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二号計画機 制作記

自転車日和さんに掲載いただいた記事の元をこちらで公開します。

昔、海外の雑誌でMantisのValkyrieという3本トップチューブの自転車を見たとき、カッコいいけどそのフォルムは大きいフレームでないと成立しにくいものだったので「ウヌヌ…身長の低い自分のモノではないなあ」と思ってました。

同時に「トップチューブを3本で分業するコンセプトで小さいサイズだからこそ成立する美しい形を見つけられたら面白いし、背の大きい人が自分と同じように何これウヌヌ…と悔しく思ってくれたらいいなあ(性悪)」とぼんやり思ってたのが20年前。

そんなことを忘れて昨年に1本目の自作フレームを作り終えたことで、できる事出来ない事がなんとなく見えてきた所で、次はone for meで自分だけのサイズ、自分だけのコンセプトの自転車で、自分が最も美しいと思う形を見つけ出すことを目的としようかな?と思ったとき、先の話を思い出したのでした。

というわけで3本トップ縛り確定、2本目制作開始です。

なんで毎回大変な方に行くんでしょうね…

フレーム機能コンセプトは1作目の「148㎜エンドで26x4.0、27.5x4.0(リム幅制限あり) 29x3.0 27.5x3.0を飲み込むナローなファット/セミファットバイク」というのはそのままに、実際に1作目に乗った感覚を基にジオメトリーをブラッシュアップ。

BBは100㎜→83㎜に変更、ヘッドは110㎜→90㎜に縮小

作りやすさを考慮して大きめにサイズ設定していた1作目を精緻化していく感じになりました。

図面03

ただ、自転車に限らず、道具というのは満足に機能して初めて価値を持つものなのでフォルムがカッコイイだけで、てんで走らないフレームが出来るのだけは避けたい!でもどんな設計したらよいか判らない!
ということで高田馬場のモンキーさんが育てた98系の「ガッツリ目のダウンチューブ」「22㎜径、太めのチェーンステー」ヘッドチューブ、ダウンチューブ、BB、チェーンステーの流れをしっかりとする事で乗り味を支えるコンセプトを頂戴することでMTBとしての性能を維持することを意識しました。

そんな手堅い実績を持つ基礎フレームに乗る上身のフォルムについては「トップチューブは3本」という事を条件に強度、力のかかる方向も加味しつつ何回もスケッチを行っては図面を引いて設計していきます。

今回のフレームの様にダブルトップチューブがシートステーに繋がってエンドに降りるスタイルの場合、通し1本で作ることを考えがちなのですが、強度面からチェーンステーはシートチューブにしっかりと付いていて欲しかったのと、製作、フォルムの調整がしやすい事から2分割にすることに(乗って変な動きが無かったのでコレで正解だったと思います)

画像2
外見が現れた際の様子

前三角

トップチューブ、真ん中の1本についてもシートチューブとヘッドチューブを繋いでるのが強度的には理想なのですが、ここはフォルム重視でダウンチューブに繋げました。
ダウンチューブ、ガセット要らずの曲げ入り材を選んだのはヘッドチューブと接続する側に厚みがあり、この繋げ方にも耐えてくれるだろ…という目論見があったからです。
チューブ接合部はどんな形状で繋がるかさっぱりだったので、仮塗装して形状を確認しながら制作を進めました。

01_3形状確認
仮塗装して形状を見ています

チェーンステー

今回の制作で何が一番大変だったかというと…チェーンステーです。
某「もう一つの自転車たち」さんが仕入れるOtsoのマルチロールファットバイク、VoytekがBB幅83㎜だったので真似してみたのですが特にドライブ側、タイヤ、クランク、チェーンの関係のクリアランス設計がタイトになりました。
そんなチェーンステー、1回目の仮溶接でタイヤ、チェーンリング、クランクのクリアランスも取れたので良かった…と思ったら工房の主である高井さんと、ベテランのN氏から
「左右のフォルム違うよね」という冷静なご指摘が。
製作者本人はガサツなのであまり気にしてなかったのですが「外見も気になるけど、このままだとタイヤの入る場所が制限されてしまいそう。」ということで渋々ドライブ側の仮溶接を外してサイズ調整開始…はじめたらドツボでした。
「タイヤは入るけどクランクが当たる」
「クランクは回るけどチェーンリングが当たる」
「クランクは回るけどタイヤが当たる」
…という感じで6回やり直し。

クランク当たってます

チェーンステーを削っては仮溶接し徒労で終わるというのが3日続きました。
でも、そのおかげで左右の均等も取れて、スライドエンドの調整域の全てファットタイヤが入る様になったし、何より美しい!
あそこで逃げる事を許さなかった工房の2人には感謝しかありません…でも疲れた。

シートステー

止せば良いのに3次元に曲げました。
理由は簡単。後ろから見たら絶対カッコイイから!
正確には角度を変えた平面曲げx2で3次元に見せているのですが、これまた左右均等にならず、結局右側を真ん中で切って繋ぎ直してます。

左右揃わなくて悩んでた時の様子

トップチューブ

最後は形の決め手となる左右のトップチューブ
実はコレについてはほかの部分を制作中、ずっと明確な形が決まっていませんでした。
平面では曲線の動きが把握できないのでフレームの制作途中で色々な角度で写真を撮ってPC上のドローソフトで描いたり、風呂入る度に壁に線引いたり、手書きでババっと描いて曲げの量を想像し続けて実作業に臨みました。

「この半年間の成果がここで決まる!」

L字の治具を総動員して左右揃えてるところ

そんな重要な工作場面なのですが、毎日考えていた積み重ねもあってか、手前みそですがすんなりとチェーンステーからの流れも繋がり、良い案配に仕上がったと思ってます。もっと悩むと思ってました。

トップチューブが溶接され、カタチがようやく表れた際の様子

あとはガセット入れ、リーマーを掛け、タップを入れて乗れるようになったら即組み立て、ライドして確認します。

タップ入れるのも緊張します

乗り味が判らないものを仕上げて塗装出来るほど、自分は心が強くないのです。

完成初日の様子

実際乗ってみて、ちゃんとMTBとして走るし、1作目の懸案事項だったサイズ感もきちんと解決してるし、乗り心地も思ってたより良い案配だったので安心!

これで仕上げ作業を気持ちよく行えます。
自転車日和さんの取材日に小物を付けて部品取り付けの作業は完了!
とか思っていたのですが…

撮影時 26×4.0 ドロップバーFATBIKEの状態

実走チェック後の追加作業

仕上げ作業途中でセンター側のトップチューブに力が集中してチューブ上下面に凸が出ているのを発見してしまいました。
その対応のためガセットを追加したり色々作業が加算されていった結果、仕上げてZ-WORKSさまに塗装を依頼できたのは12月の頭。
チェーンステーもしんどかったけど、この作業もしんどかったです。

ガセット追加中

完成

塗装して頂いたZ-WORKSさんから帰ってきた日に即組みました。

塗装から帰ってきた日の様子
今回はフラットバーで組みました
後ろ姿

こうやって完成した瞬間からいろいろ課題が出てくるのですが、何にしても見ながら何杯でも酒飲める

「自分の自分による自分の為の、自分がキレイでカッコイイと思う自転車」

が目の前にいるというのは幸せです。

最高。すてき!

BYOBという自転車制作の場を開き、ご教授いただいた高井さん、そして制作に関わったすべての方に感謝します。ありがとうございました。

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