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自民党総裁選挙にあたっての私の考え

1.はじめに

9月に予定されている自民党の総裁選挙に向けて、色々な報道が加熱気味です。
しかし、発言する国会議員も、それを報道するメディアも、どうも物足りないように感じます。
自民党の総裁選挙は、現在の国会議員の構成からいって、ほぼすなわちこの国の総理大臣を選ぶ選挙です。
それなのに、自民党の中の理屈ばかりが優先し、「国民のため」、「この国のため」という議論が弱いように感じられるのです。

言うまでもなく、この国は様々な難しい課題に直面しており、歴史的な転換点にあります。
この大事なタイミングでこの国の舵取りを任せるべきリーダーは、自民党の理屈ではなく、「国民のため」、「この国のため」という観点で、もう少し冷静に、もう少し深く、考えてみるべきではないでしょうか。

あらかじめこの記事の結論を申し上げると、

「国民のため、この国のためには、岸田文雄自民党総裁の再選がベストである」

と私は考えます。

まだ岸田総理は自民党総裁選挙に出馬するかどうか明確にしていません。
ですが、もし岸田総理が総裁選挙に出馬する場合には、私は再選に向けて力を尽くしたいと思います。

なお、私は解散するまで宏池会(岸田派)に所属しており、また去年9月から岸田内閣のもとで、内閣府の大臣政務官を務めています。
ですから、この文章がそうした立場からのポジショントークではないと言っても、信じてもらえない可能性が高いことも承知で書いています。
ただ、宏池会に所属していたことで他の国会議員よりは岸田総理と懇談の席などをご一緒させていただく機会もあり、岸田総理の人となりを近くで拝見することが比較的多かったのではないかと思います。
また、内閣府の大臣政務官として、特に経済・財政・金融分野についてはその担当として、この1年間誰よりも密接に携わってきました。
この記事は、そういうやや特殊な立場からの意見であることは事実ですが、そういう私だからこそ伝えることができることもあるのではないかと思っています。

2.私の自民党総裁選びの方針

私は、今回の自民党総裁選挙は「自民党の顔」や「選挙の顔」を選ぶという軽いものではないと思っています。
それは自民党の論理であり、そうした態度は国民に見透かされてしまうと思っています。
「表紙」を変えれば国民はまた振り向いてくれると思っていると、手痛いしっぺ返しを受けるでしょう。
国民を甘くみるべきではないと思います。

各政党の党首選挙は、すべからく「国民のため」「この国のため」にベストだと思う人を選ぶべきです。
そして、衆参で過半数の議席を有する与党の第1党であり、総裁がほぼそのまま内閣総理大臣の指名を受けると思われる自民党の党首はなおさら、その責任と覚悟を持って選ぶべきです。

そして、私は今回の自民党総裁選挙では、岸田総裁が再選されるのが、国民にとっても、この国にとってもベストなことだと信じています。
以下でその理由をやや詳しく述べます。

3.自民党総裁に必要な資質と岸田総理の評価

私は、自民党総裁に求められる資質は、以下の3つだと考えています。
・この国を率いていくための「政策」
・自民党を率いていくための「人柄」
・国民を率いていくための「発信力」

(1)この国を率いていくための「政策」=◎

言うまでもなく、自民党総裁はそのまま内閣総理大臣に指名される可能性が高く、この国の政策に大きな責任を負います。
そしてその政策の遂行のことも考えると、「経験」と「実績」も重要です。
その点、当選10回、外務大臣4年半など大臣経験も多く、自民党政調会長等も歴任した岸田総理は、3年前の総裁選挙の時点から抜群の経験を誇っていました。

そして、この3年間の総理大臣としての政策と実績がそれに加わります。
以下は、すぐに思い出せる主なものです。
・防衛力の抜本的な強化(防衛費をGDP比2%へ倍増、防衛三文書の改定、セキュリティ・クリアランスの導入等)
・原子力発電所の再稼働、福島第二原発の処理水の海洋放出
・子ども・子育て支援政策で少子化傾向からの転換を
・G7を開催し外交・デジタル等多くの成果、ロシアのウクライナ侵略に国際協調で対抗
・新型コロナ禍からの脱却

