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土木学会声明「海外インフラ展開に向けた変革のための提言」(要約版)

土木学会事務局です。

本日、令和 3 年 5 月 28 日に土木学会は「海外インフラ展開に向けた変革のための提言」という声明を発表いたしました。本記事はその要約版を転載したものです。声明の要旨ならびに全文は以下URLで公開しております。具体的内容についてはリンク先掲載のPDFをご参照ください。

※本記事のリンクは事務局で設定したものです。
2021/06/10追記  5/28に開催した「土木学会声明『海外インフラ展開に向けた変革のための提言』発表シンポジウム~質の高いインフラ 日本のブランドとプライドをかけた挑戦~」の動画を掲載しました。

1 「今後の海外インフラ展開に向けた変革のあり方検討会」の設置の目的

「我が国のインフラ関連産業にとって、そのビジネスの場を海外に展開することは、当該産業界の将来性の確保のみならず、我が国の国益上も極めて重要な課題である。そして海外展開を推進するためには、我が国のインフラ関連産業が『強み』や『オリジナリティ』を発揮すると同時に、自らの『弱点』を正しく認識し、多様なビジネス形態や競争社会でも活躍できるように自らを『変革』しなければならない。」

このような問題意識のもと各界で海外展開に携わるメンバーによって検討会は組織され、我が国のインフラ関連主体が世界で活躍するために認識すべき問題点や課題、対策、今後のあり方について検討し、本声明がとりまとめられた。

2 海外インフラ展開に関する現状認識

1. ODA を通したインフラ関連産業の世界貢献:我が国のインフラ関連産業の海外事業への取り組みは ODA(政府開発援助)に始まる。日本の ODA は被援助国の経済発展に貢献した。インフラ関連産業は ODA を通じて世界の経済発展に大きく貢献してきた。

2. 日本と世界の建設業のポジションの変化:欧州コントラクターは PPP 事業への参入やM&A により急成長を遂げた。中国企業は国内・国際事業共に確実に実績を積み重ねている。日本は国内事業が順調であったが故に海外事業への取り組みが低調であり、ODA依存の傾向がある。激化する国際競争の中で、建設技術の差異は縮小し日本の優位性は失われつつある。

3. 今後も拡大する世界のインフラニーズ:世界のインフラ投資は今後も旺盛である。老朽化する既存インフラの維持管理・更新の市場も増大する。我が国の土木技術が世界のインフラ整備・運営・管理に貢献できる機会は「無限」に存在する。

4. インフラ開発のためのファイナンス環境の変化:ODA 卒業国の増加や対外公的債務の増加に伴い相手国の借款案件への消極的姿勢もみられる。膨大なインフラ整備ニーズに対応するためには、ODA や国際開発金融機関からの融資だけではなく、むしろ民間資金の活用が欠かせない。

5. 我が国技術の継承と発展:我が国の国内市場は少子高齢化・人口減少により縮小傾向にある。大型プロジェクトも目に見えて減少している。海外市場の更なる取り込みは、我が国の経済成長の実現と併せて、土木技術・ノウハウの伝承・発展の観点からも重要である。

6. 政府の掲げる目標:政府は「インフラシステム海外展開戦略 2025(2020 年 12 月)」をとりまとめ、2025 年における我が国企業の目標受注額を新たに「34 兆円」とした。この目標達成のためには、我が国の産学官が連携した一層の取り組みが不可欠である。

3 海外インフラ展開の本格的推進に向けた基本的方向性

1. 日本企業の一層のグローバル化と国際競争力の向上:海外展開を進めていくためには、海外事業のリスクを低減させること、我が国のインフラ関連産業の国際競争力を恒常的に向上していくこと、日本の技術を支えてきた中小企業を含め、多くが海外に視野を向けること等が必要である。

2. インフラのサービスプロバイダーに向けた展開:途上国政府のインフラに対するニーズも「造って欲しい」から、「サービスとして提供して欲しい」と変化している。グローバル展開に新たな活路を見出すとすれば、自らが運営・管理した上で「サービス」を提供する、サービスプロバイダーへの変革が求められる。

