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〜創作〜 まだ僕のものじゃない

広いフロアの中にいる、1人の女の子だったんだ。
話したこともなかった。
グループが10もある大所帯の開発チームじゃ、よくあることだから。
席も遠いしな。


「なんのお願い、聞いてもらおうかな〜」

 急にオレ、崖っぷちに立ってるじゃん。
 
 息止まりそう。


職場でボウリングが流行り出した。

定時退社日に、何レーンか借り切って遊ぼうってなったんだ。
くじ引きでチーム決めて、その中に彼女がいた。

青いボール持って、チョット左目にスタンバイ。
一瞬静止して真っ直ぐレーンを見てから、
そっとボールを置くように投げるんだ。
素直だな。

いいところにいくんだけど、ストライクがなかなかでない。
スペアも取れたり取れなかったり。
でも前にやってた事ありそうだな。
彼氏から教わったとか かな。


…あ、スプリットだ。7-10かな? 
彼女らしい、
ど真ん中いったか。

「アレ、どうやったら倒せると思いますか?」

オレに聞いてきたか…どうしよう

久しぶりに投げている割にスコアが良く、
ストライクが出ない割に、スペアでカバーしているオレが、彼女の目に
グループでは上手い人認定されてしまった様だ。

さっきから何となく見てても、彼女はストレートのボールしか投げていない。
回転なんてかける気もなさそうだ。
コレじゃスペアなんて無理な話しだが、
こんな真っ直ぐに見つめられて聞かれたら、
何か応えないとマズいぞ…

「ま、とりあえずさ、ギリ左に立って 左のピンのギリ右狙って 右のギリ左狙ってみたらどう?」

「………ごめんなさい、
  もう一回言ってもらってもいい?」

「え?あ、え〜と、
 左倒してから右倒せばいいんじゃね?」

なんとか絞り出した応えは、今思うと
初めて話す女の子にする言葉使いでは
なかった気がする。

「ありがとう、やってみるね!
 もし倒せたら、なにか1つお願い聞いてくれる?」

 倒せるわけないよ、プロだって難しいんだぜ、
それ。

「いいよ、なんでも聞いてあげるよ」

オレ、初めて話した女の子に
なに
カッコつけてんだよ
周りに仲間居るのにさ、イヤ、居るからだな。
きっと彼女は3歳程年下のはず、
無茶なことも言わないだろ。


「ヤッタ〜ッ!凄い私〜!」

周囲のどよめきを纏いながら、彼女がオレの前に帰ってきた。

ウソだろ、倒したのかよ アレ

ウソだろって、マジで

ヤバい、今 この声しか聞こえない

「なんのお願い、聞いてもらおうかな〜」


  彼女はまだ僕のものじゃない。