子ども・子育て支援金の「負担」とは?
0.はじめに
子ども・子育て支援金の「負担」に注目が集まっています。
しかしながら、その多くは説明のわかりにくさなどに起因する誤解に基づくもののように思われます。
ここでは、私自身の理解のためにも、「子ども・子育て支援金」を以下の観点からできるだけわかりやすく整理してみたいと思います。
・実際にどのくらいの「負担」なの?
・「実質負担は生じない」って本当なの?
・子ども・子育て支援金はなぜ必要なの?
なお、少し長くて数字も多いので、太字の部分だけ読めば内容がわかるようにしています。
1.実際にどのくらいの「負担」なの?
(1)一人当たり、一世帯当たりの負担額
3月29日にこども家庭庁が公表した試算結果は以下のとおりです。
ただし、これではわかりにくいので、支援金額が最も大きくなる令和10年度を例に、もう少し分かりやすく説明します。
(会社員の場合)
中小企業の従業員は一人当たり月額450円で、年額では5,400円程度(協会けんぽの欄)。ただし、扶養者等を除いた実際に保険料を払っている人(被保険者)については、一人当たり月額700円。
大企業の従業員は一人当たり月額500円で、年額では6,000円程度(健保組合の欄)。ただし、扶養者等を除いた被保険者では、一人当たり月額850円。
公務員は一人当たり600円で、年額では7,200円程度(共済組合の欄)。ただし、扶養者等を除いた被保険者では、一人当たり月額950円。
以上のように、それぞれ月額の保険料が現行よりも4.3〜4.9%増加することになります。
なお、これらは「労使折半」が原則であるため、企業や国庫からも同額が拠出されることになります。
(その他の場合)
自営業者や非正規労働者は一人当たり400円で、年額では4,800円程度(国民健康保険の欄)。ただし、高校生以下の子供などを除いた一世帯当たりでは月額600円。
75歳以上の後期高齢者は一人当たり350円で、年額4,200円程度(後期高齢者医療制度の欄)。
以上のようになり、それぞれ月額の保険料が現行よりも5.3%程度増加することになります。
つまり、子ども・子育て支援金の支援額は、これまでの保険料に上乗せして徴収されることになり、一人当たり・一世帯あたりでは5%程度増加することになります。
(2)年収別の支援額
上記に対して、国会などで「年収別ではいくらになるのか」「年収によってはもっと高い人もいるのではないか」という質問が寄せられたため、こども家庭庁では年収別の支援額の試算も公表しました。
それによると、
・年収200万円では月額350円程度、年額では4,200円程度。
年収に対して0.21%の拠出額。
・平均に近い年収400万円では月額650円程度、年額では7,800円程度。
年収に対して0.195%の拠出額。
・年収1,000万円では月額1,650円程度、年額では19,800円程度。
年収に対して0.198%の拠出額。
ということになります。
年金保険料は年収に比例する面が強いため、月額1,000円を超える方も出てくる一方で、年収と比較すると0.2%程度の微々たる増額であることがわかります。
2.「実質負担は生じない」って本当なの?
(1)わかりにくいけど「本当」です
結論から言えば、「実質負担は生じない」という政府の説明は嘘ではありません。
ただ、それは「一人一人の拠出金額が増えない」という意味ではなく、「支援金のための拠出はお願いするけど、全体としての社会保険料はできるだけ増えないようにして、少し増えたとしても所得に占める保険料の割合は増えないようにする」ということです。
ちょっとわかりにくいので、以下で詳しく説明します。
(2)岸田総理や加藤大臣の説明
「こども未来戦略方針」では、「国民に『実質的な追加負担』を求めることなく、少子化対策を進める」と記されています。
また、国会などでも、岸田総理や加藤鮎子こども政策担当大臣は、「歳出改革と賃上げで社会保障負担率の抑制の効果を生じさせるため、全体として実質的に負担は生じない」と答弁しています。
ここで言っている「社会保障負担率」とは、「社会保険料の負担の総額」を「個人・企業など国民全体の所得」で割った比率のことです(下図を参照)。
つまり、「実質的な追加負担が発生しない」というのは、「社会保障負担率を上昇させない」ということなのです。
「社会保障負担率」の推移をみると、平成元年度(1989年度)は10.2%でしたが、26年後の2024年度は18.4%になる見通しです。
少子高齢化の進展のために、今後も社会保険料の負担額は増加するとみられていますが、今回の子ども・子育て支援金の制度設計にあたって、政府としては、
分子となる「社会保険料の負担額」は、医療・介護の歳出改革(薬の処方し過ぎなどの是正)によってできるだけ増加額を抑制する
分母となる「個人・企業などの国民全体の所得」を賃上げなどで増加させる
という方針で、こうして抑制された範囲内で「子ども・子育て支援金」を拠出してもらうことで「社会保障負担率」は18.4%よりも上昇させない、つまり「実質的な負担の増加にはつながらない」という説明なのです。
うーむ、こうした説明は、嘘ではないけれども「わかりにくい」と言われてしまうかもしれません😅。
3.子ども・子育て支援金はなぜ必要なの?
(1)給付の増加額は子ども一人当たり146万円!