3. インフラ PPP 事業に於ける日本企業の課題:日本のインフラ関連産業のほとんどが国際的な PPP 事業の経験を持たない。企業が世界で戦うための方策を官民一体となって取り組む必要がある。また、国際的な契約方式やファイナンス手法など、世界の潮流を理解し、専門家と事業を組み立てる能力を身につける必要がある。

4. 「質の高いインフラ」というブランドの推進:我が国は、「質の高いインフラ投資(Quality Infrastructure Investment)」を主唱し、関係国と合意、世界共通の概念として普及、啓発、実践するという課題がある。「質の高いインフラ」を日本の共通の「ブランド」として戦うためには、政府はあらゆる施策を総動員して、企業の取り組みを支援することが重要である。

5. 「質の高いインフラ」の課題、競争力と付加価値:日本は「質は高いが値段も高い」という評価が定着している。過去の事例を産学官で収集・分析し、課題解決を図る必要がある。「質の高いインフラ」という日本ブランドを定着させるためには、価格競争力の確保、仕上り・品質・寿命等による差別化、付加価値等の強みを総合的に見出す必要がある。さらに、企業には「質の高いインフラ」を推進するための製品保証(プライド)とトラックレコードを積み上げるための取り組みが求められる。

6. ODA の積極的な活用による安定した市場の形成:ODA を基軸とした戦略的な取り組みも重要である。ODA と PPP を組み合わせたプロジェクトの形成、ODA によるソフトインフラ対策(各種法・制度整備や人材育成など)など、これまで以上に戦略的に取り組むことも重要である。また、マスタープラン作りから、開発実施、完成に至るまでを日本がしっかりとコミットするためには、責任を持ってプロジェクトを見守る必要があり、そのことを可能とするための仕組み・制度を産学官で取り組むことが重要である。
さらに、ODA の実施に伴って生じている諸問題のうち、特に、二国間の調整を必要とするような事項については、政府が主体となり、解決を急がねばならない。

7. 新たな課題への挑戦、SDGs、カーボンニュートラル、DX:気候変動に対応したカーボンニュートラルや適応策の取り組みや、デジタル社会への対応、SDGs などは、時代の要請である。海外インフラ展開においても、これらを国際的な課題として捉え、対象国の課題解決に貢献する必要がある。最先端の DX は、インフラ関連主体が総力を上げて取り組むべき課題である。他方、DX によって日本の経済成長推進するためには、前提となるデジタルリテラシーの底上げを図らなければ、それが日本の成長の障壁となる。

8. 複雑化する都市問題への対応、全体最適化した解決策の探求:多くの国では著しく都市化が進展し、住居、交通、上下水道、廃棄物など様々な都市インフラ問題が発生かつ複雑化している。解決のためには、都市全体を俯瞰的に把握し、全体最適化した解決策を示すことが必要である。デジタル・ツインやスマートシティなどの新技術の適用も有効であると考えられ、産学官共にイノベーションを積極的に推進し、技術開発を進めなければならない。

9. 技術基準の英文化、国際基準の取り込み:我が国技術を広く世界に発信するためには、我が国で整備している各種の技術基準等を英語化し、世界に発信することが重要である。戦略的に技術基準を選別し、翻訳を進め、グローバルな普及・展開を目指するべきである。日本基準の翻訳と並行して、世界で広く使われている技術基準等を我が国で試行・確認し、取り込むことも必要である。日本基準と国際基準が異なる状況は、国内企業の海外進出を阻む一つの障壁ともなりうる。内なる開国を必要とする。

10. 人材の確保、次世代を担う「人財」の育成:人材確保と人材育成は何にも増して第一に取り組むべき課題である。特に、1)俯瞰的な視野を持った土木技術者の育成、2)大型プロジェクトに対応できる若手のプロジェクト・マネージャーの育成、3)国内と海外の技術者の流通、4)国際的なリーダーシップの取れる人材の育成などが重要である。

