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メントスは、ヤンキーの味

母は、俺が#ヤンキー、という存在を知る以前から言っていた。
あーゆー子たちっていうのはね、根は優しいんだから。全否定するんじゃないよ。と

俺はつまんねー優等生だったから、母の言う「あーゆー子たち」とは接点がなかった。なぜそんな事言ってくるのかさえ謎だった。

ヤンキーに出会ったのは中学生の時。
通った地元の中学にて。
見た目がね、もう全然違う。でも別に怖くないし、かっこいい、という見方もかなりあった。

文化祭の準備期間のある夕刻、いや、ほぼ夜、の校舎。
同じクラスの、スカート長すぎ、髪ブロンド過ぎの、細くて小さなヤンキー女子「ナミ」が非常口の扉のところで縮こまっている。
様子がおかしかったから、
近づきながら何度か呼んだ。
「ナミ?」
俺は彼女に面と向かって「ナミ」と呼んだことはなかった。初めてにして何度も彼女の名前を呼んだ。
リアクションしない。
泣いてるのか?
違った。

シンナーをキメた後らしかった。

「どうした?ナミ?ちょーし悪いか?」
彼女はトロンとした顔でこちらを向いて、へへっと笑い
「・・メントス食べる?」
と#メントス を差し出してきた。
俺はひと粒受け取って
「ナミ?いつからここに居るの?一人?」
何も言わない。ただヘラヘラした顔でこっちを見ているけど、俺が誰なのかは恐らくわかってない。
「家帰ろう。送るから。立てる?」
聞こえてるのか?何も反応しない。
「ナミ?立と!」
すると彼女は言った
「メントス食べる?」

彼女の腕を取り、自分の肩を貸して何とか立たせた。

彼女がこの日彼女の家に辿り着くまで、まだ話には続きがある。
家に帰って、どうだったんだ?という話もある。
その色んな事の中で、母の言葉を思い出していた。
ヤンキーはいい子。全否定しちゃだめ。
否定はしてないけど、何が良いのかも分からなかった。

肩に彼女の重さの余韻が残る、自分の家への帰り道。
14歳の俺は、彼女の孤独を知った。

ナミと一緒に歩いてる途中、唯一会話になったこと。
三度目の「メントス食べる?」
「さっき貰ったし。ほら」と掌を広げてメントスのひと粒を見せたら
「あ!メントス。。お口で溶けて手で溶けなーい」と、ふにゃふにゃ笑う彼女。
まぁ、確かに。でも
「それ、m&mのやつだろ」
「はー?何言ってんのー?」ふにゃふにゃ

そのどーでもよすぎる話を思い出して笑けてきた。
掌にはまだ手で溶けないメントスがひと粒。

ナミ。あんな風にしか「さみしい」って言えないのか?
その気持ちはあんなことで満たされない。
と、分かりきった青臭いことを当時の俺は思った。

でも、ナミにしてみれば、
それをわかってて、そうせざるを得なかったんだとしたら?
あの時の俺はそこまで考えが及ばなかった。

彼女が俺に何度もくれようとして、俺の掌にひと粒だけ在るメントスが、意識朦朧とした彼女の困難を語っていた。
こんなもん、なんの薬にもならない。

メントスは#スイス にも売っていて、
見かける度にナミを思い出す。

いつか会えたら、メントス大喜利やろうな。
お口で溶けて手で溶けないのは、m&mとかメントスだけじゃねぇぜ。

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