ヤンチャ男子の「ありがとう」

小学生頃、やたらと腕を白い三角巾で吊っている
男子を見かけた、季節を問わず。
…女子は記憶が無い。

5、6年生の頃だったか、上着を羽織る頃になって
1人男子が腕を吊って登校してきた。
原因は担任が朝の会で周知し、皆も気をつけるようにと言った。
そして いろいろ助けてあげなさいと。

でもなぁ、コイツちょっと尖ってんだよなー
1匹狼ってほどでも無いけど、
誰と仲良かったっけな…

男子同士で仲良しチェックが始まった。
お前一緒にドッジしてたよな?
お前こそサッカーしてたじゃん。

妙な駆け引きをしている間にも、
既に彼はクラス内での生活が不自由そうだった。

まず教科書が真っ当に開けない。
筆箱の開閉もままならないし、間違えた文字も
容易に消せないのだ。
負傷したのが左腕で 利き腕が右なのは幸いだが、
たまに顔をしかめるほど痛みがある様子。
何かにつけて補助が要りそうだ。

見かねた隣の女子が手を貸し始めた。
少し大人びた、目立たない感じの子だ。
どうも元々の仲良しではなさそうだ。

机と机をくっ付けて 真ん中に教科書を置き、
筆箱も彼が取りやすく 且つ自分も手が届くところに置き直した。

完璧だ。

マジックのキャップの開け閉めまで買って出ている。

冷やかすことを忘れて、周囲の男子は羨望の眼差しで、気遣われている彼を見ている。
羨ましすぎるだろ、毎日毎日。

幾分背が高くて痩せ型で、尖った性格の彼も
これにはスッカリ丸くなり、
消え入りそうな声ながらも 顔は硬派なまま

「ありがとう、いつも…」と彼女に言った。

言うんだ、女子に、ありがとうなんて。
周りは驚いた。

無表情に近い感じで、看護師さんの様にテキパキと
補助していた彼女の手が止まった。

 「いいよ、そんなの。
    早く良くなんなよ」


彼女が男でオレが女なら、効くセリフだった。
イヤ、今でも十分効いている。

小学生でも、女子は大人なんだなと思った。