネをすること自体が悪いという訳では一切なく、比較的多くの人ができそうな仕事を請けすぎてしまうと誰でも出来そうな仕事に生活時間が埋め尽くされる結果を呼んでしまう事を意図的に避けています。競合がいないのにわざわざ競合の多い分野で活動するメリットはそんなにないはずです。

競争にしない

 時々「あそこはあれだけ活動が多くてうらやましいなぁ」と思う時は正直あります。その邪念に負けて自分で同じことをしようとすると多分詰みますのでぐっとこらえて別のやるべきことをします。
 上はオリジナリティ軸での心配で、この場合は価格面の心配をします。個人の規模で出来る事はそんなに多くはないので、同様のサービスのうち組織で取り組めることと競争になってしまうと単価が組織基準になってしまうなるため、分業できない個人は消耗します。それを避けるため、名指しを得られる構造に身を置く努力をします。

ステークホルダ(関係者)を最少にする

 価値を提供して報酬を得る際、直接のお仕事先とは伝言ゲームの構造を作らないようにしています。説明の伝達ミスの修正などの本質的でない作業に私が疲れる割合が上がるためです。そうならない様に、現場担当者と最高責任者の方を常に会話に巻き込み続ける仕組みを先に作ったりします。最高責任者の方にLinkedinなどで知られる→現場担当さんと詳細をつめるみたいな流れを意識しています。HoloLensの体験会の人数制限を納得いただくと自然にそうなることが増えました。

『痕跡を残す』

 個人ならではの戦略その①です。やったことの振り返りはいつでも取り出せるように記事にまとめておきます(今回の記事のように)。クリエイターの方のポートフォリオ・学者にとっての論文業績の代用に使う事を想定して、お仕事先との相談においては公開可否を必ず確認するようにします。後述しますが仕事実績の共有は本人の宣伝のためでなく、別コミュニティへの知見の還元の意味合いが強いので、出せない場合はほぼ受けないようにしています。自分が忘れる前に #アウトプットファースト で書いてしまってお仕事先と公開内容の調整を行います。

『あらゆる仕事をコミュニティまたぎに』

 個人戦略その②です。個人的なツテからお仕事を増やす場合がほとんどですが、その時の知見を別のコミュニティにも活かせるだろうという閃きがよく起きます。自分の場合はxR系コミュニティとDevRelコミュニティの誰かと関係する仕事だと気づくことが多いです。時々コミュニティマーケティングコミュニティかな。また、DevRel→大学コミュニティと知見を輸入するパターンも良く見つかります。
 そこで、記事化して公開許可もお仕事先から得る事ができれば、当該コミュニティに向けて発信します。私と似たようなことに課題意識を持ってくれている方が率先して拡散してくれるので、結果的には必要な人にしか届かないPRになります。

『Not sell "to" the Community』

 コミュニティマーケティングの黄色い本(@hide69oz)には、基本は「Sell to the Community」ではなく、「Sell Through the Community」であるという説明が何度も出てきます(8Pとか33Pとか必読)。コミュニティメンバーの内部に自社の何かを売りつける方式は技術好きメンバーへの訴求力が下がるかもよって内容です(雑な理解)
 私の場合は知見を短く還元するだけで特に何も売っていないので、前の段落の話については『Share through the Community』になっている感じがします。押し付けになって迷惑にならない様に各コミュニティの文脈を捉えるようにする部分が特殊な作業になります。基本的には話をよく聴いてタイミングなども判断しています。
 ちゃんと刺されば前向きなフィードバックが得られるので、その顛末をお仕事先に共有しなおすこともあります。

一石四鳥システム

 フリーランスが自分の時間の切り売りであることは否定できないので、それで自分自身がぐえーってならないためにどうしたらいいのかを模索しています。現段階でのモデルが、一行動で2コミュ二ティに作用する一石二鳥システムです。例えば大学のセミナー運営サポートのお仕事でまとめたオンラインイベントの設計法などは非同期コミュニケーションの促進法だったりもするので、対面とメールがベースなコミュニティに必要とされる知見にもなります。そこにも共有して実践例を渡すことで、記事化による大学コミュへの共有用資料の役割以外にも、ビジネス界隈への導入手引書の役目を果たします。この時、二種類のコミュに影響を与えていますが私個人の行動の数は一つです。領域またぎをすることで実質二回行動になっています。

 これを拡張していって、自分の一つの行動が同時に複数種類の業種に価値を与える事ができれば、シングルタスクの私(しかも動き遅め)であってもなんかいっぱい仕事した感じになります。今年のバイト実績を抽象的に書き直すと、人材育成・コミュニケーション設計実践・オンラインイベント設計実践・カスタマーサクセスの内容を、ビジネス・大学・研究機関・xRの四領域横断でやってそれぞれに対して知見共有が継続的にできる状態という事になり、最大で一石四鳥くらいにはなったみたいです。そして、お仕事先限定で知見共有していくわけではなく、必要とされる空気さえあれば学会発表すらもします。DoMCNのコミュニティ活動(主にコミュニティ間連携)は別軸でやっているので、知見共有・実践の場はもっと多くなります。

