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サウジアラビアのKAUSTで有給インターンシップをしている話 1

みなさんはじめまして、突然ですが皆さんはサウジアラビアという国にどんな印象を持っていますか?砂漠?イスラム教の厳格な国?サッカー市場を賑わせている?色々あると思いますが、結局のところあまりよく知らない人が多いと思います。

私は、そのサウジアラビアにある King Abdullah University of Science and Technology (KAUST) という大学でVSRPというプログラムで研究インターンをしています。滞在期間は半年です。先週末にKAUSTに到着したばかりなので、2024年の3月中旬まで滞在することになります。これから応募に至った経緯や、サウジアラビアでの生活について発信していこうと考えていますが、今回はサウジアラビアという国、KAUST、そしてVSRPという研究インターンシッププログラムについて説明しようかと思います。

サウジアラビアについて

サウジアラビアは中東アラビア半島の大部分を占めるイスラム教国家であり、世界有数の産油国でもあります。公用語はアラビア語なので、書き言葉(フスハー)と話し言葉(アーンミーヤ)で言語が異なります。具体的には、使用文字は同じですが、発音や語彙が大きく異なるそうです。また、話し言葉も地域によって話される方言が異なり、湾岸方言、ヒジャーズ方言、ナジュド方言などが話されています。イスラム教の聖地メッカなどが位置することもあり、長らくイスラム教の戒律が非常に厳しく、観光目的でのビザも発行されないなどの状況が続いていたのですが、2017年に皇太子になったムハンマド首相の主導のプロジェクト、サウジビジョン2030によって改革が急速に進んでいます。

サウジビジョン2030は、サウジアラビアの石油輸出への依存を減らし、教育、経済、観光を開発、強化し、サウジアラビアへの国際社会のイメージを穏和なものにすることを目標とするプロジェクトです。2019年には女性の車の運転が解禁、レストランにおける男女分離政策が撤廃、日本を含むいくつかの国への観光ビザも発給されることになりました。2020年には鞭打ち刑が廃止されています。2023年にはロナウドやネイマールといった超有名サッカー選手を獲得したことでサッカーの移籍市場を大きく賑わせました。

この政策は確かに成果を上げ始めているようで、非石油分野のGDP比率や労働力人口総数に占める女性の割合が大幅に増加しています。日本で知り合ったサウジアラビア人の友人も、この5年間で国が大きく変わったと言っており、KAUSTで働いている研究室のポスドクも、サウジアラビアはこの6年で非常に良い方向に進んでいると強調していました。

しかしながら、外国人に対して例外規定を設けているドバイやアブダビと異なり、ハラーム(禁忌)への規制は非常に強いです。アルコールや豚肉はKAUSTの中であっても入手することはできず、持ち込みは厳しく制限されています。ヨーロッパに留学していたとき、アパートの上の階で毎週のように朝まで行われていたパーティがうるさくて眠れなかった経験がある身からすると、お酒がない分そういった問題に悩まされることがないのは非常に嬉しいです。

絶対君主制国家なだけあって、「反応速度」は非常に速いです。2022年のサッカーワールドカップでサウジアラビア代表がアルゼンチン代表に大金星を上げた時に急遽翌日が祝日になった話は記憶に新しいです。上述のサウジビジョン2023の実行やディープテックへの投資も迅速に行われているように思います。

KAUSTについて

King Abdullah University of Science and Technology (KAUST) はサウジアラビア第2の都市ジェッダから車で1時間ほどの都市、トゥワルに2009年に設立された比較的新しい大学院大学で、サウジアラビア初の男女共学の大学です。大学院大学なので学部生はおらず、修士学生、博士学生が主な大学構成員です。大学内の公用語は英語で、全学生の76%が留学生のグローバルな大学です。

特筆すべきは学生への待遇で、全ての修士学生および博士学生は、1. 学費、2. 大学内の住居、3. 医療サービス、4. 母国から大学への渡航費用に加えて、5. 年20,000ドルから30,000ドルの生活費が支給されるという破格の待遇です。その圧倒的な財力をもとにして、2021年の Nature Leading 150 young universities では 6位にランクインするなどKAUSTは近年急成長を遂げています。背景には、脱石油モノカルチャー経済を目指すサウジアラビア政府の思惑があると考えられます。

