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書評 「ギンガ」 山本精一

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あまちゃんのOP曲の作者 大友良英氏に「現代日本純文学三部作」と言わしめた、大阪の奇才ギタリスト 山本精一氏のエッセイ集の第一作目を紹介します。

山本氏の文章を読んだのは、私が高校1年生か2年生の時。当時、ギター少年であった私は、雑誌「ギターマガジン」を愛読しており、限られたお小遣いで買った雑誌の元を取ろうと隅から隅まで、興味のない記事まで目を通していた時に、山本精一の連載コラム「ギタバリョー」を読んだのが最初だ。

今回紹介する「ギンガ」はその連載をまとめた単行本として発刊された本である。

最初は「不思議で変な文章かく人やなあ」という程度の印象で、また、文章から想像されるイメージも、華々しいロックギタリストとはかなり違った印象を受けたが(実際にそういうギタリストではない)、山本氏のプロフィールを調べてみると、当時在籍していた「BOREDOMS」というバンドのギタリストで、あのNIRVANAのアメリカツアーを同行したなど、数々の伝説的エピソードがあり、自分の中での山本氏のイメージが「変な文章を書く変なギタリスト」から「世界をまたにかける凄腕ギタリスト」へと格上げされた。

※NIRVANAのツアー同行時の映像

この「ギンガ」の内容だが、非常階段 JOJO広重から「音楽界の最大の奇人」と言われた山本氏の人間性が、文章にも直接的に表現されており、この異様で危険な匂いを漂わせる文章が私を魅了するには、そう時間はかからなかった。

エピソードを一部紹介すると、西成暴動で駅を燃やした話、パリの地下鉄で繰り広げられたホームレスのおばあさんとの死闘、税務署員の無礼な対応に激怒し正座で謝罪させた挙句、税金を納めずに帰宅する話など、この内容を聞いただけでも、この本の危険度が十分に伝わるかと思う。

上の3つほどのエピソードは、この本が語られる際に頻出する話であるが、個人的に好きな話は、ギターのレコーディングの時にギターを忘れ、ギターを取りに帰った途中で食事や本屋など寄り道をして、スタジオに戻ったけど結局ギターを忘れていた話、引越しで雇った赤帽のおっさん達を奴隷のようにこき使う話(死にかけてているおっさんを冷静に観察しているのが面白い)、ドラマーを募集したのに、ボーカルとベースしかできないおっさんが来たけど、仕方なくオーディションをしたが、あまりの下手さに激怒して帰った話、など。

嘘か本当か疑いたくなるような話や人物が次から次へと飛び出してくる面白さもあるが、山本氏の独特な文章が魅力を増幅させている。

山本氏は「コラムは当時は本当に適当に書いていた。」と言っており、当時高校生であった私は、独特すぎる文章を天才が書いた文章だと思い込み、「一生もののすごい本を見つけた!」と何度も何度も読み込んだが、大人になって読み返すと、「ああ、本当に適当に書いていたんだな…」と思うが、だからといってこの本の魅力がなくならない。いま読み返しても、衝撃的な本だと思う。

この本は、山本氏が弾くサイケデリックなギターと同じような雰囲気が漂い、精神が解放するような感覚を覚える。普通では得られない、特殊な読書体験を欲しているなら、読まれることをおすすめします。

現在は絶版で、オークションやアマゾンの中古品で入手が可能です。(2020年8月時点)

山本精一氏の音楽活動で一番好きな羅針盤


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