11. 学会内で議論、検討することの意義:学会は基本的には個人の集まりである。母体を異にする多様な個人が自由に集い、議論し、共に学ぶことができることが、他の組織との相違点である。そしてそこにこそ、土木学会が「海外インフラ展開に向けた変革」について考える意義があった。このような取り組みは今後も継続させる必要がある。

4 インフラに関わる各主体に向けた提言

日本のインフラ関連業界がグローバルに活躍して、健全な発展・成長を遂げ、日本のみならず世界のインフラを支える存在になるためには、一層の飛躍と変革が必要である。そのために、本検討会(土木学会)は、インフラに関係する各界に対して、次のような「提言」を示す。

4-1 我が国インフラ関連産業への提言

4-1-1 インフラ関連産業共通

1. 従来型ビジネスモデルからの脱却、Value Chain の拡大:我が国インフラ関連産業は、ODA を中心とした従来型のビジネスモデルに囚われず、Value Chain の拡大やインフラ投資ビジネスへの対応、多様な資金源への対応などを図り、収益機会を拡大させることが重要である。

2. 旺盛なインフラニーズへの対応、サービスプロバイダーへの変革:日本の企業が世界に貢献できる機会は「無限」に存在する。日本のインフラ関連産業がグローバル展開に新たな活路を見出すとすれば、これまでのインフラ工事の「請負」の発想ではなく、インフラを自らが「所有、運営、管理」した上で「サービス」として提供する、「サービスプロバイダー」への変革が求められる。

3. 企業内意識の変革:多くの企業は請負等を主たる生業としており、自らが所有・運営・管理をする経験を持たない。自らを狭い業種の領域に押し込むのではなく、あらゆる機会を捉えてビジネス機会を拡大する、また、O&M を含めた多角的な事業展開に挑戦する。俯瞰的かつ長期的な視野にたった企業内意識(企業内文化)の変革が求められる。

4. インフラ投資のための事業運営・遂行能力の獲得:インフラ投資に関する知識を有している人材は限定される。国際的な契約方式やファイナンス手法、事業組成の仕組みなど、世界の潮流を認識し、知識を吸収していく必要がある。また、リスクアセスメントやリスク管理の手法の技術の獲得が必要である。

5. インフラ投資の積極的展開のための多国籍・異業種連携および現地化の推進:日本のインフラ関連産業のほとんどが国内・海外を問わず PPP 事業の経験を持たない。PPP 事業の取り組みを加速させるためには、1)M&A や経営参加によって新規事業領域の人材や設備、経験、経歴等を獲得する、2)PPP の経験が豊富な海外企業・国内異業種との連携等を加速するなどの対策を進める必要がある。現地パートナー企業との連携は必須である。

6. 政府と一体となった取り組みの推進:激化する国際競争環境において「質の高いインフラ」をキーワードに戦うためには、「質の高いインフラ」を良質な競争力のある商品に仕上げ、共通の「ブランド」としなければならない。企業が果たすべき役割は大きい。海外事業においては、官民がそれぞれをパートナーとし役割分担を担い、一体的かつ連携した取り組みを推進することが必要である。官と共に海外戦略を作り、「官にも役割分担を課し」ながら、自らがグローバルに展開するという発想の切り替えが重要である。

7. 解決すべき諸問題の解決とカントリーリスク等の低減:海外事業に取り組んでいる企業は様々な問題に直面しており、これらの中には、企業だけでは解決できない二国間の調整を必要とするような事案もある。そのような事案は、政府に支援を求め、解決を急ぐことが必要である。他方、途上国政府の人材育成や法制度等の構築支援を ODA のソフトインフラ対策として進め、日本企業が安心して仕事ができる環境・土壌づくりへの取り組みを強化する必要がある。

