ホロコースト否定論の方法論
マイクル・シャーマーの『なぜ人はニセ科学を信じるのかⅡ』では、ホロコースト否定論(ナチスによるガス室等を使用した大量殺人〔ホロコースト〕は、実際に無かったという主張)や創造論者(進化論を拒否し、神が創りたもうたとする創造論は科学的と主張し、進化論を教えない、あるいは「創造論」と一緒に教えるべき、と主張する人)において、類似する方法論を使用しているという指摘をしています。
それらの方法論は、ホロコースト否定論者や創造論者に限らず、『質の低いネット議論』にも受け継がれているような気がしてならないので、紹介します。
1 みずからの見解に関する最終的結論をほとんど述べずに、相手の弱点を集中攻撃する。
たとえば、(ホロコースト)否定論者の場合なら、目撃者の証言に見られる不一致を重点的に攻めようとする。
2 対抗する主張の主たる学者たちが犯した失策を利用し、相手の結論が少しばかりまちがっていたからという理由で、その結論は「まったく」のまちがいだとほのめかす。
(ホロコースト)否定論者は、人間石鹸にまつわる噂が、実は作り話だと判明したことにふれ、歴史学者たちがアウシュビッツでの死者数を400万から100万に減らしたことを理由に、「信じられないほど規模が小さくなったホロコースト」について話す。
3 自分たちの意見に説得力を与えるために、有名な主流派の言葉を断片的に引用する。
(ホロコースト)否定論者は、イェフーダ・バウアーやラウル・ヒルバーグ、アルノー・メイヤー、そしてナチスの指導者の言葉まで引用している。
4 彼らは、ある分野における特定の問題点に関する学者たちの純粋無垢な議論を、その分野全体の是非にかかわる論争だと誤解している。
(ホロコースト)否定論者はホロコーストの拡大についての目的論派と機能論派の議論を、ホロコーストがあったか、なかったかという論争としてとらえている。
5 一般に知られていないものには注目するが、知られていることは無視し、またどうすればホロコーストがあったことがわかるのか都合のいいことは強調するが、都合の悪いことは軽視する。
(ホロコースト)否定論者は、ガス室について一般に知られていないことに注目し、証人たちの報告や、大量殺人にガス室が使用されたとする法廷答弁をすべて無視している。
※ マイクル・シャーマー『なぜ人はニセ科学を信じるのかⅡ』より
【解説】
ちなみに、3番で言う「主流派」とは、ホロコーストを肯定する者や進化論を支持する者、つまり「自分達と対立する側の人間の主張」を引き合いに出すことをさします。
もちろん、自分達とは相反する主張をそのまま使うはずはなく、発言を断片的にだけ取り出した上で、自分の都合のいいように解釈し、自分に対立する者に対して「そっち側のはずの人間だってこう言っている」と言い寄るわけですね。
(「王様は裸だ!」の記事を改変してお引っ越し)
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