好きな短歌
くるおしくキスする夜もかなたには冥王星の冷えつつ回る /大滝和子
立てないくらい小さな星にいるみたい抱きしめるのは倒れるときだ /雪舟えま
読みさしのまま返された本からはあなたの匂い 油断していた(伴風花)
恋の映画の舞台だったよ過疎りゆく街はあお向けのまま笑った(雪舟えま)
寝たふりをしながらいろんな音を聴くあなたが夏を思い出す音(伴風花)
「疲れたらすわつていいです」子の描きし椅子の絵に今夜月光すわる /米川千嘉子
ぼくはただあなたになりたいだけなのにふたりならんで映画を見てる(斉藤斎藤)
飛び込んだ君の波紋がこの足をくすぐるまでを永遠と呼ぶ/永久記憶装置
私たちだけの世界をつくろうよグリンピースを法で禁じて(山田水玉)
廃線が砂漠に規範を敷いている広さの、古さの、そして心の 「No way」千種創一(外大短歌4)
一千九百八十四年十二月二十四日のよゐのゆきかな 紀野恵 #jtanka
新という手話は花咲くさまに似て旅立つ君は振りかえらない(Tetsu)
ひとりでも生きていけるという口がふたつどちらも口笛は下手/ソプラノ/松野志保
改札の機械に吸い込まれてゆく愛した人が暮らす街の名(嵯野みどりは)
眺めのいい部屋で生まれた恋だから柩に入れるサフランの束/地上の詩/松野志保
たこ焼き屋の手さばきガラスにくっついて見ている 恋がかなわないの(雪舟えま)
あの人がもうすぐ死ぬの厳冬に終わりを競う恋と昭和と/純血/月にいる人
白い菊の海に一本入れました 祖父は今でも座り続ける(東直子)
縦書きの国に生まれて雨降りは物語だと存じています(飯田和馬)
見えますか食べものを出しっぱなしのテーブルあれが北海道です
君を刺すトゲを丸めてひとつぶのこんぺいとうに世界よ変われ(文月郁葉)
「電車まだとまっているね」「バスあるし」名前のまだない揺れの当日 柳本々々
つるつるのおでこを夜中に撫ぜている(あなたのやさしい角を返して)(飯田彩乃)
真っ白なきみの吐息につつまれてひろがることを思い出す指(伴風花)
「ただいま」と言うより先に「カレーだ!」と顔輝かす人のいる日々 (てふ)
言はざりし言葉は言ひし言葉よりいくばくか美しきやうにも思ふ 稲葉京子
きみの描くインテグラルのなめらかにノートの海を舞った放課後(山浦義貴)
「優しいでしょう?」とあなたは得意げに言って優しくないふりをする (飯田和馬)
雷で停電したよね夏期講習 (あのときしばらく目があったこと)(伴風花)
月は好き 手ざわりなんてないのだし 距離を保った友人のよう /林あまり
50分きみを占有するためにわざと忘れる現社の図説/岡野大嗣
授業中指名されてる君を見てわたしも緊張するの知ってた? (松原)
真夜中にメールひらけば黒髪にくちづけされたような「おやすみ」(月夜野みかん)
嬉しくて風を殴った嬉しくてもう痩せたいとおもうことなく/雪舟えま
代名詞ゆえのさみしさ友だちと月のパルコでまちあわせして(兵庫ユカ)
身の丈の幸福などは 明け方の路上にチョークの人型ふたつ/モイラの裔
年賀状だけで連絡とっていた彼女の白いウェディングドレス (中森つん)
まず君の名をよぶ朝(あした)ゆっくりと声帯に血はかよいはじめる/二重夏時間/松野志保
人の名を呼んだりしない秋天の星は無限の吸音装置 /杉崎恒夫
オブラート溶けゆくように手をはなし君が巣立った部屋に空白 (田中ましろ)
息継ぎを教わったのだ君の名を呼ぶため深く深く吸う息(文月郁葉)
止まらずに常に動いていますただあなたと同じ速度なのです (たた)
屋根裏の鉱石ラジオが受信するホルスト組曲惑星ジュピター(文月郁葉)
なんでなんで君を見てると靴下を脱ぎたくなって困る 脱ぐね 増田静
ラブレターの化石が発見されました 君が寝そべるソファの下で(七波)
手の中で消えてゆくもの ひとひらの雪 君の手の温もり 祈り(文月郁葉)
転調で初めて触る黒鍵の冷たさに似る君の指先(須田まどか)
けものさえ踏んだことのない原野が息づいている羊羹の中/雪舟えま
あの日から雨の止まない中庭にあなたの声を待つ人がいる(文月郁葉)
華やかな破滅は来ない酸性雨にゆっくりと溶けてゆく東京/永久記憶装置/松野志保
「会いたい」の真偽は問わずスウェットで行くよ眉毛もなくてごめんね (山田水玉)
太陽と月と砂しかない場所でひっそりと震えだすコピー機 /笹井宏之
恋になる手前だったし寒空のベリーショートを後悔してる (葉山なぎ)
波のせい潮風のせいわたしたち手をつないだらもう帰れない(文月郁葉)
声 光 水 噴き上がり、かつて夏だったことなど一度もないよ / 笠木拓「嘘と夏の手」/「京大短歌」20号
ひとりでも生きていけると知ったからきちんと君と手を繋ぎたい(とき)
「はなびら」と点字をなぞる ああ、これは桜の可能性が大きい 笹井宏之 君はしゃがんで胸にひとつの生きて死ぬ桜の存在をほのめかす 堂園昌彦 (どちらも「桜」という連綿と続いてきた言葉、概念のもつ量子性をとらえて感動的だが、それは言語感覚によってではない。運命への生の脊髄反射だ。)
降る雪は白いというただ一点で桜ではない 君に会いたい(鈴木晴香)
出迎えるためにひらいた両腕がクワガタのようでまだ広げてる(飯田彩乃)
なめかけの飴をティッシュの箱に置きついに住まない城を想えり/雪舟えま
この地図に残らないこと この街で笑っていたこと生きていたこと(文月郁葉)
焦がれてた夏があったということを忘れることに慣れなくて夏(たきおと)
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