8. 日本の強みを意識した提案力の強化:日本の「質の高いインフラ」はなぜ良いのか。「壊れない」、「長持ちする」ことも重要であるが、SDGs やカーボンニュートラルなどの付加価値を含め、相手国が納得し、受け入れられるようにするための提案力の強化が必要である。それができなければ商品としての「質の高いインフラ」は定着しない。

9. 国際競争力強化のための技術革新、コスト低減:日本は「質は良いが価格が高い」という評価が定着している。「質の高いインフラ」を提唱する以上、品質を下げるという選択肢はない。LCC が圧縮できることだけを叫んでも競争には勝てない。国際競争力の強化のための技術革新とコスト低減の努力の継続的な取り組みが必要である。

10. 複合的な課題解決への挑戦、新技術の開発と適用:途上国をはじめ、多くの国では著しい都市化が進展し、様々な都市問題が発生かつ複雑化している。解決のためには、都市全体を俯瞰的に把握し、全体最適化した解決策を示すことが必要である。これに加え、カーボンニュートラルへの取り組みや、デジタル社会への対応、SDGs などの新しい社会課題は、国際的に解決が期待されるものである。我々は、そのための一翼を担い、対象国と世界に貢献する必要がある。

11. 国内外からの人材確保と国際社会で活躍できる人材育成:国際社会で活躍できる人材が不足している。大型プロジェクトで活躍できる若手 PM や社内文化に変化を起こせるような人材の育成が急務である。人材育成は産学官に共通する課題であり、様々な取り組みを推進すべきである。海外事業には、規模感や異文化との交流、インフラの経済効果が肌で感じられることなど、日本にない魅力も多い。日本がなし遂げてきた多くの功績と貢献を改めて認識し、海外事業の魅力を発信し、次世代に繋げなければならない。

4-1-2 コントラクター
コントラクターは日本の「質の高いインフラ」ブランドを作り上げるための主役である。技術力を有する中小企業も含めてグローバルな取り組みが加速できるようにするために、既に海外事業に取り組まれている企業にはこれまで以上の牽引役を努めて頂きたい。

以下の点についての取り組みを期待したい。

1. PPP を始めとした新たな事業形態への対応
 1) 企業内意識の変革(O&M を含めた多角的な事業展開への挑戦)
 2) 事業運営、遂行能力の構築
 3) 多国籍・異業種連携および現地化の推進
 4) 政府と一体となった取り組みの推進
2. 複合的な課題解決への挑戦
 1) インフラ整備と一体的な都市開発プロジェクトやスマートシティの主導
 2) 日本の強みを意識した提案力の強化
3. 国際競争力強化のための技術革新、コスト低減、教育
 1) コア技術の更なる伸長・展開
 2) 省人化・施工合理化の技術開発
 3) インフラメンテナンスの効率化の推進
 4) 技術者の確保、育成

4-1-3 開発コンサルタント

開発コンサルタントにとっては人材こそが全てであり、質の高いインフラの一層の推進のためには、コンサルタント業界の人材の質を高めることが重要であり、海外インフラ展開のためのリーダーシップを発揮されることを期待したい。

1. 現在の ODA 実施上の課題に関する政府・JICA 等との連携した取り組み
 1) 契約方式の改善、海外政府との問題の解決
 2) 若手技術者が活用できる仕組みの導入、若手 PM の積極的な採用
 3) 国内と海外の技術者の積極的な交流による技術者のグローバル化
2. 人材の確保と育成
 1) 俯瞰的な視野に立ち、総合的な問題が解決できる人材
 2) FIDIC 契約約款等のグローバルな契約形態や法律、金融、経営等に
  精通した人材
 3) 世界の大型プロジェクトで活躍できる「プロジェクト・マネージャー
  (PM)」
3. 事業機会の拡大
 1) ODA 依存体質の改善、請負から O&M 参画への対応
 2) コントラクターや各種事業者、金融機関、商社等とのコラボレーション
4. グローバル化のためのリーダーシップの発揮
 1) 国連他、国際開発機関等との関係強化
 2) グローバルコンサルタント、各国のローカルコンサルタントとの
  関係の強化、インフラ関係者との関係強化
 3) FIDIC 等の国際会議の場におけるリーダーシップの発揮
5. 技術力の拡大 
 1) DB(Design Build)EPC(Engineering, Procurement,   Construction)、BOT(Build Operate and Transfer)等への対応の推進
 2) 2050 年カーボンニュートラルを目標とした政府戦略への対応
 3) インフラ分野のデジタルイノベーシヨンの推進

