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今ガザで、結婚が増えつつある理由

結婚の知らせ


「今日はラファからデイル・アルバラに避難してきた姪のヘナの集まり(※)がある」

ガザに住む友人が、連絡をくれた。
(※結婚式の前に、花嫁になる人、親しい女友達や家族が集まり、手や足に複雑なヘナのデザインを施す。)

彼女は避難先に、花嫁道具として用意したものを箱やカバンにいれて持ち込んだ。ラファに新居を建てていたが、ラファの地上侵攻が開始され、婚約者はハンユニスに避難したため、結婚して、避難先で一緒に住むテントを準備することを二人は決断した。

なぜ、今結婚なのか


家族が結婚相手を決める伝統的な婚姻ではなく、恋愛結婚した二人にはラブストーリーがある。ただ、結婚するまでは、ひとつ屋根の下で同居することを許されていないのは、お見合いであっても、恋愛結婚であっても同じ。
「ひとつ屋根の下で、信じている男性と一緒になれることを姪はとても喜んでいる」と友人は話す。

テントの新居の写真がたくさん送られてきた。破壊されていない家の壁の一面を利用して、テントが建てられ、寝室には土の上に直に絨毯が敷かれていた。トイレスペースの横には鏡が掛けられ、テントの外に置かれた小さなカセットコンロで調理ができるようになっていた。
掛けられた鏡や、整理整頓された寝室の様子から、テント生活でも「人間らしく生きるとは何か」という意味を考えさせられた。

「今は何もかも失ってしまったけど、ラファ検問所が開いたら、機会をみて二人ともガザを離れるつもりでいる。別の国で新しい未来を築きたい」

このテント暮らしが一時的なものになるかは誰にも分からない。明日破壊されるかもしれない、または生き残れても、テント生活は長引くかもしれない。
同じように、ガザに居続けるか、離れるかの選択も、もはやガザの人々の自由な意思決定によるところではない。

海岸沿いに建てられた無数の簡易テント

完全に以前の姿を失ったガザに、未来を見出すことは容易ではない。ラファからの脱出資金をGoFundMeなどの寄付サイトで呼びかけている個人は絶えない。

「今、新郎の両親のテントに向かっているよ」と、新郎新婦の面倒係をする友人が、彼女と新郎・新婦の乗った車の中から撮った写真を送ってくれた。

花嫁が“育ての家”から巣立ち、“新しい家”に入るということを象徴するように、アラブ世界には、宗教に関わりなく、新郎家族が、新婦の両親宅に出向き、新婦を迎えに行くという慣例がある。

友人の姪の結婚式では、新郎が、家族と一緒に、新婦の両親のテントに彼女を迎えに行き、新郎の父親のテントで小さなお祝いをした。
結婚式らしいことはできなくても、ガザの細かな刺繍が施された伝統的なドレスを着た花嫁と、彼女の手を取って踊る花婿の顔には笑顔が浮かんでいた。

ガザの刺繍が施された伝統衣装を着た花嫁

新郎の母親も、自分の息子が結婚するのはこれが初めてで、この祝いの瞬間を大切にしたいと話していた。

これから、二人は自分たちのテントで新しい生活を始めるのだ。

”抵抗であるが、破滅的でもある”

最後に、ガザの友人の言葉を書き留めておきたい。

私たちは日々、これがすぐ終わるんだと信じてやっているけど、現実は厳しく、より困難を極めている。
正直なところ、何年もこの状況にとどまるのではないかと感じている
ラファでの作戦のあと、イスラエルがデイル・アルバラに侵攻するという噂もある。また市民にハンユニスや、マワーシに行けと要求するんじゃないか、何が起こるか分からなくて、みんな困惑している。
多くの人が、死が目の前に迫っているにもかかわらず、生き続けようとしている。だから今、新しい結婚がガザで増えつつある。一見それは楽観的で、ある種の抵抗のようにも見えるけれど、“セーフゾーン”のないガザで避難を繰り返して生きるといった状況に、私たちがなかば慣れつつあって、この生活を続けるために、これからの人生を計画し始めていることは、破滅的でもある。いくら強い気持ちを持っていても、ときどき目先が真っ暗になって、だから立ち止まって深呼吸しないといけない。それで少し吹っ切れた心を回収して、また続ける。戦士が、つかの間休息を取って、また戦地に向かうかのように。

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