赤い花 第六部

 サトルは、電話越しに母さんに会ってほしい人がいることを伝えた。そして、今度のゴールデンウィークに多分その人と一緒に和歌山へ帰ると言った。同棲をしていることを何となく伝えてはいたが、もともと男三人兄弟の真ん中という気楽なポジションでもあり、「あーそうかい。」といった軽い感じだった。

 兄は東京の大学を出たあと、地元に帰り父の仕事を手伝っている。弟は大阪の大学に通っている。できれば、弟にもいて欲しいことも母さんに伝えた。

 今頃、ミキがミキの実家で話をしているはずだった。今日、自分がやらなければいけないことは終わったと思うと、サトルは向こうの状況が気になった。話が終わった後に一旦連絡があるはずだったから、こっちから連絡するわけにもいかず、かといって、いつ電話がかかってくるかもわからないため、そして、どんな状況になるかも分からないので、何となく外出することが戸惑われた。

 タバコを吸いたかったが、以前ベランダで吸っていたら上の階の住人から苦情が来たため、どうしても吸いたくなったら、外の喫煙所まで行くようになった。落ち着かないまま、コーヒーを飲もうとキッチンへ向かった。

 うまくいけば、ミキの実家に行くことになるだろう。昨日の夜、必死にミキを説得したが、ミキは「とりあえず家族と相談させて。」とだけ言って話は終わった。

 そのあとウチの実家で紹介することになればいい。問題は兄貴も結婚していない中、どう説明するかだ。母さんは、あまり気にするようなタイプではないが、親父は頑固な職人気質もあり、反対するかもしれない。

 電話で、まず話をしてから連れていくべきだろうか。でも、電話越しで反対されてしまったら、それまでだ。ぶっつけ本番になるが、連れていってしまうことが突破口になると思う。いくら何でも東京からわざわざ連れてきた女性を泊めないなんてこともないだろう。うまくいかなければ、一泊だけして帰ってくればいいだけのことだ。

 どうしても悪い方向に考えがちになってしまうが、たとえどんな目が出たとしてもミキと二人でいることができれば、それ以外のことは些末なことに過ぎないと思うと力が出てきた。

 電話が鳴った。ドキドキして画面を見ると母さんだった。弟がゴールデンウィークはもう友達とキャンプに行く約束をしてしまったと言っているという連絡だった。母さんには自分から連絡することを伝えて切った。遊びたい盛りの二回生だ。実家に寄り付かずに友人たちとどこに行くかはしらないけど、こっちを優先させてもらうことにする。年が少し離れている分、あまり喧嘩をしなかったこともあり、弟との仲は良いほうだと思う。が、これくらいの兄のわがままには従ってもらおう。

 弟と話すのも久しぶりだなと思いながら、電話を掛けたら現在使われていないという機械的なメッセージが聞こえてきた。母さんに掛けなおして聞いたところ携帯を落とした時に番号も新しいものに変えたとのことだった。新しい番号を控えて再度電話をしたところ、機嫌の悪そうな声で応答してきた。これからバイトがあるそうだから手短にしてよねと言われたので、「大事な話なんだ。必ず実家に帰ってこい。一日でいいからさ。」と伝えた。それなりに強い口調で伝えたこともあり、簡単に折れた。ゴールデンウィーク全部実家に居ろと伝わっていたのかもしれない。日程調整して帰るようにするよと言ってくれた。

 決まった日程・時間で仕事をしている会社員よりも大学生のほうがある意味、忙しい。その一方で調整もきくもんだよなと自分の大学時代を思い出しながら、ミキと出会った日のことを考えていた。

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