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ポートスタンレー『ローマ条約・第131条』1982 年エリセ宮

【歴史的資料のため西側のものを参照してます。あらかじめご了承ください】

「すでにペルー政府は我々の提案に合意しています」

 ガストン・ドフェールは軽く頷いて見せた。

 ミッテランは秘書<愛人?>を呼びだして尋ねた。

 「フォークランド海域の風力は今、どれくらいかな?」

 風速で一八ノットある。

 この時期の南半球は途轍<とてつ>もない天候になる。

 「トビウオにはまさにうってつけの漁場だな」

 トビウオ……つまり『エグゾゼ』。

 「ペルーを経由して、アルゼンチンのガルチェリのもとに届けてやるつもりです」

 彼は愉快な顔をしていた。

 兵器マーケットでエグゾゼは高値をつけた。

 「下手すればポンドがまた大暴落しますよ」

 「また……かね」

 絶妙にガストン・ドフェールの顔に嘲笑の色がよぎった。

 この戦争は経済戦争でもあった。

 「私は嫌いだが……あのド・ゴールがアメリカのむこうを張った時もポンドは暴落したからな」

 「あの時のイギリスはIМF国家の仲間入りでしたな」

 ミッテランは乾いた笑いをした。

 「まあ、ド・ゴールが六十年代にやった手口とは違うがね」

 ド・ゴール……彼はフォートノックスに眠る金塊を、彼はフランスルーブルで長い期間兌換し続けた。



 そしてアメリカ合衆国が『ヴェトナム戦争』に突入していた時、彼は『アメリカは世界にインフレを輸出している!』そう高らかに宣言した。

 さらに「ルーブルと金の兌換比率を二倍にすべし」

 こうプロパガンダする。

 この一瞬、アメリカの金本位制は化けの皮がはがされた。

 同時に、英国ポンドは大暴落している。

 ここでド・ゴールは脅威の一手を打っている。

 ソ連と通商協定を結んだのだ。

ニクソンショックの遠因は『ド・ゴール』の経済戦争である。

 フランソワ・ミッテランはイギリス機動部隊が本格的な攻勢に出たと知るや、ペルーのベラウンデ大統領に『たちの悪いオファー』を申し出た。

 「わがフランスは、エグゾゼミサイルを貴国に輸出する用意がある」

 そして貴国ペルーは、それをガルチェリのもとに輸出するのだ。

 陰謀の真骨頂であろう。



 そうすればサッチャーはアルゼンチンに屈服し、アメリカの裏庭は蜂の巣をつついたように分裂するだろう。

 「エグゾゼは高値でさばける」

 或いはミッテランこそサッチャーより過激な人物であろう。

 他国の戦争を煽り利を得る。

 NATОそしてECでの常駐代表者会議での『ローマ条約第一三一条』に真っ先に拍手を送った……このしたたかなド・ゴール主義者は、彼一流の手口で今度はイギリスの欧州からの分断をはかる……。


 果てしもない欺瞞<ぎまん>の上にヨーロッパの「平和」というものは成り立っているのだ。

       *

 「ミッテランが動き始めました」

 国防相ジョン・ノットはイギリス戦時内閣の法務総裁マイケル・へイヴァースにこの事を聞いた。

 「エグゾゼを『ペルー』経由でアルゼンチンに搬入しようとしています」

 この情報はすぐさまダウニング街十番の首相官邸を戦慄させた。

 駆逐艦シェフィールドが撃沈されたことで、下院議会でジョン・ノットは労働党から激しく攻撃されていた……その最中である。

 この時、ペルーのベラウンデ大統領は国連で『英国はアルゼンチンと同じテーブルについて交渉を始めよ』と発言している。

 フランシス・ピム外相は苦い顔をしている。

 「ここでペルーがエグゾゼミサイルを陸路でアルゼンチンに搬入すれば、イギリス機動艦隊は確実に殲滅されます」

 サッチャーは眉をひそめた。

 「そうきたのね」

 「ミッテランならやりかねません」

 ピムは言った。

 「仮にエグゾゼが大量にアルゼンチン軍の手に渡ったら……」

 空母『インヴィンシブル』『ハーミーズ』は確実に撃沈されるだろう。


 更にムーア司令官のコマンド三二〇〇名がフォークランドに上陸作戦を決行していた場合、彼らは壊滅的な打撃を受けるざるを得ない。

 『戦死者・戦傷者』

 この数こそ、サッチャーを怯えさせた。

 彼女の統治している国は、アルゼンチンとは違う。

 

👆ミッテランティーシャツ(まさに時代ですね😃)



 国防参謀総長のテレンス・ルーウィンは重い口を開いた。

 「マギー、上陸作戦の決行の指示は少なくとも今日中に決定せねばなりません。ペルーの国連発言と同時に、デクエヤル国連事務総長が仲介に出ようとしてます」

だが、その交渉のテーブルに着けば、必ずや『フォークランドの不法占拠』はうやむやの内に封じ込められるだろう。

 そして結果的にイギリスは泣き寝入りさせられる。そしてフォークランド島の住民もだ。

 「フォークランド戦争は危険すぎる」

 ロナルド・レーガンの言った言葉が頭をよぎる。

 サッチャーは官邸の窓に目をやった。

 闇……が続いている。

 彼女たちの世代が知っている闇。

 ヒットラーの支配したヨーロッパを覆ったあの暗闇。

 ふいに、十代の頃感じた死の気配が彼女を包んでいた。

 フランシス・ピムは口を開いた。

 「国連のデクエヤル、国連監視下で停戦をオファーすると言ってますが」

 サッチャーは微かに震えていた。

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