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花ざかりの校庭 第二部『ミセス・クロカワの野望』その3

田畑高志はベッドのなかで、麻里を優しく扱ってくれた。

果てたあと、急に仰向けに寝転がる。

射精してから後、だるく、なにもする気がしない。 

麻里は男の体を少しずつ学んでいった。

その時に、さりげなく彼はキスをしてくれた。

そして抱き締めてくれる。


最初は私のこと、気を使ってくれているのだ……。単純に思った。

何度も愛撫しあい、繋がる度に、彼に対して愛情が深まっていった。

放したくない。

自分を大切にしてくれる。

麻里はそれがいとおしくてならなかった。




   ★★★★





麻里は試験の準備を終えて、早朝に床につく。


どうだったんだろう?


麻里は試験の前日、父と母の過ごした日々のことを考えていた。

やがて、床のなかでうとうとしていたが、携帯の着信に気がついた。

「……!」

麻里は高志かと思った。

胸が高鳴る。

見るとしおんからだった。

「……はい?」

……差し入れ持ってきた。

「今、どこ?」

ふいにチャイムが鳴った。

「もう来てるわけ?」

麻里はドアをチェーンを外した。

「あたりー!」

しおんがショッピングバッグを差し出す。

「どうせ今から頑張っても明日の試験に影響はないでしょう!」

なるほど、それは言える。「どうぞ」と麻里は彼女を招き入れる。しおんは「これね」と言って差し入れを麻里に渡した。

中には『倉木商店』という荒いフォントのロゴみたいなのがプリントされた紙袋が入っていた。

よく見ると、ロゴの下にsince 1939という数字がみえた。

多分、西暦だろう。 

かなり古い店だ。


ドアを開くと肌寒い外気が入ってくる。

霧がかかっているのだ。

しおんが部屋のなかに入ってくる。

「あっ」

と、しおんが声をあげた。

眼鏡が曇っていた。

麻里は寝間着にしていたジャージの匂いに気づいた。

つまり、男の匂い…?

ヤバい。

「ちょっと着替えてくるから」

麻里は洗濯機のあるユニットで替えのジャージーに着替えた。

なんという敏感さだろう……。

麻里がLDKに戻るとしおんがぼんやりと突っ立っている。

顔が赤くなっていた。

「私、思うんだけど。芳香剤、おいておいたほうがいいね」

「……はい」

子犬のように鼻をくんくんさせている。「バレバレよ」と、歌うように呟いた。

「……彼の匂い」

「ちょっと、やめてよ」

しおんはニヤニヤしている。

「あの夜、二人の関係は進み……」

「やめろ、しおんっ!明日は試験……なの」

「ねぇ、浅子さんは?」

「いない、外を見たらわかるでしょ?」

しおんはベランダの外を見た。

「ホント、フィアットないね」

紙袋からクラブサンドを出してくる。

「あの人、お金持ってそうだから…、ねぇ?」

眼鏡の奥で彼女は意味ありげに笑っている。

「何?」

「ついでに卒業したら浅子さんにあのクルマも譲ってもらえばいいんじゃないかな?」

「……バカな」

しおんは高校最後の冬休み……滋賀に帰省するという。

昨日、連絡があったそうだ。

12月のクリスマスには雪が降り始める。

そのまえに一度帰省してほしいという。

「で、貴女は今年のクリスマスは高志くんと二人というわけですかね」

「……えっ?」

赤くなる。

生まれて初めて、彼氏と過ごすクリスマス。

となるが、

すでに窓の外の秋色は深くなっている。

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