聞こえないふり

 妙に気が合う人が居る。

 先日、孫を連れて裏の田んぼ歩いてたら、近所の人の旦那さんが「オイ、麻子さんトコの孫達が遊んでるけど、後を不審な男が付いて歩ってるから気をつける様に言ってやれ」と、奥さんに言った。という話を、その気の合う人にした。

彼女は、「ハッハハー!と豪快に笑って「麻子さんらしいわー」と言った。

 余り喜ぶので、昔、娘を海に連れて行った時に、そこで遊んでいた子供たちにカニをあげたら、そこに居たママたちに「お兄ちゃんにありがとうは?」と言われた話をして、また受けた。

すると、「麻子さん、あたしもそういう事あったよ。大分前になるけどあたしラッタターに乗っててさ、交差点で止まって待ってたら隣に泊まった軽トラのおじさんに『兄ちゃんよ、もう少し寄ってくんねえかな』って言われてさ、誰のことかと思ったらあたしの事だったのよ」

「受けるぅ、分かるわぁー、ありそうー」

「でしょー、ちょー、面白かった」

「だよねぇ」

と、話していたら話に入ってきた人が居た。上品な感じでウチらとは別のタイプ。

私たちが、男と間違われたという所で「エッ、失礼な!」と言い、

「ウチらには男オーラがあるよね」に対して「そんなことありませんよ」と言った。

「だけどさ、私、あなたの親に対する言動見てると自分と同じだなって思うの」

「そう?光栄だわ」とハスキーボイスの彼女。

「うん、言葉は乱暴だけど親切だよね。表面だけしか見ない人には分からないだろうけど、お母さんあなたのことを一番頼りにしてるし、大好きだよね」

「そうかな」

「だけど、年寄りって、何かにつけて『怒られた』って言わない?」

「言う、言う。で、知らない人が『もっと優しくしてあげて』なんて言うのよ」

「怒ってるわけじゃないけど言葉が荒いのは、生まれ育ち性格で簡単には直らないわよね」

「そーそー」

と、そこに上品な彼女が、

「アタシは、嫌だと思ったら聞こえないフリしちゃう」

それを聞いて、二人声を揃えて言った。言ってしまった。

「えっ、サイテイー」

「だって、旦那の親よ」

「えー、旦那の親も同じ自分の親じゃないの?」

「だって、揉めたくないでしょうよ」

「ふーん」

彼女が居なくなってから、聞こえないフリをする人って何なんだろうね。という話になった。

「結局、自分が可愛いのかな?」

「聞こえないフリをする人には家族親兄弟、子供、舅姑に好かれていない気がする」と彼女は言い、

「どういう事情でも、聞こえないフリをする自分を好きになれるのかなぁ?」と私が言って話が終わった。


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