終わりなき旅のはじまり18

初めてのニューヨークはとても新鮮で、目に入るもの全てが刺激的だった。

テラスハウスで過ごすこと2週間、見渡す街並みにすごいすごい、フラッと入った店のステーキを食べてはそのボリュームに感動、マクドナルドに行けば黒人の店員が気軽に話しかけくる、テキーラ飲めばそれとなく何ちゃってニューヨーカーを気取れるような、そんな雰囲気に興奮出来たり、とにかく見るもの全てがこれがアメリカなんだと思う街だった。

幸運にも、マネージャー修行についたロックバンド、ピールアウトの新しいアルバムのレコーディングがニューヨークだった事もあり、下っ端の僕も同伴する事が出来た。

ピールアウトというバンドは、その頃は英語の歌詞で歌っていて、インディーズではそれなりに有名で鳴り物入りでメジャーデビューしたバンドというイメージがあった。

レコーディングスタジオで見てきた名だたるメジャーアーティストしか知らない僕にとっては、これ売れるのかなぁという気持ちがその時はあったのだが、その頃は、くるり、ナンバーガール、ドラゴンアッシュといった、まだ売れる前のバンドがピールアウトの前座をしたり、一緒にライブをしてくださいというオファーが沢山あって、今となって振り返れば、アーティスト オブ アーティストと今でも言われてる何かがあったバンドだったんだなと思う。

レコーディングは、ニュージャージーの木に囲まれたスタジオで、スタジオにある棚には、ボブディラン、ザ バンドなどのマルチテープが置かれてたのを覚えてる。

プロデューサーはマシュースウィートなどで有名なジム ロンディネリだった。

レコーディングの最中、ある出来事が起きた。

演奏に納得がいかなく、何度も同じ曲の録音を繰り返すメンバーを見て、ジムが言った。

「テキーラでも飲むか。」

仕事中に?と思う局面である。

テキーラをメンバー、スタッフに振る舞ったジムは、スティービーワンダーの曲をスタジオに流した。

「この曲をよく聞いてみて。スティービーは、この曲の中で四つの場面で演奏のミスがあるにも関わらず、このテイクを選んだ。何故だか分かる?曲全体を通して1番気持ちが良いのをスティービーは選んだんだよ」。

この言葉と、流れてきたスティービーワンダーの曲と、テキーラがもうとにかく気持ちが良かった事、今でも忘れない瞬間だった。

この後のレコーディングが素晴らしいものになったのは言うまでもなかった。

レコーディングを終え帰国した僕を待ってたのはもう逃げたしたいと何度も思った、日本全国、ワゴン車でのライブツアーの三昧の毎日だった。

終わりなき旅のはじまり18。終わり。


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