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論文紹介〜ACPを志向した面談の構造〜

 今回は、ACPを意識した面談を行うにあたって役に立ちそうな論文をご紹介します。 

Lu E, Nakagawa S. A "Three-Stage Protocol" for Serious Illness Conversations: Reframing Communication in Real Time. Mayo Clin Proc. 2020 Aug;95(8):1589-1593. doi: 10.1016/j.mayocp.2020.02.005. Epub 2020 Apr 8. PMID: 32278484.

 この論文では、予後の限られた患者・家族との面談について、全体的なロードマップとして、3段階に分けて順に進めることを推奨しています。

1) 客観的状況の共有(予後予測の告知を含む病状説明)

2) 患者の価値観の把握、方針決定に際して優先すべき事項の共有(治療ゴールの設定)

3) 患者の価値観・優先事項に基づいた具体的な医療内容の推奨提示(具体的プラン決定) 

 1段階目の客観的状況の共有に際しては、ある程度『悪い知らせ』を伝えることも多いので、その際はSPIKESモデルの利用が有効と思います。SPIKESモデルは、元々がん患者を対象に開発されましたが、がんに限らず、『悪い知らせ』を伝える面談に際して有用なツールです。

Baile WF, Buckman R, Lenzi R, Glober G, Beale EA, Kudelka AP. SPIKES-A six-step protocol for delivering bad news: application to the patient with cancer. Oncologist. 2000;5(4):302-11. PMID: 10964998.
 

 2段階目の患者の価値観の把握は、この3段階の中で最も重要なステップとされます。この2段階目が十分でない、あるいは、完全に失念された時、生存予後・機能予後を改善しない無益な医療や、蘇生処置などの要否の決定を患者・家族に迫るような侵襲的な面談が起こり得ます。

 患者の価値観を確認するにあたっては、予後不良の見通し、あるいは、治療の有益性と害のバランスをとることの難しさについて医師自身が悩ましく思っていることを共有の上、患者にとって最適な方針を共に考えるために、患者自身の価値観・考え方・生き方を知りたく思っていることを率直に伝えるとよいと思います。自己を開示することに抵抗を覚える患者もおられますので無理強いはできませんが、患者のためという目的を明示して面談する限り、関係性が破綻することはないものと推測します。

質問の内容としては、これまでの生活の様子を伺いつつ、人生における『生きがい』や『楽しみ』について共有できるとよいと思います。逆に、『気がかり』や『死んだ方がマシ』ということが何かを尋ねてみるのも有用です。さらに、これらの質問に対して何らかの回答があった場合は、『もう少し詳しく教えてください』、『どうしてそのように思うのか教えてください』など、患者本人が苦に思わない範囲で、発言を促すことが望ましいと考えます。そして、可能なら、患者の発言を言い換えずに反復して、次の発言が患者自身から生じるのを待つという傾聴のスキルも意識したいと思います。患者にとって、自身の言語化した価値観を言い換えられずに反復されて、自分の耳で聞き直すことが、なぜそのような発言をしたのか内省する端緒になり得るからです。

 3段階目は、2段階目までの会話の内容を踏まえて、プロとして、患者の価値観を尊重した方針を推奨し、逆に、価値観にそぐわない方針や、現実的に達成不可能な目標・手段を含む方針を推奨しないということになります。この際に、Jonsenの4分割表における『周囲の状況』も忘れずに吟味しておくことで、困難な方針を選択することがなくなると思います。

 なお、3段階目で提示した方針に対して、患者・家族が釈然としない表情を浮かべたり、合意に至らないことがあるかもしれません。このような場合は、2段階目に戻って、どのような気がかりを共有できていないのか、丁寧に振り替えることが望ましいです。繰り返しになりますが、2段階目の、本人の価値観の共有と、それに基づくゴール設定が最も重要なポイントになります。患者の価値観に基づく自律を尊重するという観点は、患者・家族・医療者で共有できることが多いものと推測します。

  本論文は、予後の限定された患者を念頭に記載されていますが、まず客観的な病状を把握して、次に患者の価値観を最大限に尊重して、最後に現実的に遂行可能なプランの中で最適と思われるものを推奨するという一連の流れは、どのような患者にも適用可能と考えます。患者・家族・医療者・社会にとって適切な医療を提供する一助としていただけましたら幸いです。

(文責:明保洋之 天理よろづ相談所病院 総合内科)

※当記事の内容は、所属する学会や組織としての意見ではなく投稿者個人の意見です。
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