【超短編】【ピンクペガサス】


ホルン吹きがやってきた。私の座っているベンチのすぐ近くに。ホルン片手にやってきた。それも裸のホルンを持っている。

「ホルンですよね」って声かけたかったけど、声をかけなかったのは、彼がスキンヘッドだったからだ。音楽の知識もなく、失恋の恐怖から立ち直れない私。

すると突然、彼は、さだまさしの【コスモス】を演奏しはじめた。

宇宙ファンってこと以外は、なんの取り柄もない私。不思議ちゃんを目指しているけど、そのことを誰にも話せない私。ズタボロの心には、あまりにしみる音楽。無人島にも持って行きたいレコード!胸を震わす演奏。あっ、演奏だった。生演奏は無人島に持って行けないわね。ふーわ。なんか眠たくなってきた。
ベンチに座っていたけど、そっと目を閉じてみた。するとこんなイメージ。

私は寝っ転がって、ぼんやりぼんぼん。

そのとき

【あの、お嬢様、遊びませんか】

おにわのほうからこえがした。

そっと目をあけると

【やあ】

スーツを着たホルン吹きが手をふった。

【ばくは、プロの演奏家。形式的な楽団でのコンサートのリハーサルの日々に飽き飽きしちゃったんだ。お嬢様はやくおそとにおいでよ】

【うんうん、そろそろ、起きなきゃね】

お嬢様と言われて照れた私は帽子を外した。

お気に入りの麦わら帽子。

【わぁ、お嬢様のぼうし、とてもお似合いだね】

わたしは、さらに照れて前髪を触った。

【お嬢様さんぽにいきませんか。ぼくはペガサスに変身できるんだ。】

そういって、あっさり塩ラーメンより
スッキリしっぽり、うっとりとペガサスに変身した。ホルン吹き。

【ペガサスのせなか、いいにおい。おひさまのにおい】

わたしは不思議ちゃん、許可をもらう前に、背中に飛び乗ってしまった。

【そうさ、ぼくはお嬢様のペガサスだもの】

ペガサスは、すこしいばっていった。

【ペガサスのせなか、いいにおい。お日様に温められた、初夏の森のにおい】

【そうさ、ぼくは、初夏のペガサスだもの】

ペガサスは、すこしいばっていった。
ホルン吹きだったことなんて、忘れてしまったの

しゅっぱーつ!ペガサスははしった。

おにわをとびだじて、ぐんぐん森をぬけて
どんどん山をこえ、きがつけば

【わぁ、とんでる】

【そうさ、ぼくは、ペガサスだもの】

さっきまでいた自然公園がちいさくなった。

お池がピカピカひかってる。

カラスさん、イノシシさん、イタチさん

おさきに、ばいばーい。

くものうえでひとやすみする、ホルン吹き、あっいや、ペガサスと、、、私。

ふあふあでぷよぷよで

ほよんほよんで はずんじゃう 

うかうか うきうき のらりひょん

おまけにとってもいいにおい。

お嬢様と ペガサスは、くものうえにごろりんこ

【ねえペガサス!くものうえって、気持ちいい】

ロマンと初恋がキスをする。淡い風にふかれて

不思議ちゃんとペガサスは、すやすやおひるね。

夢のなかで、夢をみてる、恋する、お嬢様。

ふと、目が覚めた。

【あっ!私、このあとライブハウスで、バンドのリハーサルだった。しかも私、ボーカルなんだ】

【えっ、ボーカルなの。いそげ、いそげ!タイムテーブルに支障をきたしちゃ、こりゃ大変】

ペガサスが街の上を浮遊する。

夜の街を低空飛行。

【やったー!まにあった。ありがとうペガサスーー!】



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