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ポートスタンレー より抜粋『兵器と陰謀』1982 年ブラッセルにて

フランソワ・ミッテランの脳裏には鉄の女に対する賞賛と敵意がある。

 『フォークランド戦争』……このカードに最初に賭け金をかけたのは後にも先にもミッテランただ一人だった。

 二人はこの後、ユーロ通貨導入を巡って確執するのだが……。

 賞賛はコインの表と裏だった。

 ミッテランには彼なりの駆け引きがあった。

 電話を終えた時、エリゼ宮はすでに闇に包まれていた。

 衛兵たちの影が見えた。

 「西ドイツは私に従うしかあるまい。ヘルムート・コールに連絡しろ。我がフランスと歩調を合わせよとな」

 その晩、彼は何気ない顔で夕食をとり、読書に耽った。

       *

 この時……四月三日……ポーツマス港から南下を始めた英国機動艦隊にとってこの『ミッテラン発言』は絶妙な効果を与えていた。

 チェカーズにたむろしていたイギリス戦時内閣はミッテランの真意を見抜いていた。



 「彼がエグゾゼの禁輸措置をとれば、西ドイツは自ずとこちらに『肩入れ』せざるを得ないだろう」

 フランシス・ピム外相はサッチャーに言った。白い髭がかすかに伸びていた。

 「渡りに舟ですな」

 彼は顎を撫でた。

 サッチャーの顔からわずかに笑みが浮かんでいた。

 「アル・ヘイグのこと頼んだわよ」

 ピムは皮肉な顔でため息をついた。

 「もはや、サボタージュには出ますまい」

 前回も彼の提案は絶妙にポイントがズレていた。いや、わざとズラしてあった。

 デニス・サッチャー(夫)がフラットのソファーで洞察してのけたことは図星だったのだ。

「私がアルの捨て石になる気は毛頭ない」

 サッチャーは言ってのけた。



 この時、アメリカ国務省筋には『アルゼンチンのフォークランド侵攻』に、NATО(ブリュッセル)が関与する……ことになるとは、予想はほとんどなかったのだ。

 「フリードリヒ大王曰く、軍勢無き外交は楽器の無いオーケストラ……ですな」

 声がした。

 国防参謀総長テレンス・ルーウィンは遅い夕食の後、チェカーズの地図室に来たのである。

 「マギー、すでに原子力潜水艦はアセンション島近くの海域にいます」

 三日後にはフォークランド海域に到達するという。



 この間、イギリス機動艦隊は絶妙なサボタージュ(時間稼ぎ)作戦に出ていた。

 安保理決議にもとずく『軍事行動』の場合、原則的に『非常にシビアな』規定がある。

 先ず、その『国際法上の効力』が発生するのは、この場合『四月一二日』という日付がになっていた。

 更に『交戦規定』があった。

 交戦可能な地域はフォークランド諸島から半径三七〇キロメートルである。

 これが海上排他区域・МEZである。

 「国際法は守る」

 サッチャーは後に悪魔のような詐術にでるが。

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