さらに、最も明確な実績をあげているのが経済・金融の分野です。
・上場企業の収益は3年連続で過去最高
・主要企業の設備投資は2年連続で過去最高
・夏のボーナス3年連続最高
・賃上げ平均5.1%、33年ぶりの高水準(中小組合でも4.45%)
・最低賃金、全国平均1054円へ、上げ幅50円は過去最大
・日経平均株価は史上最高値の42000円超え(就任時から+46%上昇)
・東証の時価総額は1,000兆円超え(就任時から+30%増加)
・NISAの拡充・恒久化(年初から3ヶ月で総買付額が+57%増加)
・日銀は17年ぶりにマイナス金利を解除し、金融政策を正常化
これ以外にも、この3年間の経済・金融分野での政策の成果を示す指標は枚挙にいとまがありません。
私は1994年の新卒から20年以上、日本銀行や金融庁に勤務していたので、上記の成果の重要性がよくわかります。
この3年間を経て、「日本の失われた30年」といった言葉は聞かれなくなりました。
1990年代初にバブルが崩壊して以降、紛れもなく、最高の経済・金融分野でのパフォーマンスを示した3年間と言えると思います。

もちろん、この成果は岸田総理一人の力で成し遂げたものではありません。
安倍元総理や菅前総理の経済・金融政策の蓄積の上にやっと成果に結びついた分野も多いでしょう。
また、円安やインフレの影響を受けた指標もあります。
それでも、総理大臣就任当初に「新しい資本主義」を掲げ、熊本の半導体工場建設に約5000億円もの政府支援を発表し、NISA拡充のサプライズで長らく動かなかった貯蓄から投資への大転換を実現し、いわゆる春闘の労使交渉に政府が割って入るというタブーともいうべき強硬手段も使いながら、官民をあげて経済・金融を正しい方向に導いてきたのは岸田総理でした。
なかなか達成されなかった物価上昇に負けない賃金(プラスの実質賃金)も、あと1〜2か月で達成する見込みというところまで回復してきています。

この間の経済状況は、決して追い風だったわけではありません。
むしろ、ロシアのウクライナ侵略や中東情勢などで国際的な安全保障環境は厳しくなり、デフレからインフレへの移行、エネルギー不足の発生、中国経済の減速など様々な困難な条件の中で、財政健全化の旗を掲げつつも必要な政策には大胆に財政出動をしながら、大変なナローパスをかいくぐって達成したのが上記の実績です。

そして、日本経済の回復は、まだまだ始まったばかりです。
岸田政権の「新しい資本主義」に代表される経済・金融政策をあと2〜3年継続し、さらに前に進めていくことによって、わが国の経済は新たな成長軌道に乗ることができるところまで来ています。

ビジネスの世界では、「成長は全てを癒す」と言います。
経済においても、この言葉は一定の真実を含んでいます。
あと半年〜1年で、地方においても明確に景気回復の実感が出てくることでしょう。
若年層をはじめとする国民の皆さんの収入も増加し、資産形成も順調に進み、将来不安も和らげば、少子化傾向の転換点にもなるかもしれません。
GDPも税収も伸び、財政状況も改善し、各分野への予算配分にも余裕が出てくることでしょう。
今、日本経済は30年ぶりに、デフレから脱却し、経済回復から本格的な経済成長へと続く入り口に立っています。
岸田政権の下でこの政策を継続し、さらに前に進めていくことこそが、この国のためにベストな選択肢だと私は心から信じています。

(2)自民党を率いていくための「人柄」・・・○

最初にも記載した通り、私は解散するまで宏池会(岸田派)に所属していたこともあり、何度か岸田総理と懇親の場をご一緒させていただきました。
また、昨年9月からは大臣政務官として、総理大臣としての岸田総理に近くでお仕えする機会にも恵まれました。
率直に言って、私はこの3年間一度も、岸田総理とご一緒していて嫌な思いをしたことがありません。
岸田総理は、テレビで国民の皆さんがご覧になるのと変わらず、真面目で実直、思いやりのある優しい方です。
その「優しさ」で、この国のため、国民のためにどうすれば良いかを常に考え、困難にあっても投げ出さず、常に真正面から難局にあたって来られました。
そうした「人間性」という意味での岸田総理の人柄は◎であり、私は、一国のリーダーとして文句のつけようがないと考えています。

