刺身の盛り合わせ
尊敬する人というのは意外なところで出会えるものだと思う。
道端にフライパンが落ちているくらいの確率で。
四つ葉のクローバーの横にかわいいお花が咲いているくらいの確率で。
大人が四人並んだら塞がれてしまう程度の道幅しかない近所の路地裏に魚屋がある。
オレでなければ見逃してたくらいの小さな魚屋なのにいつも途切れることなく人が並んでいる。
屋根はあるけど外との仕切りは無い半分屋外みたいなお店。
お魚屋さんの看板商品「刺身の盛り合わせ1100円」
10種類くらい大トロとかアワビとかハモまで山盛り入っている。
初めて食べた4年前、あまりの美味しさに踊った。
そのお店に刺身を盛り続ける大将がいる。
溶けそうな夏も、しとしと降る雨の日も、海の波まで凍っちゃいそうなくらい寒い冬も、
「刺身の盛り合わせ1100円」を朝から晩までただひたすらに盛り続けている。
きっとこの人は生涯で食べた米粒よりも多い数の刺身を盛り続けているのだろう。
そしてこれからも。
大将の手が動き続ける限りきっと彼は刺身を盛り続ける。
「炙りたてのハモ食うか?」
「国産のサーモンが入った。食うか?」
「ヒラメが入ってな」
お刺身が盛られるのを待っている間にたまに今日のおすすめを手渡しで味見させてくれる。
初め、生魚を手渡しってなんやねんと思ったけど手で食べる生魚というものは風情があって大変に良いものだ。
多分、魚は大将の血でもあり酸素でもあるのだろう。
そうでなければそれを一生続けられる理由の言い訳がつかない。
何年刺身を盛り続けてきたんだろう。
なぜ、魚に人生を託したのだろう。
私は何も知らないけど、盛られた刺身はいつも艶やかで喜びが詰まっている。
「まいどおおきに」
いつもお刺身を受け取った後はビニール袋に入ったお刺身を上から覗き込む。
フワッと満足感に包まれる。
どうしようもなく素敵な生き方だな、と思う。
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