見出し画像

花ざかりの校庭 (修正)

なにやら込み入った話になりそうなんだ。

浅子は呟く。

「どうすればいい?」

帰るとはさすがに言えないのだ。

彼女が自分の前で倒れた以上、それは身勝手である。

支払いが終わると、彼女は立ち上がった。

そして病院の裏手にある庭に面したところに腰をかけた。

「……ダメね、私。悪人にもなれやしないし」

そう言うと、浅子は舌打ちしていた。

……嫌だな。

「……俺のこと?」
「ううん、自分のこと」
「お互い遊びとかいっておいてさ、遊びで終われなくなったみたい」
ねえ?あの子のこと……好きなんでしょう?
浅子は言った。
高志は何かを言おうとすると、彼女は慌てて言葉を遮った。
高志は俯いたままだ。
「……割りきってたはずなのに」
彼女はカランとした空洞を覗きこんているような顔をしていた。
やがて、景色がまた遠のきそうになる。
浅子は椅子の背もたれに仰向けになってため息をついた。

浅子は高志を見た。

……よく似てるんだ。
え?
貴女と。

浅子は彼をじっと見てから、

「……あの子?」
「うん」
「高志くん、あんた将来、すごい女ったらしになると思う」
「え?」
彼女は鼻に皺をよせる。
何かを嗅ぎ付けた時のように。
「……アディクション…、私を少しは哀れんで」
そういって、寝癖のついた髪を整え始める。
ふと、手を止めて、笑う、
「他の男だったら冷めちゃうんだけどね。あっさりと」
浅子はマールボロに火をつけようとした。
「……ほら。ここ病院だぜ」
高志は素早く彼女のタバコを取り上げた。
「あ、ごめん」
浅子はあと少ししか入ってないマールボロの箱を手にしたまま、病院のテラスから見えるビルを眺めた。
秋晴れの中で遠く感じる。
彼のことを……ヤバいくらいに好きになってる、
このまま一緒にいると、胸の中で泣き出しそうで、ぎゃくにがさつに振る舞ってしまう。
彼女はジップのパーカーを着た。
秋の風が湿った草木の匂いをはこんでくる。
「あっ、今、妄想した」
彼女はマールボロの箱をゴミ箱に放り込む。
「……妄想したよ、私」
「何を」
浅子はクスッと笑った、
「あの子と高志の仲を壊しにいくとか」
「……悪魔か!」
「ホント、私、悪魔よね」
一瞬、空を見る。
彼女はアンジーを口ずさみながら『エッチな妄想でもできたらいいんだけど』と。
彼女はひとりごちている。
「体とかじゃなくて、心があの子に向いてるのが辛いし。マジで」
「アレは……」
「はぐらかすなよ」
浅子は真っ赤になった。
「はぐらかすしかないじゃん。俺たち。心は便利にできてないし」
「バカ、あなたをどうやったら忘れられるか、必死なんだから。優しくしないで、ホントに好きになってるんだから!」
彼女は経験がなかったときのように恥ずかしくなった。
彼を今は離したくない。
まるで溺れていくように、彼を愛し始めている……。
浅子は舌打ちする。
……別れなきゃ。
この恋はヤバい。
でもどうやったら忘れられるの?
浅子は芝生のくすんだ青に目を落とす。
このままでは、自分が壊れてしまう。
そのくせ、彼は彼女を欲しがる。
彼女は思っていた。
「もう、帰ったほうがいいよ」
彼女は言った。
しばらく黙ったあと、高志は言った。
「そうしとくわ」
高志が去ったあと、ふいに悲しくなる。
彼女は慌ててパーカーの裾で頬を隠していた。
もう随分泣いたことがなかったのだ。

よろしければサポートお願いします🙇⤵️。