さて、世間では「支援金によって負担が増加する」ことにばかり注目が集まっていますが、それではなぜ「子ども・子育て支援金」は必要なのでしょうか?
結論から言えば、一人の子どもが19歳になるまでの給付額を146万円増加(これまでの給付を約1.7倍に増加)させ、それだけ子育てや教育にかかる負担が軽減されることで、安心して子どもを産んで、育てられる環境を提供するためなのです。
支援金制度の創設による子ども一人当たりの給付額の増加は、以下の通りです。
児童手当の拡充=合計106万円(このうち中学校までの増額が59万円、新設された高校分が47万円)
共働き・共育てを推進するための経済支援=17万円(育休取得時の手取り10割補償、時短勤務の手取り補助、親の国民年金保険料の1年間免除等)
子ども誰でも通園制度=14万円
妊娠・出産時の支援給付金=10万円
以上の合計が146万円になります(下図を参照)。
各種アンケートでは、理想の子どもの数と実際の子どもの数が乖離している(例えば理想としては2人の子供が欲しいのに1人しか産まない)背景として、経済的な理由、つまり「子育てにお金がかかるから」という理由が最も大きいとされています。
このため、経済的な負担を軽くすることで、安心して子どもを産んで育てられる環境を整えることが子ども・子育て支援金の最大の目的なのです。
(2)子ども・子育て支援金の収支
ここで、子ども・子育て支援金の収支について考えてみましょう。
上記で見たように、年収400万円の方の支援金の拠出額は、月額で650円、年額で7,800円、子ども1人が高校を卒業するまでの19年間では14万8,200円となります。
同じように、年収1000万円の方の支援金の拠出額は、19年間で37万6,000円になります。
これに対して、子ども一人が19年間で受け取る金額の増加分は、上記で見たように146万円となります。
つまり、国民の皆さん(+企業と国庫)から薄く広く拠出していただいた支援金を、子育てをする親御さんにお渡し(支援)することになります。
幅広い国民の皆さんには、現役の子育て世代も含まれますが、年収400万円の方は14万8,200円の拠出で146万円の支援を受けることができます。これは拠出額の9.9倍です。仮に共働きで、ご夫婦とも年収400万円の場合(拠出金が2倍の29万6,400円)でも4.9倍の支援金を受けることになります。
同じように、年収1000万円の方は37万6,000円の拠出で146万円の支援を受けることになるので、拠出額の3.9倍(共働きで2人とも年収1000万円の場合でも1.9倍)です。
(3)税金ではなく公的年金の保険料として拠出する意味
上記で見たように、「国民の皆さんから薄く広く拠出した支援金を、子育てをする親御さんにお渡し(支援)する」というのが、税金ではなく公的年金の保険料として拠出する意味だと私は理解しています。
「年金」というのは元々は「保険」の考え方に基づいています。
「年金=老齢年金」は、人によって人生の長さはまちまちですが、もし長生きをしても困らないようにみんなで支え合いましょう、ということです。
同じように「医療保険」について、人はいつ病気になるかわかりませんが、もし病気になると大きな負担が個人にかかってきます。そうなっても困らないようにみんなで支え合いましょう、ということです。
さらに「介護保険」について、人はいつ介護される側になるかわかりませんが、もしそうなると大きな負担が発生します。そうなっても困らないようにみんなで支え合いましょう、ということです。
日本では、「子ども・子育て」も同じように、年金・社会保障制度として位置付けられています。
つまり、すべての人が子育てをするわけではありませんが、子育てにはお金がかかり、大きな負担が子育て家庭にかかってきます。そうした人をみんなで支え合いましょう、ということです。
4.おわりに、支援金は「負担」ではなく「支え合い」であり「応援」である
わが国最大の課題といえば、「少子化・人口減少」であることは多くの人が共有していることと思います。
特に地方では、少子化・人口減少は大変切実な問題です。
人手不足に悩んでいる企業からも、国民の生活を支える農業の関係者からも、少子化の改善や人口減少に歯止めがかかるように、政府にはもっと真剣に取り組んで欲しいという強い要望をいただいています。
子育て世代の皆さんからも、子育てにかかる負担を軽減してほしいという切実な声をいただいています。
そうしたすべての皆さんの思いを少しずつ集めて、一人一人のお子さんや子育て中の親御さんにお渡しするのが「子ども・子育て支援金」なのです。
つまり、国民全体で少子化・人口減少に立ち向かっていくための「決意」を共有する制度といえるのではないでしょうか。
「子ども・子育て支援金」の拠出のことを「負担」と呼ぶと、そうした趣旨から外れるように私は思います。
むしろそれは「支え合い」であり、「応援」と呼ぶべきでしょう。
私たちの社会や文化が、安定して末長く続いていくように、子育てをする世代をみんなで「支え合い」、「応援」しようという考え方に立って、もう一度「子ども・子育て支援金」について考え直してみてはいかがでしょうか。
(注)出典等
・こども家庭庁「子ども・子育て支援金制度における給付と拠出の試算について」
・NHK NEWS 政治マガジン「子ども・子育て支援金であなたの負担はどうなる?」
(なお、記事冒頭の画像のほか、途中の図表の一部もこのホームページのものを使っています。)