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映画「騙し絵の牙」、騙されたのに続編を期待

前略 吉田大八監督さま

見事に騙されました。
なのに、悔しさなんかなくて、
むしろ心地よい、ヤラれた感で満たされています。

大泉洋さんをイメージした「あてがき」と言われた
塩田武士さんの原作を読んで、
そのスピード感ある展開に引き込まれ、
この複雑に絡み合った人間模様を映画では
どうやって描くのだろうかと期待していましたが―
吉田監督と塩田さんに、見事に騙されました。
こういうの、大好きです。

映画「騙し絵の牙」あらすじ

大手出版社「薫風社」に激震走る!
かねてからの出版不況に加えて創業一族の社長が急逝、
次期社長を巡って権力争いが勃発。

専務・東松(佐藤浩市)が進める大改革で、
お荷物雑誌「トリニティ」の変わり者編集長・速水(大泉洋)は、
無理難題を押し付けられ廃刊のピンチに立たされる…。

速水は、新人編集者・高野(松岡茉優)と共に、
イケメン作家、大御所作家、人気モデルを軽妙なトークで口説きながら、
ライバル誌、同僚、会社上層部など次々と現れるクセモノたちと
スリリングな攻防を繰り広げていく。

嘘、裏切り、リーク、告発――
クセモノたちの陰謀が渦巻く中、
速水の生き残りをかけた“大逆転”の奇策とは!?


小説の映画化ではない、新しい作品

小説や漫画の原作を映像化すると期待値が高いだけに、
物足りなさを感じることがこれまで幾度もあった。
自分の中で最適化されたイメージ映像は、
現実ではなかなか超えていかない。

「騙し絵の牙」は映画公開が延期した間に、
原作の小説を購入して読んでいた。
速水がいちいちかっこいいなーと感じながら、読み進んでいた。
40過ぎて50近い男はきっと、速水のような生き方に
憧れてしまうのは仕方ない。

自分を認めてくれる有力者がいて、
女にモテて、金もそこそこある―
いうことない。

小説では、速水と男女の関係にある女性が登場する。
おわゆるオフィスラブだが、実はこの相手が誰なのか…、
期待していたけれど、映画では描かれていない。
しかし、裏切られたというより、
ヤラレタ…という心地よさがこの映画にはあった。
小説の映画化ではなく、小説から生まれた新しい作品だ。


マスコミ業界のリアルさを描く

雑誌も、テレビも、新聞も、
マスコミ業界はいつも華やかさを放っていたが、
現在、業界は苦戦している。

雑誌や新聞は、目も当てられないほどの速度で部数が減り続け、
部数至上主義は完全に破綻している。

テレビも、マスコミの雄であることが
今はもう幻想に過ぎないということに
気づくことから目をそらしている輩がいる。

50過ぎ、60定年が見えているいわゆるバブル組は、
何とか逃げ切れると踏んで、多くの企業が旧態依然とした体制を
変えようとはしない。

そりゃあ、そうだ。
高待遇、高収入の現状を捨ててまで、
会社をよくしようなんてこと思うわけがない。
先行者利益を得た者たちが地位と権力を持って、
新しい若い芽を摘んでいる。

まるで明治の志士のように、
声を上げようものなら、牙を抜かれ、
潰されるのが関の山だ。

そんな古い企業体質を見切って、
自ら新しいスタイルの本屋を始めた
松岡茉優演じる高野恵のまっ直ぐさがまぶしかった。
闘うとはこういうことだということを
見せつけられた感がした。
今回の作品の中では、一番のやり手だったと言えるだろう。


速水の反撃、次回作を期待

今回の映画は、原作小説から新しい物語を生み出している。
個人的には、原作のラスト、速水が会社を辞めて
自分で出版社をつくるところが好きだった。
組織の中で非力な人間は、速水のような頭の切れる策略に
痺れてしまう。

現実離れすればするほど、速水への愛は膨らみ、
気が付けば、大泉洋さんが気になっている。

吉田監督、ぜひとも続編の製作をお願いします。
映画と小説、
映画館と書店、
エンタメの新しいプロモーションを
もっともっと大きなうねりに変えてください。

 

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