4-1-4 インフラ事業者

日本における高速道路の運営の豊富な経験は、ほぼ高速道路会社のみが有している。高速道路会社は、日本のコントラクターおよびコンサルタントなどインフラ関連産業をリードする存在として、事業形成に臨んでいただきたい。

今回の検討会は、高速道路会社からは参加者があった。上下水道事業者や鉄道会社、海運等に関するオペレータなど、海外インフラ展開を担うインフラ事業者は多数存在する。残念ながら各分野の掘り下げはできていないが、それら業界の方々に於かれても、今後、政府、学会とも連携した取り組みを推進されたい。

4-1-5 金融業界への提言

金融業界に対しては、グローバルな知識と経験をインフラ関連産業に対して提供するとともに、アジアなどの開発途上国においては、現地通貨建てで長期の PF の資金提供が行えるように、現地金融市場における体制整備がなされることを期待したい。

金融業界は海外インフラ展開のための重要なステークホルダーであり、我々の仲間として継続的に学会活動に取り組んでいただき、ファイナンスや契約、リスクアセスメント等の知識の普及と会員企業とのコラボレーションを期待したい。

4-2 大学等の教育機関への提言

海外インフラ展開に関して個々の大学教員が行うべき取り組みは、大別して、①海外で活躍する人材の育成、②関連する研究の実施、③民間や政府による活動の支援の 3 点があげられる。また大学の組織としては、個々の教員がこれらの活動を継続して実施できるための環境整備も重要である。

1. 大学における国際化やダイバーシティの確保、環境の整備
 1) 大学教員の海外プロジェクトへの関与を評価する仕組みづくり
 2) 金融・契約実務・法制度などの知識を有する多様な人材の確保、
  民間交流
 3) 英語による研究・教育、外国人人材の受け入れ、
  学内共通言語を英語とする取り組み
 4) 国際標準化等の国際会議においてチェアができるような人材の育成
2. 魅力ある海外土木事業に果敢に挑戦する人材の育成
 1) 企業や公的機関との連携も含めた魅力の発信
 2) 海外に対して抵抗感のない人材、英語でビジネスができる人材の育成
 3) 契約、ファイナンス、プロジェクトマネジメントなどの講義の実施
 4) 博士課程を含めた社会人教育の拡充、
  JABEE 等技術者教育認定制度の活用
3. 海外インフラ展開に関連する研究の実施
 1) 「質の高いインフラ」を実現するための技術開発
 2) 複雑化する都市問題の解決等の新たな課題への取り組み
 3) 技術開発やイノベーションの推進
 4) 途上国の大学等との国際共同研究の推進
4. 途上国における企業や政府の活動支援
 1) 教員の専門性を生かした海外プロジェクトへの継続的な関与
 2) 留学生ネットワークの活用や国際共同研究を通じた
  ネットワーキング支援
 3) 途上国における教育プログラムの作成支援・実施協力
 4) 日本の技術基準の英訳・現地語訳

4-3 政府及び政府関係機関への提言

政府および政府関係機関においては、「質の高いインフラ」の海外展開の強化のために、産学官の連携と産学への支援、さらに、相手国との政策対話等を通じた上流プロセスからの取り組みを強化する必要がある。

企業が PPP をはじめ新分野に挑戦し、新たな市場開拓を推進できるようにするために、企業が PPP 事業の経験を蓄積し、国際的な競争力を向上させるための環境整備等が必要である。

