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【対談】伊東潤 近現代小説の魅力

『茶聖』『走狗』『西郷の首』など、歴史小説の名手として知られる伊東潤が新作に選んだテーマは明治に起こった「八甲田雪中行軍遭難事件」。

今この事件を取り上げた意義や、BC級戦犯を描いた『真実の航跡』、よど号ハイジャック事件をモチーフとした『ライトマイファイア』など、近現代小説に作品の幅を広げつつある想いや背景を、作家の早見俊氏をゲストにお招きし対談しました。

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*近現代作品への思い

伊東潤(以下伊東):2007年のデビュー以来、幕末・明治維新以前の歴史小説を中心に書いてきましたが、2016年に『横浜1963』を上梓してからは、近現代小説も手掛けるようになりました。今回は6月22日に『囚われの山』という作品を発売するにあたって、過去の作品を振り返りつつ、なぜ私が近現代小説に挑戦するのかを中心にお話ししていこうと思っています。ゲストには早見俊さんにお越し頂いています。早見さん、よろしくお願いします。

早見俊(以下早見):こちらこそよろしくお願いいたします。時代小説を手掛けておりまして、文庫書き下ろしを中心に発売しております。

伊東:私の書いた近現代小説を4冊とも読んでくれている作家が、早見さんと誉田龍一さんでした。私も含めた3人に共通しているのは、年齢が近いということと、歴史・時代小説を中心に書いている作家でありながら近現代物にも挑戦しているという点です。
本来この対談は3人で行う予定でしたが、誉田さんが今年3月9日に急逝され、残念なことに対談という形になってしまいました。
私が早見さんからのメールで誉田君の死を知ったのが、3月12日の早朝でした。あまりに急だったのでたいへんショックを受け、その日一日は仕事が手につきませんでした。死因は心不全ということで、何日か前から体調が悪かったと後で聞きました。
告別式にも行きましたが、誉田君は大仏のように落ち着いた顔で、安らかに眠っていました。おそらく苦しみ少なく死を迎えたのだと思います。ご冥福をお祈りしています。

早見:誉田さんの近現代作品は数が多く、今では電子書籍でしか読めないものも多いですよね。

伊東:文庫書下ろしの『ファイヤーファイター』は献本いただいてすぐ読んだのですが、電子書籍までは読んでいません。意外にたくさんの近現代物を書いていたんですね。
誉田君はどの時代の作品も実に読みやすい。ストーリー展開も、うまく緩急が付けてあって巧妙です。以前、彼に現代物を書く理由を尋ねたところ、「ミステリーが好きだから」という答が返ってきました。確かに彼は、マニアと呼んでもいいほど海外ミステリーが好きでした。
早見さんに改めてお聞きしたいのは、近現代作品に挑もうとしたきっかけや、書く意義はどこにあるとお考えですか。

早見:私は元々ミステリーが好きでした。ミステリー作品で新人賞に応募したものの、ことごとくダメだったのですが、ミステリーで育ってきたところがあるので、作家デビューした後も、ミステリーを書きたいという思いを持ち続けていました。時代小説のシリーズものを書くことに重点を置く中で、時代小説におけるミステリーものも書いていましたが、やはりミステリーの王道である現代ミステリーにチャレンジしたい、とどこかで考えていましたね。そこに作家としての間口を拡げたい、他のジャンルも書けるということをアピールしたい、という気持ちも加わっていたと思います。最終的には、機会を得て何作か書くことができました。

伊東:早見さんは、これまで時代小説を含めて何作くらい手掛けているのですか?

早見:180から200作くらいですかね。たくさん書くことは文庫書き下ろしの時代小説作家の生き残りの道でしたので。最近はないのですが、シリーズもので年3作の執筆依頼があったこともありました。デビュー当初から出版社の編集者に、毎月書店さんの棚に載せられるような、選ばれるような作品を作らないといけない、ということは言われていましたね。

伊東:凄い作品数ですね。よくそれだけのアイデアを絞り出せますね。いずれにせよ作家も生き残り競争が激しく、書店さんの平台の奪い合いは激化の一途をたどっています。出版点数も異常に多くなっているので、どれだけ長く平置きしてもらえるかが勝負です。平台の入れ替えも激しいので、常に置いてもらうためには、ハイペースで新作を出し続けなければなりません。

早見:仰るとおりです。特に文庫は2週間くらいですぐ入れ替わります。まさにサバイバルです。

伊東:多くの作品を生み出している早見さんですが、どんな作家や作品がお好きなのですか?

早見:海外でいくとジェフリー・ディーヴァー、R・D・ウィングフィールドが大好きです。どんでん返しが上手い作家に惹かれてしまうところがありまして(笑)日本だと横溝正史さんといった王道はもちろん好きですし、綾辻行人さんや京極夏彦さんは新刊が出れば必ず買って読んでいます。凝った展開や仕掛けを入れてくるので刺激をもらっています。一読者として欺かれる快感を期待している、というところもありますね。

伊東:「欺かれる快感」はいいですね。上質なミステリーを読むと、私も創作意欲がわいてきます。

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