一方、自民党を率いていくという意味の「人柄」には、「リーダーシップ」という意味合いも含まれることでしょう。
この「リーダーシップ」には「△」という厳しい評価を下す人も多いかもしれません。
もっと強いリーダーシップが必要という主張も聞かれます。
私は、岸田総理の「優しさ」が「リーダーシップの弱さ」に見えているのではないかと感じています。
様々な関係者、様々な方向に配慮する中で、リーダーシップが弱いように見えてしまい、決断が遅いように見えてしまうことが時々あるように感じています。
一方で、ギリギリで決断しなければならないところでは、岸田総理は常に決断してきました。
この半年だけでも、政治倫理審査会へのご自身の出席、派閥の解散、政治資金規正法の着地点など、賛否両論がある中でご自身が決断し、誰のせいにもせずに、批判をも一身に引き受けて前に進んでこられました。
これらの決断によって自民党は国民から見放されることをギリギリで回避し、通常国会をなんとか乗り切ることができたのではないかと私は思います。
そして岸田総理のその決断の背景にあったのは、自民党を率いていく、ひいてはこの国を率いていくという「責任感」だったのではないかと私は思っています。

優しさや責任感のない「リーダーシップ」は「独善」です。
岸田総理のリーダーシップは、私はそれほど悪くないバランスだと思っています。

(3)国民を率いていくための「発信力」・・・△→○

「発信力」は、最も岸田総理に対する批判の強いところかもしれません。
記者会見などでの岸田総理は、正確に、慎重に、言葉を選んで発言しているように見えます。
また、国会などでも難しい問題の時は特に、原稿に忠実に、丁寧に答弁していることが多いと思います。
ただ、そうした慎重なスタンスが、失言のほとんどない記者会見や、安定した国会運営につながっていたというのも事実でしょう。

岸田総理は、懇親会の席などではもっと率直にお話をされます。
また実際に、3年前の自民党総裁選挙では、「岸田ノート」を手に溢れる情熱を全面に打ち出し、強い信念とこの国の希望を発信して厳しい総裁選挙を勝ち抜かれました。
私は、懇親会の席で一度「総理は記者会見などでもこのように国民に対して率直に語り掛ければいいのでは」と提案したことがあります。
すると総理は、「そうだなぁ。でも、難しい問題が多くてなぁ」と答えられました。
確かに、安倍総理が亡くなって以降、統一教会の問題や政治資金の問題のほか、自民党議員のスキャンダルや大臣・副大臣の辞任など、「守り」のコミュニケーションになることが多く、率直に、明るく希望に満ちたメッセージを発する機会がなかなかなかったこともあると思います。

一方で、国民を率いていくための「発信力」は、総理大臣だけに求められるものではありません。
幸い自民党には、衆参で360人を超える国会議員が全47都道府県から選出されています。
この360人以上の自民党の国会議員が、ワンボイスになって自民党・岸田内閣の政策や党改革についてしっかりと発信していけば、その「発信力」は計り知れないものになるはずです。
この3年間を振り返って、360人の自民党の国会議員はワンボイスで発信してきたでしょうか?
党内で様々な論争があり、厳しい総裁選挙の結果、誰が次の総裁になったとしても、その後は、新総裁の下で自民党が一致団結し、ワンボイスでこの360人の「発信力」を活かすことこそが、自民党総裁の「発信力」を何倍にも増幅する大きな力になるはずです。

(4)「政策」「人柄」「発信力」のバランス・・・○→◎

上記の3つの評価を単純に総合すると、岸田総理の評価は「○」というところでしょうか。
しかし、実際の自民党総裁としては、「政策」「人柄」「発信力」のバランスが重要になります。
そして特に、デフレから脱却し、新たな成長軌道へと移行していくこの重要なタイミングでは、その中でも最も重要なのは「政策」であると私は考えます。
そう考えると、岸田総理の評価は「○」よりも「◎」に近い評価になるのではないでしょうか。
このように「国民のため」、「この国のため」という観点で考えたときに、岸田総理ほど相応しい総裁候補はいないのではないか、というのが私の現時点での結論です。

4.追加の論点

岸田総理が現時点の自民党の総裁候補としてベストであると言っても、これまでのままでいいと言っているわけではありません。
岸田総理・総裁が続投するにしても、新たに総理・総裁が誕生するにしても、以下のような追加の論点がありうると考えています。

