病院総合医に必読!論文Top5 2019年冬期セミナー
2019年2月8日に東京大学で開催された,日本プライマリ・ケア連合学会主催の第14回 若手医師のための家庭医療学冬期セミナーで,病院総合医チームによるプレセミナー「病院総合医に必読!論文Top5」を行いました.例年冬期セミナーでは当チームからセッションを出させてもらっています.
今回は,病院総合医の知識updateに役立つ重要論文を,当チームのメンバー5名(官澤,原田,本田,松本,宮上)が,解釈や現場への適用も含めて紹介しました.
①余分な酸素投与により短期・長期死亡のリスクが上昇する
Mortality and morbidity in acutely ill adults treated with liberal versus conservative oxygen therapy (IOTA): a systematic review and meta-analysis. Lancet 2018; 391: 1693-1705.(PMID: 29726345)
25のRCT,16037人のシステマティックレビュー・メタアナリシスです.ICU入室患者を対象とし,liberalな酸素療法群(酸素投与ターゲットを高く設定)とconservativeな酸素療法群(酸素投与ターゲットを低く設定)を比較しています.Liberal群で院内死亡(RR 1.21),30日死亡(RR 1.14),フォローアップ期間死亡(RR 1.10)が多いという結果でした.SpO2 1%上昇で院内死亡のリスクが25%上昇すること,余計な酸素投与はNNH 71で死亡のリスクとなることが示されています.
この結果も受けて,Oxygen therapy for acutely ill medical patients: a clinical practice guideline(BMJ 2018; 363: k4169.)では急性疾患の患者に対する酸素投与について以下のような推奨がされています.
・急性疾患患者でSpO2 96%以上では酸素投与を中止すること(推奨:強)
・心筋梗塞や脳梗塞患者でSpO2 93%以上では酸素投与を開始しないこと(推奨:強),SpO2 90-92%では酸素投与を開始しないこと(推奨:弱)
酸素投与には有害な側面もあることを知り,余計な酸素を中止することによりリハや介護の改善,コスト削減,有害事象による死亡の予防ができるというメッセージを伝えました.
②インフルエンザ診療のエビデンスupdate
インフルエンザ診療で頭を悩ませる状況に対するエビデンスをテンポよく紹介しました.
・インフルエンザワクチンは,65歳以上でインフルエンザ罹患率を50%低下させ,肺炎や入院,死亡率を低下させる.
Ann Intern Med 1995; 123: 518-27.
・手洗い,医療従事者・患者の予防接種,インフルエンザ発症者の隔離,接触者予防内服,フェイスマスク使用 といった予防策を講じることで,院内のインフルエンザ新規罹患率を40%減少させる.
Am J Epidemiol 2016; 183: 1045-54.
・インフルエンザ患者に対するバロキサビル(ゾフルーザ®)の効果は,オセルタミビル(タミフル®)と比較して,ウイルス量が早期に減少するが,症状改善に差はない.
N Engl J Med 2018; 379: 913-923.
・濃厚接触者に対するオセルタミビル(タミフル®)予防投与の効果は,有症状インフルエンザが55%減少し,無症状インフルエンザに対する効果はわかっていない.
BMJ 2014; 348: q2547.
③超高齢者でも入院急性期からの積極的なリハビリでADLや下肢機能が改善する
Effect of Exercise Intervention on Functional Decline in Very Elderly Patients During Acute Hospitalization. JAMA Intern Med 2019; 179: 28-36. (PMID: 30419096)
スペインの三次医療機関で行われた単施設RCTです.
急性期病院に入院した平均年齢87.3歳の超高齢患者を対象に,1日2回各20分のリハビリを5-7日行う群と必要時にリハビリを行う群とでADLの尺度であるBarthel Index,下肢機能評価の尺度であるShort Physical Performance Battery(SPPB)を比較しています.
介入群は入院時と比較して退院時のBarthel Indexが平均1.9点増加していた(84→85.9)のに対し,コントロール群は平均5.0点減少していました(83→78)(差は6.9点).
SPPBは,介入群は平均2.4点増加していた(4.4→6.8)のに対し,コントロール群は0.2点増加していました(4.7→4.9)(差は2.2点).
超高齢者でも急性期からの積極的なリハビリが大切であり,ICFモデルを利用して入院時から退院後を見据えたケアをしましょうというメッセージを伝えました.
④早期退院プランニングにより再入院が減少する
Effectiveness of early discharge planning in acutely ill or injured hospitalized older adults: a systematic review and meta-analysis. BMC Geriatrics 2013; 13: 70.(PMID: 23829698)
9つのRCT、計1736名のシステマティックレビュー・メタアナリシスで,高齢入院患者に対して早期退院プランニングを行うと,再入院率が減少し(RR 0.78、NNT 11.6),再入院時の入院期間が減少する(-2.47日)ことが示されています.
特に高齢患者では,急性疾患の治療と並行して入院早期から退院に向けて早期に準備をしていくことが重要であり,具体的なアプローチとしてCGAを用いて多職種で評価・介入を行うことを提案しました.
⑤急性心不全患者に対するハンプの使用は院内死亡率と入院費用を増加させる
The impact of carperitide usage on the cost of hospitalization and outcome in patients with acute heart failure: High value care vs. low value care campaign in Japan. International Journal of Cardiology 2017; 241: 243–8. (PMID: 28476514)
日本の520病院のDPCデータを用いた後ろ向きコホート研究です.
急性心不全で入院した患者において,カルペリチド(ハンプ®)使用群は非使用群と比較して,院内死亡率(7.4% vs 6.3%)と入院費用($7704.5 vs $6863.6)が増加することが示されています.
日本の循環器内科医が行った医療の質に関わる研究であり,病院総合医もClinical QuestionからResearch Questionを立ててエビデンスを発信していこうというメッセージも添えました.
まとめ
入院・外来それぞれのセッティングでのBiomedicalな問題に加え,リハビリやケア移行,医療の質,研究といったテーマの論文紹介となり,多様な問題を扱う病院総合医らしいセッションになりました.
(参考:日本プライマリ・ケア連合学会 病院総合医委員会が掲げる病院総合医のコア・コンピテンシー)
満員御礼で,事後アンケートでも参加者の満足度は高く好評を得ることができました.
打ち上げでの1枚.また直接顔を合わせてワイワイやりたいですね!
この企画をきっかけに,日本プライマリ・ケア連合学会の実践誌『プライマリ・ケア』誌で「使える論文My Top 5」の連載が始まりました.病院総合医チームのメンバーでリレー形式で連載を続けており,最新の2021冬号で第5回となっています.日々の実践に有用な論文を紹介していますので,会員の方はぜひご覧ください!
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(文責:本田優希 聖隷浜松病院総合診療内科)
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