人材の視点からは、海外事業に対応できる技術者の育成を図り、国内・海外間の流通を促進するためにも、海外で活躍する技術者やプロジェクトの評価・支援を図ることも必要である。

具体的には以下のような役割を期待する。

1. 産学官連携による問題共有、施策検討等をするための場の設置
2. 各府省や JICA、JOIN 等の取り組みや支援策に関する情報の一元化
3. 「質の高いインフラ」展開の強化とインフラプロジェクト実施上の
 課題の解決
4. 我が国が優位にある技術の輸出拡大の支援と継続的な研究開発の推進
5. 国内基準等の海外展開と海外基準等の国内試行、標準化
6. PPP をはじめ新分野への挑戦と新たな市場の開拓
7. 海外での技術者を評価する仕組みの構築と人材育成の強化
8. 大学における海外インフラ展開に関係する研究に対する支援
9. 上記のための予算、ODA(政府開発援助)予算の確保・拡大と民間の
 開発を支援する資金の充実
10. 海外インフラ組織の拡充と行動計画の策定

5 土木学会として重点的に取り組むべき事項

土木学会では、土木学会 5 か年計画(JSCE2020-2024、2020 年 4 月 1 日公表)の中期重点目標の一つとして、「我が国が有する質の高いインフラの海外展開と国際的諸課題の解決への主体的貢献」を打ち出した。

土木学会は、以下の事項について重点的に展開するとともに、インフラ関連産業のグローバル展開を強く後押ししていくため、あらゆる機会を利用して土木技術者および我が国のインフラ業界がグローバルに活躍し、世界を牽引できるようにするための努力と支援を惜しまない。

1. 海外インフラに関する調査研究の拡充、国際基準化への参画
 1) 海外インフラ投資(PPP やインフラ運営)に関連する調査・研究の拡充
 2) 日本企業が潜在的に有する技術力を活用した産学官で連携した
  調査研究の実施
 3) 技術基準等の国際標準化活動への積極的な参画と
  土木学会が策定する各種技術基準の英語化
 4) 防災や維持管理技術に関する共同研究を推進、カーボンニュートラル、
  デジタル化および SDGs などの国際的に対応すべき研究の推進
2. 海外プロジェクトを対象とした人材育成および研究助成の拡充
 1) 海外プロジェクトに関する案件形成、入札・契約、オペレーション等
  実践的な人材育成プログラムを産学官と連携して企画・実施
 2) ODA 事業に関連する委員として学識者を積極的に推薦
 3) 海外プロジェクトや海外で活躍している方々の活動等の発信、
  優れた海外プロジェクト、土木技術者に対する表彰制度の拡充を検討
 4) 海外プロジェクトの幅広い分野への研究助成の拡充の検討
3. 土木学協会ネットワークを生かした人材交流、技術移転
 1) 海外の土木学協会、アジア土木学協会連合会(ACECC)等の
  ネットワークを活用したシンポジウム・セミナーの企画・実施
 2) 我が国土木技術の海外プロジェクトへの積極的な活用を支援
 3) 我が国への留学経験者を中心とする人的ネットワークを構築、
  相手国政府や民間等との関係の強化
4. 土木学会活動の国際化の推進
 1) 外国人技術者および留学生の学会内での活動の奨励、
  外国人技術者主体の委員会の設置
 2) 土木学会内の国際化を図り、論文の英語化の推進策を検討

                            以上

土木学会声明『海外インフラ展開に向けた変革のための提言』発表シンポジウム

2021年5月28日に開催したシンポジウムの動画を土木学会tvにて公開いたしました。(2021/6/10追記)

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国内有数の工学系団体である土木学会は、「土木工学の進歩および土木事業の発達ならびに土木技術者の資質向上を図り、もって学術文化の進展と社会の発展に寄与する」ことを目指し、さまざまな活動を展開しています。 http://www.jsce.or.jp/