黒田泰三 白磁へ

アートを命綱にしているような次女がまた新しい作家の本を見つけて来た。代官山蔦屋書店で立ち読みして魅了されたようで、でもその作品集は高価でとても買えなかったので、図書館で探して一冊だけあったらしい。その本が『黒田泰三  白磁ヘ』だった。妻が読んでその内容を話してくれた。「黒田征太郎さんの弟さんなんだよ。伊豆に美術館があってアトリエも自宅も手づくりですごくいい」

情報収集に消極的な僕は、新しいことは身近な誰かが話してくれてそれで自分に入ってくるという横着な体質。本の内容を紹介する妻の話を聞きながら、僕の遅いCPUが回転し始める。「その白磁は外苑前のパロルで使われている食器ではないか」

「ごはんやパロル」は外苑前にある創作料理のダイニングで数回お邪魔したことがある。確か全てが繊細な白磁の食器だった気がする。あの食器が黒田泰三さんの白磁ではないだろうか。
最初はアートディレクターの小西圭介さんとスタイリストの矢野悦子さんに連れて行ってもらった。その時、店内に黒田泰三さんの個展のポスターが貼られていた。

(11時2分黙祷)長崎原爆平和祈念式

お店の方に「飲み物はどうされます?」と聞かれて、小西さんが「この前飲んだ日本酒、香りの強くないやつ」と応えるのを隣で聞きながら、”香りの強くないやつ”とは洒落た頼み方だなぁと思ったことをよく憶えている。そのお酒は福井の「黒龍」だったが、運ばれてきた黒龍からその器の話しになり、そして作家の方がちょうどいらっしゃるという。するとある男性が席をたち、「小西さんですか?」とわざわざお話しに来られた。あの方が黒田泰三さんだったのか。繊細で優しそうな方だったと記憶している。お兄さんの黒田征太郎さんは豪快な印象だから、そのお二人が兄弟とはまったく結びつかなかったけど。

そしてパロルのオーナーの女性。小西さんから有名な料理のスタイリストだたっと紹介された方は桜井莞子(さくらい・えみこ)さんだった。いま黒田泰三の文章を読み進めると桜井さんは黒田征太郎さんの奥様であったと書かれている。あぁそうだったのか。知らないのは自分だけでパロルにいたみなさんは一流のクリエーターの方だったのだ。だからあの創作的な空気が店内に満ちていたのだ。

さらに黒田泰三さんは今年の春に亡くなられたと知る。いつもワンポイント気付くのが遅い自分である。

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