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アレンテージョの水《29》外出自粛でも旅の気分

リスボン旧市街、ロッシオ広場の少し東側の通りにCASA DO ALENTEJOがあった。あまりにさりげなく、外からはそれがレストランとは気づかぬくらいの佇まいである。アレンテージョとは、ポルトガルの中南部のかなり広い地域を指す。まあ、そんな地理はいい。アレンテージョはワインの名産地なのだ。その、地方料理を出すのがこのアレンテージョ会館。旅の前に読んだ紀行書『リスボン 坂と花の路地を抜けて』(青目海著)にあまりに魅惑的に書かれていたので、地図と番地を頼りに来たこの店。

通りに面したそっけない壁にある扉から入ると、おおっ豊穣というか饒舌というか高密度な装飾に埋まる中庭に出る。スペイングラナダのアルハンブラ宮殿を思い起こすような内部。この内外の装飾落差に圧倒されていたが、ふと人気の少なさに気づく。ほとんど人がいないのだ。いくら南欧とはいえ、すでに夜の8時、夕食が始まっていてもいいだろう。階段で2階に上がるも、まだ人気がない。いくつかの部屋をめぐりやっと人のいるレストランに入れた。2階は中庭をぐるりと囲んでかなり広いのだ。

ガスパッチョ、コリアンダーにポーチドエッグ、豚肉とアサリ、サーモンのグリル、そしてアレンテージョワイン。幸せな夕食となった。レストランの壁は白に紺のアズレージョ、タイルで装飾されている。アズレージョはポルトガル建築の特徴でもあり、白と紺のものが多いけれど他にも多彩なものもみられる。

ところで、この数日前にはポルトにいた。ポートワインで有名なポルトガル第二の都市である。市内を貫く大河ドウロ川に沿って河口の方に散歩した。市街地の少し外れに路面電車の車庫兼博物館があるので、その見物に出かけたのだ。川岸の電車も走る道路を歩いていると、初老のおじさんたちが釣りをしている。平和な光景である。が、そのおじさんから声がかかった。なんだろう、近寄ると「水を飲んでけ」というのだ。水???、まあいい、暑い夏日だから水でももらうかと手を出すと「アレンテージョの水だ」と言ってくれたのが赤ワインの入ったコップ。おおおっ、これかぁとハッピーなプレゼントをいただいたのでした。

こんなこともあって、アレンテージョという地名を一発で覚えたのだった。

#いま自分にできること #アレンテージョ #ポルトガル

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