(1)非婚化・少子化対策や地方・中小企業政策への一層の注力

上記の通り、現在の経済・金融政策は、厳しい環境下においてもほぼ最高の状態で進展しています。
また、安全保障や外交なども、今の路線をさらに前に進めることが最良の道だと考えます。
一方で、特に地方に生活する多くの国民の視点からは、さらに踏み込んだ非婚化・少子化対策や、経済回復の実感に乏しい地方・中小企業政策へのさらなる注力という点で、政権の中心的な政策をシフトしていく余地があると私は考えます。
また、国家の中長期的なあり方として、「中央と地方のバランス」をもう一度見直すことも大きな課題ではないでしょうか。

(2)総裁・総理をサポートするチーム力

総理・総裁は孤独だと言われます。
この3年間、岸田総理・総裁は特に孤独だったように見えました。
官邸と党の距離感、各大臣との距離感、総理と各国会議員との距離感、などなど。
今後は、しっかりとチームとして総理・総裁を支える体制を整え、党もしっかりと連携して政権を運営していく体制を整えることが望まれるのではないかと考えます。
上記の「発信力」でも書きましたが、9月の総裁選挙の後、360人の自民党国会議員が一致団結して総理・総裁をサポートし、総理・総裁に代わって政策や党改革を発信する気概と覚悟を持てば、国民の自民党を見る目も変わるのではないでしょうか。

(3)総裁選挙に臨んで

選挙は常に水物です。
自民党総裁選挙も例外ではありません。
投開票まであと2か月ほどの間に何があるか、誰が立候補するか、選挙期間中にどのような論争があり、誰が評価を上げるか(または下げるか)わかりません。
再選に名乗りを挙げる場合には、現職の岸田総理にとっても一大勝負になります。

私から、総裁選挙の全ての立候補者にお願いがあります。
この総裁選では、現状の正しい危機感、不都合な真実をしっかりと共有しつつも、国民の皆さんに「この国の明るい未来・夢を語り、そこに至る道筋をしっかりと示してほしい」と思います。
総裁選挙が終わった時に、国民の皆さんが、「この総理大臣、この自民党総裁なら日本がきっと良くなる」「子供たち、孫たちに素晴らしい国を引き継いでいける」と改めて希望を抱くことができる自民党総裁選挙にしていただきたいと思います。

そしてわれわれ自民党の国会議員としては、「〇〇は次の総裁に相応しくない」、「▲▲は出るべきではない」といった足の引っ張り合いのようなコメントはやめるべきです。
そうしたコメントは、自民党のためにもならず、国民のためにもならず、ましてやその人が推す候補者のためにもなりません。
われわれ自民党の国会議員一人一人が、改めて「政治は国民のもの」という立党の原点に立ち戻って、「国民のため」、「この国のため」の論戦を戦わせようではありませんか。

5.結びにかえて

私は、1か月ほど、この記事を書くかどうか迷っていました。
でも、6月中旬のある日の出来事を思い出すたびに、この記事はどうしても書かなければならないという思いが強くなっていきました。
この記事を書くことが、この国のためでもあると思ったからです。
以下が、その出来事です。

通常国会の最終盤、岸田総理を支えていると言われる先輩議員との夜の会合も終わりに近づき、半分ふざけて「本当にお疲れ様ですね」と言ってその先輩の肩を揉んだところ、私は驚愕しました。
その先輩の肩がガチガチに固まっていたからです。そして、肩だけでなく、背中全体が岩のようにガチガチでした。
この先輩は、マッサージに行くこともなく、自分の背中を自分でほぐすこともせず、いや自分の背中がどれほど凝っているのかに思いを致すこともせずに、3年間、一心不乱に岸田総理を、そしてこの国を支えてきたのだとその時に直感しました。
そしてほぼ同時に、「この背中は岸田総理の背中だ」と思い至ったのです。
それから30分ほど、先輩の肩と背中をほぐす間、涙が止まりませんでした。
岸田総理やこの先輩議員が、どれほどの思いで3年間、この国を率いてきたのか。

今は、この二人がその肩に背負っている重荷を自らが下ろすと決断する時まで、この二人を全力で支えようと思っています。
そして、この日本という国のために、その瞬間はもう少し先であるべき、とも思っています。

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