大学面積は地上の16.4平方キロメートルの敷地と19.6平方キロメートルの海洋保護区を合わせると36平方キロメートルにもなり、これは山手線の内側の面積の半分以上にも相当します。キャンパスの中には図書館の他に、学生も無料で使えるトレーニングジムやサッカー、テニスコート、ボウリング場や映画館、ビーチなどがあり、考えうるほとんどのレクリエーション施設が揃っています。ヨットやスキューバダイビングなどを体験することもできるようです。スーパーマーケットに病院や警察署、小中学校もあり、文字通りの学園都市が形成されています。

キャンパス内の交通手段として、朝6時から夜6時までは通学バスが15分間隔で走っています。夜6時以降は通学バスはなくなりますが、深夜1時まではUberのようなモバイルアプリを用いて乗合バスを配車することができます。これらのバスサービスは完全無料です。その他にも教授たちは車やバイクで通勤していることが多いようです。自転車やレンタル電動キックボードで通学している学生も多くいます。

研究を行う上で必要なものが全て揃っていて、中国出身のPIは、KAUSTに必要なものは全て揃っていると言っていました。私の指導教員も、KAUSTは Reseach Utopia だと言っていました。私自身も研究に集中できる環境が丁寧に整備されているなと感じています。


夜のディスカバリースクエア(レストランや映画館が並ぶ区画)

VSRPについて

Visiting Student Research Program (VSRP) はKAUSTが通年で募集している学生インターンシップで、3年生以上の学部生か修士学生が対象です。ただ、学部3年に満たなくとも、受け入れ先の教員が認めればインターンシップに参加できることもあるようです。150を超える研究テーマがあり、それらの中からテーマを一つ選んで応募して、面接を経て合否が決まる、という流れです。詳しくは、公式パンフレットを参照してください。

具体的な応募の流れは後日説明するとして、このインターンシップの特筆すべき点は、1. 通年募集であることと、2. 大学内の住居と保険料、往復の航空券に加えて、月1,000ドルの生活費が大学から支給されるという点です。夏季休暇中のみの募集が多い他のインターンシップと比べて、通年で受け入れ学生を募集しているというのは非常に魅力的でした。事務の人に話を聞いてみると毎年90~100人程度の学生を受け入れているそうです。ここでもサウジアラビア政府の太っ腹さがわかります。

VSRPの学生も大学内でアクセスできる設備は他の学生と変わりなく、学生証やメールアドレス、各種システムのアカウントが発行されます。私も先日、配属先の研究室のオフィスで自分のデスクが割り当てられたところです。私の研究室は非常に仲が良く、毎日多くのメンバーが食堂で一緒にランチを食べます。他愛もない話が中心ですが、研究室のメンバーが非常に優秀であることを実感します。私がKAUSTに到着した翌日には3人がGAFAでの夏季インターンを終えてサンフランシスコから帰ってきてその話をしていました。私の今のデスクは元々別の学生が使っていたけど、Oxfordでインターンをしていて帰ってこないから使っていいことになったと話をされました。


オフィスの窓からの景色。日中、屋外の気温は38°C程度でものすごく暑い。

到着して1週間経った所感

新しい環境にやってきていろいろなことを経験したからか、この1週間は非常に長く感じました。大学はもちろんインターナショナルなのですが、中国からの留学生の多さを実感します。居住者全体の15~25%が中国出身なのではないかと思います。一方、日本人は今のところ私以外に一人も見かけておらず、VSRPの事務の方は日本人がインターンでやってくるのは非常に珍しい、受け入れ先の指導教員も初めての日本人学生だと言っていました。五條堀孝先生をはじめとした、日本人の先生はある程度いるようなのですが、日本人の学生はほとんどいないものかと思われます。KAUSTでの生活を知るにあたって先生のブログに大変お世話になったので、今度お礼に伺おうと思います。ロシアからの留学生が思いの外多くいることに驚きました。日本との違いを感じます。

今後について

VSRPの応募プロセスやサウジアラビアでの住居や食生活、レジャーや旅行についてゆっくり発信していこうと思います。

おまけ

サウジアラビアでは、屋外が非常に暑いのに対し、屋内は20°C程度に設定された冷房で非常に寒いので、建物の中から外に出るときにメガネが曇るという謎現象が起きます。また、KAUSTでは、結露を防ぐためにエアコンの設定温度を高くしすぎたり、エアコンの電源を切ることが禁止されています。



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