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〜創作〜 幸せになるんだよ、俺はキミのお守りになる。

卒業式も終わり、新学期が始まる春休みのちょうど真ん中の日に、電話がかかってきた。

卒業生の女の子だ。
この子は一昨年、担任したな。

「卒業おめでとう。どうしたんだい?」
いつも通りの声で話しかけた。
数秒の内に、彼女の声色を思い出そうと
フル回転だ。

恥ずかしそうだけど、少し大人びて
聞こえる声に、幾分違和感を感じた。
何かあるな…。
でも焦るなよ、待て待て。
向こうから言いやすいようになるまで、
ゆったり構えてやればいいんだから。
頭で分かっているはずなのに、つい言いそうになる

「なにかあったんだろ?」


案の定 彼女の口から聞いたのは、
今付き合っている
彼氏からのDVまがいの話しだった。
別れたいが、好きでもあるらしい。
親が立ち入りそうだが、それは困るので
自分でなんとかしたいが、
もう訳が分からないらしい。
18歳と言ったって、まだまだ子供だ。
いや、自分でも同じようになるかもしれん。

電話では埒があかないからと、来月の平日
夕方に会う約束をした。
卒業したし、彼女はその時大学生だ。
問題ないだろう。

当日彼女の大学の近くで待ち合わせをしなかったら、俺は彼女を見つけられなかったかもしれない。
全くの女性になっていたからだ。

数週間でこんなに変わるのか…女性は…凄いな。

とりあえず車を走らせ、気分転換させた。
この間の電話の時より元気そうだ。
化粧のせいなのか、髪型のせいか
運転している俺は直視できない。

適当にファミレスに入り、軽く食事をした。
あまり遅くなる前に 送り届けないと、マズいな。

話の内容はこの間と同じだ。
どうしたらいいのか分からないと。
簡単だよ

「 ヤメチマエ ソンナ オトコ 」

言えないんだよな コレが。
オレが悪者になりそうだ…
極力自分で「やめる!」と言ってくれる方に
話を持っていく。
頼む、泣くな…オレが悪者になる…

在籍中から賢い子だったんだ。

「ごめんね先生、奥さんが待ってるよね」
って席を立った。

コレだろ、彼氏が手放さない理由。
優しすぎるんだぞ、おまえ。

助手席に座った時には、全く普通に戻った顔して
「家の近くまで送ってね」
なんて可愛いこと言ってるけど
気づいてないなら後で教えてあげるよ。

彼女が免許が無いのを良いことに、
わざと遠回りをして、海沿いを走った。
ここの方が近いんだよ、(嘘だよ)
この時間、激混みでさ、(そんな事あるもんか)
ちょっとガス入れてくね。

時間まで稼いで、自分がなにを言いたいのか
自問自答してる。
なにやってんだよ、早く送れって。
だってもう会えないかもしれないぜ?

彼女の家の少し手前で車を停めた。

バックミラーに付けていた
交通安全のお守りを外して 手渡した。

「いいかい? オレはお前のお守りになってやる。
 お前は優しすぎるんだ。
こんな風に、簡単に男と2人で車に乗るんじゃない。
もっと自信を持って、言いたいことを言いなさい。
分かったね?」

顔を伏せたまま、彼女が小刻みに震えているのが
暗くても分かる。
声を殺して泣いてるんだ。

気を利かせろよ、サイドブレーキ。
抱きしめるのに邪魔なんだよ…

落ち着いた彼女は、
「もう 彼と付き合うのやめる」と言った。
 
 それだけ聞ければ十分だ。

今日のいろいろと、ファミレスと、お守りの
お礼を言って、彼女は帰って行った。

 幸せに なるんだよ オレの教え子。
 
 俺はキミのお守りになる。