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聞かず嫌い克服の一年

 年の瀬になり、なんとなく一年を振り返ってみようという気がしてみた。今年も多くのことを学び、多くの芸術に触れてきたので、一年をとても濃密に感じているところなのだが、今回は題して「私的2022年レコード・オブ・ザ・イヤー」を考えてみたいと思う。
 ノミネートの条件は、「2022年に私が初めて聞いたアルバム」である。断っておくと私は1998年生まれで、古い音楽を聴く趣味があるので、「私が初めて聞いた」というのは「古いアルバムがたくさん出てくる」という意味である。
 正直に言って、私の記憶はかなり曖昧なので、本当に今年初めて聞いたのかどうかはわからないが、どうにかこうにかして私の海馬を解析しない限り、確かめる方法もないので、本当に2022年に出会ったのかどうかは問い詰めないことにする。もっと言うと、どこの馬の骨かもわからん若造のおすすめにいったい誰が興味を持つんだ、という気はしているが、ともかく以下に紹介する作品は、いずれも時の試練を耐えて今なお名作と評価されるものばかりである。

私的2022年レコード・オブ・ザ・イヤー、ノミネート一覧

  1. Steve Vai "Passion and Warfare" (1990)

  2. Fleetwood Mac "Rumours" (1977)

  3. Pink Floyd "The Wall" (1979)

  4. Emerson, Lake & Palmer "Trilogy" (1972)

  5. Pat Metheny Group "Travels" (1983)

  6. Focus "Focus III" (1972) 

  7. Frank Gmbale "Live!" (1989)

  8. Catherine Ribeiro + Alpes "Paix" (1972)

 こうして振り返ってみると、総括としていえるのは、①超名作をいまさら聞いている、②プログレを聞きまくった、という2点だと思う。①については1~5までは全て言わずもがなの名作だと思う。私は天邪鬼な性分で、あまりに知名度が高かったり、評価が高すぎると逆に聞く気が失せるのだが、今年は聞かず嫌いを克服し、あえて超名盤を聞いて素直に感動していた気がする。②について、これまでBoston, Kansas, Journey, Styxといったアメリカンプログレは好んで聞いていたし、Rushももちろん好きだし、私はギターを嗜んでいるので、Allan HoldsworthやDixie Dregsも大好きだが、イギリスの元祖プログレはそこまで熱心に聞いてこなかった。今回のノミネートでは3, 4はイギリス、6はオランダのプログレである。

 各作品を振り返ってみる。1のPassion and Warfareは私の中でギターの概念をぶち壊したアルバムだった。今年はSex and Religion, Ailen Love Secrets, Fire Garden, The Ultra Zoneも聞いてみたが、ギタリストとしてもっとも食指が動いたのがPassion and Warfareだった。私は、Eddie Van Halenに触発されてギターを弾き始めたが、その後、Neal Schon, Tommy Bolin, Wes Montgomery, Rodrigo Y Gabriela, Eric Johnson, Steve Stevens, Al Di Meola, Allan Holdsworthといろいろ聞いていって、Steve Morseに出会って以降は彼が私の中の絶対正義であった。ところが今年、Steve Vaiがその牙城を崩しにかかった気がした。

 2のRumoursも「いまさら聞いた」シリーズの一つである。芸術的なジャケ写も含めて一度は聞いてみようとずっと思っていたが、今年まで放置していた。そして今は、「なぜもっと早く聞いていなかったんだ」と後悔している。Rumours当時のラインナップから、The White Album, Mirage, Tango in the Night, ライブアルバムのThe Danceと聞いてみた。いずれも素晴らしかったがRumoursはその中でも出色の出来だと思う。なんせ、リードシンガーが3人いてソングライターも3人いる。そしてそれに負けないほどの実力のあるベースとドラムがバンドサウンドを支えているのだから、とんでもない作品ができるはもはや分かりきったことなのではないだろうか。純粋に一枚の作品として考えてみた時に、RumoursはKate BushのHouds of LoveやGuns N' RosesのAppetite for Destructionに匹敵する名作だと思う。
 また、Rumoursを初めて聞いた翌日にChristine McVieの訃報が届けられた。彼女が天寿を全うしたその日に、彼女の美しい才能に出会えたことに感謝申し上げたい。ご冥福をお祈りいたします。

 3のThe Wallもここで発表するのが恥ずかしくなるレベルの「いまさら聞いた」シリーズの一つである。私はKate Bushの大ファンなので、Pink Floydも聞かなければならないことはわかっていたが、結局24歳になるまで聞くことはなかった。大量にあるPink Floydの作品から今年はThe Wallに加えてDark Side of the Moon, Wish You Were Hereと指折りの名作には挑戦した。どれも聞きごたえ抜群で一枚聞くたびに満腹だった。

 4のTrilogyに関して、ギターのない楽曲はめったに聞かないので、EL&PはFrom the Beginningしか聞いたことがなかった。このアルバムは、名曲ばかりだったのは言うまでもないが、個人的にはFrom the Beginning以上にHoedownが気に入った。オリジナルのクラシックも聞いてみたが、EL&Pはドラムのグルーヴとバンドサウンドの躍動感を存分に活かしていたと思う。余談だがDixie DregsのFree Fallに収録されている Moe DownはおそらくHoedownのブルーグラス調のアレンジ楽曲だと思う。

 5のTravelsはいまさら聞いたというよりは、今年ようやく出会えたという感じである。これまでも幾度となくレコードショップを探していたが、5000円などという法外な値段で取り扱われていることが多かったので、今年まで手に入れることができなかった。地平線に沈みゆく夕日を眺めているかのような、そんな情景が似合う作品だと思う。絵画で言うならバルビゾン派の柔らかい日の光、例えばミレーの『晩鐘』やトロワイヨンの『市場への出発』、が似合う作品だと思う。

 6のFocus IIIについて、Focusはオランダの変態プログレバンド(褒めています)なのだが、この作品も、Hocus Pocusの収録されているMoving Wavesに負けず劣らずの変態作品だったと思う。ど頭から最後までずっと面白い、でもときどきクラシック調の美しい作品も堪能できる、そんなFocusの魅力が惜しみなく堪能できる作品だったと思う。

 7のLive!はFrank Gambaleというフュージョンギタリストのライブアルバムなのだが、ギタリストとして、エコノミーピッキングのパイオニアである彼の素晴らしいギターを聞きたかった、というのがこのアルバムとの出会いであった。ギターももちろん素晴らしかったが、それぞれが楽曲としても素晴らしかったと思う。かなり直球勝負なフュージョンの楽曲だったと思うが、印象的なメロディが随所にちりばめられていて、ギタリストとしても純粋なリスナーとしても楽しめた。

 8のPaixはフランスのサイケデリック系の女性歌手のCatherine RibeiroとAlpesの共作である。今年の1月にフランス人数学者のCedric Villaniの講義に参加し、その後彼の自著を読んだことでCatherine Ribeiroについて知ったのだが、ともかく前衛的でこの世のものとは思えないような世界観を表現していたのが印象的だった。音楽を通じた感情表現について、彼女の才能は私の脳裏には存在していなかったものを教えてくれた。余談だが、私は数学者ではないので、普通の人はCedric Villaniから最適輸送論やボルツマン方程式について学ぶところ、私は彼からCatherine Ribeiroやフランスのチーズについて学んだ。

長々と感想を述べてきたが、一応、「レコード・オブ・ザ・イヤー」と題したので、大賞も決めておく。そうだな、、、正直(私の匙加減なので)どれでもいいが、大賞はPassion and Warfareです。

皆様、お体にお気をつけて、よいお年をお過ごしください。

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