伝える

「先輩、好きです。」

たったその一言を伝えるだけなのに
その言葉は、とても重くて怖くて
そんな臆病な僕には

「伝える」ことは出来なかった。


「あぁあ、最後のチャンスを無駄にしちゃってー。
お前はもっと自信を持て。顔はいいんだから。」
皮肉なのか元気付けようと無理にお世辞を言ってるのか、学校の帰り道に友人に事の顛末を伝え、言われたことだ。

「ああ。でも、先輩とはもう卒業式くらいでしか会えないし、卒業したら遠くに行くし。意気地ねぇーなぁ、俺って」
その言葉自体には意味なんて一切ないが、友人との会話の返しというよりかは、自分の空っぽの心に対して投げつけたような言葉だった。

「はは、俺としては、俺より先にお前に彼女が出来ることの方がつれーから、良かったわけだけど。」と笑いながら冗談めかしに煽ってきたが、
「せやな。お前からすれば良かったかもしれないな。」と不貞した答えを返した。

この友人とは小学校からの腐れ縁で、今は生徒会長を務めているが、正直無能だ。補佐してる生徒会メンバーが優秀だからこそ生徒会として運営出来ているが、なんだかんだこいつがいないと居心地の悪い。結局、こいつも生徒会として必要な人間であった。
まぁ、こいつほどではないが無能な俺も生徒会メンバーの1人なんだが。

話は戻り、友人との帰り道。
「まぁ、なんだ。でも、まだ告るチャンスはあるだろ。卒業式とかにさぁ。」にやにやとやかましい顔が目につくが、そんなことに気をかける余裕もなく言葉を返した。
「うん、それも考えた。けど、勇気出して自分から誘ったけど、楽しくお話したり相談して終わり。」
「本来は帰り際に告白するつもりだったのに出来なかった。」
「帰り際じゃなくとも告白するチャンスなら幾らでもあったのに。」
「そんな意気地無しの俺が、また告白したところでOKをもらうイメージなんてない。」

「へー。」
うんともすんとも言わぬ口調で友人は返してきた。
「なぁ、ひとつ聞いていいか?先輩とのデートは楽しかったか?」
調子の良い声色で問いかけてきた。
蹴り飛ばしてやろうかと思ったが、生憎今は両者自転車での帰りなのでツッコめなかったが、答える義理くらいはあるから話した。

「あぁ、めちゃくちゃ楽しかった。」
本心であった。好きな人と入れるだけでも幸せなのに、2人きりで休日に会ってカフェでゆったり話すなんて、もうマンガみたいな出来事であった。
「少なからず、告白できなかったことを除けば、死ぬほど幸せだった。」
「あの人と付き合えたらこんな日々を送れるのかって思うと胸のときめきが止まらない妄想ができたくらいにな。」

「きも」
めちゃくちゃ笑って返されたが、正直俺もそう思って
「せやな」としか返せなかった。

「なら、ワンチャンかけようぜ。どうせ告白が成功しようがしまいが、先送りにしただけだと思ってさ。」
笑って話しているが、友人は、真面目に俺に訴えかけていた。

「ひよった結果、計画を破綻させた俺が悪いからいいよ。」
何も良くない。でも、こんな建前でも言わないと自分の恥に押しつぶされそうになるから。

「お前が良いならいいんだ。どうせ人の恋路だからな。あんまり首突っ込むと馬に蹴り飛ばされかねないからね。」
「まぁ、俺もお前の友人だから応援くらいはさせてくれ。こんなことでも言わないと絶対後悔するからな。」
「ありがとう。俺もお前が困った時は手を貸してやるよ。」
あの言葉は、俺の恋路に対してこれからも応援はしてくれるんだとこの時は思っていたが、別れる際にこの言葉の真意を知った。

「今日は恥ずかしい話して済まなかったな。まぁ、またなんかあったら頼むわ。」
友人に話したことで、この時の私は心のつっかえがなくなり、スッキリした気持ちであった。
「あぁ。またなんかあれば聞くぜ。」
快い答えが返ってきて、私は安堵したが、友人の言葉はそれだけでは終わらなかった。

「なぁ、お前さ、付き合えるか否かでその気持ちを捨てようとしてよな。振られるのが恥ずかしいとか思ってるんじゃないか?」
あぁ、こいつは1本取られたよ。私は無言だった。

「間違ってたならいいが、その気持ちを伝えずに捨てる方が恥だからな。伝えなきゃ変わらないし、言わなきゃ分からないだろ。」
こいつはそういうタイプじゃないから、そんなこと言ってくるとは思わなかった。無言は続く。

「本当に好きなら伝えてこい。先輩だってその気持ちに答えてくれるさ。」
自分の人生の中で、こいつが友人で良かったと心底思えた時だった。
「はぁ、まぁ、頑張ってみるよ。じゃーな。」
照れ隠しだったのか自分の事を理解していた友人を持っていたことに嬉しかったのか、返答も聞かずに私は帰った。

卒業式も無事に終わり、先輩方はクラスメート達との写真も撮り終わり両親と帰る頃、私は先輩を生徒会室に呼び出し告白した。


結果は、無事『振られました』

まぁ、背中を押された以上報告をしたら、友人に爆笑された挙句
「まぁ、気持ちが伝わっても付き合えるかどうか別の話だからな。」と切り捨てられる始末に。
馬鹿な友人と私のちょっとしたほろ苦い青春の1ページでした。

あとがき
ご愛読して頂きありがとうございました。
この話は8~9割方フィクションです。
寝れなくて目を瞑ってたら思いついた話です。
下記に蛇足を置いときますが読まなくていいです。
個人的に、作中でも書いた通り、言えるうち言わないと後悔するため、いいなぁと思ったり好きだと思ったら私は伝えるようにしてます。(推し事とかね笑)
皆さんもその人や物が居なくなってからでは遅いので伝えられるうちに伝えましょうね笑
拙いながらも一生懸命書きましたので、テンプレートな作品内容ではありますが、改めて読んで頂きありがとうございました。


ちなみに、小説の中で出てきたフレーズなんですが、省略されてて意味わからないと言われそうなので少し解説を置いときますが、自己解釈でもいい範疇なので、見なくても良いです。
「伝えなきゃ変わらないし、言わなきゃ分からない」は、
「言わなきゃ今の関係でいられるけど、伝えなきゃその気持ちは伝わらない」

「伝えなきゃ今と変わらずにいられるけど、言葉にしないとその人には分からないよ」
というなんか恥ずかしい羅列を友人同士かつ学生だからこその言葉で表したので、作中では伝わらなかったかもです。


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