 一社・一組織にジェネラリストとして所属して所属先の利益を最大にしようとする社会人の多くのパターンと決定的に違う点がここだろうなと思います。とはいえ、6か条すべてが絶対守れないと仕事受けない!という事でもなく、依頼の内容を訊いてみてこちらで発信内容を適宜考えて相談したりしているので柔軟運用です(組織で出来ない動き方なので組織を辞めたのであって、相手先の会社がもしそれできてたらそこ入りますw)。

パラレルワークとの違い

 最近パラレルワークという楽しそうな働き方が注目を集めているようです。売れっ子のフリーランスの方が複数社のお仕事を請けて同時にこなしている様子が見られます。たぶん彼らに仕事を依頼している企業同士はそんなに関係がないんじゃないかなと思います。
 一方自分の場合は多分ちょっと違う事を考えていて、A社の仕事をしていないB社の仕事をしている時に実はA社の貢献もしている、という構造をあえて作っています。例えば学会の懇親会にHoloLens付けてzoomに映っていたらなんか聞かれうるわけですよね。そこでちゃんと真面目な質問もしつつ(こっちが本業)、Holoについてのデモも聞かれて即興でやれば学会への知的貢献とxR業界の活動周知の両方をやったことになります。同じ技術領域の別々の会社からの仕事ではなく、別々の技術領域の別々の仕事を請けておくことで、一つの行動から数種類の効果をそれぞれの領域に及ぼすという設計をしています。
 パラレルワークの仕事を処理するときはそれぞれのタイミングで一社のために作業するのに対して、一石四鳥システムは関連している全社のために動くという点が違います。まだ模索中なので技は少ないですが、こういう事をしているために、一般のフリーランスの方よりは遥かに働いていないと思います。不思議。ちなみにこの方法は各会社への貢献度合いが定量化できないため、100%儲かりませんので、お金がいますぐたくさん必要な方はやらない方がいいです。

やってみてどうだったか

 当然ながら万人におススメできる働き方ではないです。というのは、個人の能力と環境と友達に成否が大きく左右されるからです。私の場合は大学院時代に訓練された内容が今ごろになって生きている感じです。

①一次情報にアクセスする(鵜呑みはしない)
②人まねにならないよう調査と吟味をする 
③チームビルドも大事 
④ゼミの運営経験がコミュニケーション設計に直結
⑤論文を書くための文章構成と論文査読するための論点整理
⑥具体例から一旦抽象度を上げて別の具体例に落とす
⑦テーマ実行者が全世界で独りでも平気なメンタル

これらがたまたまある状態で始まったので、精神に悪そうな心構え6か条を行動ベースで死守できている気がします。これは訓練で全員会得できるものではないです(自己矛盾のようではあるけども)。想像力をめちゃくちゃ使うので、この素養が無いと無理でしょう。

 これを踏まえたうえで、上記の業種横断パラレルワークする事は自分自身にはベストフィットです。自分の行動のすべてが、どこかしらの仕事に繋がっている状態になっているので、普段の生活に謎の後ろめたさが無く自由にやっています。勉強会に出るだけでも一苦労だった昔の記憶からは解放されました。あとは、同じ志を共有できる方がその都度助けてくれることが増えているので、その方々に感謝しています。

 仕事相手は多くなりすぎないようにして、とりあえず最低限の生活ができるだけのお仕事だけしています。そして生まれた時間的余裕を全て研究会巡り(+コミュニティイベント)に突っ込み、単発のお仕事で生まれた金銭的余裕を機材に突っ込んでいます。始めた時からずっとこうですが、信頼を損ねる行為をしないで長い間やっていると、口コミ効果が出始めて、だんだん依頼の幅が広がって行っています。人のつながりを大事にして活動していると個人の信用に複利効果が付いていくので長期戦に強いと思います(来年度が同じかどうかは知らない)。

 去年の事業主登録はある種のギャンブルでした。個人宛の公的な経済支援が自分にはほぼないだろうと予測して消去法で事業主になってみただけだったのですが、結果的には融資・補助関連は一切受けることなくここまで生きて、正直びっくりしています。なんと辞めるのも楽。開業前には今頃もっとひどい事になってるだろうと思っていたのですが、おかげさまでまだ自由に活動を続けられそうな雰囲気があります。

自分は楽しんでますが基本的には他人には勧められない生き方です

 この公私混同スタイルが許される会社とは札幌では巡り合えないと思うので、私にとってはこれでひとまず上々です。楽しくやれているのでもうちょっとやってみようと考えています。ただし私の様になろうとしても状況の再現性は限りなく低いと思われるので、私のまねも勧められません。緊急事態からそろそろ一年経っちゃってるので、今から始めるとしたら必要な戦略も違います。自身のやりたい事を既に取り組んでる会社があるのならばそこに入る努力をした方が絶対楽で、それが無かったから今模索をしている状態なのです。
 今回は自分の作戦を棚卸していくと初心も思い出されてよいかと思ってまとめてみました。ワクチンが受けられて札幌外に出られるようになったら実験系研究者として全国の実験研究施設を回れるように準備を進めていきます。

 記事公開にあたり、即日OK頂いた各会社の方々に感謝申し上げますm(__)m

(2021/3/31 180min 4953字)