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ヨーロッパのエクレア君の話し

エクレア君とは、ヨーロッパ圏に在住中、同じマンションに住んでいた犬の名前です。

飼い主さんは我が家の階下にお住まいで、たまにエレベーターでご一緒になる時がありました。

その頃の私は、家族以外に知り合いが誰もおらず、徒歩圏内で買い物に行くのが精一杯の、ドキドキした毎日を送っていました。

唯一、自宅の窓から外を眺めてホッとして、
あと何年、この国に住めば日本に帰れるのだろうかと、後ろ向きなことばかりを考えていました。
そんな時に、マンションの入り口から、毎日ほぼ決まった時間に走り出すワンコがいたのです。
それがエクレア君でした。首輪はしていますが、リードはあったりなかったり。飼い主様はゆったりとその後をついて行く…少し足の不自由な御婦人でした。
朝とお昼前、夕方と夜寝る前頃の計4回は、必ずお散歩に出ていました。

エクレア君はとても賢くて、リードが無くてもマンション前の歩道で一度お座りをします。そして車や自転車が来れば、先に行かせるのです。

『ボクは飛び出さないから、先にどうぞ』の合図が
歩道にお座りなんです。
それでも運転手さんが行っていいよ!と合図を送っても、決して動きません。伏せてしまうんです。
『ボクは止まって待ってるよ!』の最上級の合図です。
中に人間が入っているかの様な仕草で、どうやったらそんな賢く躾けられるのか…とても不思議でした。

一度、飼い主様とお散歩しながらエクレア君の事を聞きました。すると処分場から引き取った子だよと教えてくれました。正確な年齢は分からないけれど、多分今は6歳くらいね。オジサンよと笑って教えてくれました。パグと何かのミックスとの事でしたが、犬種名が聞き取れませんでした…
その後、飼い主様宅にご招待頂き、お茶をご馳走になることに…。
私は(自慢じゃないですが)会話がままならない語学力です。聞き取る事はできますが、返事ができません。しかし通訳アプリもない時代。辞書を持参する訳にもいかず、なんとかなるさと勇気を出して、いざエクレア君宅に…

するとエクレア君、大歓迎💓自分の1番のお気に入りのオモチャを私に持ってきて、遊びに誘ってくれます。
ありがとうを連発し、お腹を撫で撫でし、ペロペロ返しされて、飼い主様に呆れられ…

『あらエクレア、随分気持ち良さそうじゃない?
いつもと違うリラックスの仕方ね。
飼い主は誰だったかしら?www』
なんてヤキモチを妬かせるくらい仲良しになりました。

その後も度々見かけたエクレア君。こちらが気がつかなくても、後ろから全速力で駆けてきてくれた
エクレア君。
一度、エレベーターに乗ろうとしたらエクレア君だけがポツンと中に座っていました。
驚いて、お家に帰るの?それともお散歩?
と聞いたら『お家(HOME)』でワン!とお返事してくれました。ですから、エクレア君のフロアでボタンを押して、ドアを開けると、スタスタとエレベーターを降りて行くのでした。
もぅ、ホントに人間が入ってますよね。

あれから約十五年経ちました。
私は二度の引っ越しをして、また海を渡りました。

知り合いが本当に少ない国でしたので、とても心が辛くて仕方がなくて、途中3・11もあって、眠れない日も続いて沈みがちだったのですが、なんとか乗り越えられたのは、エクレア君と優しい飼い主様のお陰です。(この場をお借りして感謝を伝えたいと思います。ありがとうございました。)

        (*ワンチャンのお名前は仮名です)