オランダ鉄道であった本当の話。第4話:ニルス・ポールさん
オランダ鉄道の電車は、殆どデッキが設けられている。そして、それらの幾つかは、乳母車や自転車なども乗せられるように、かなり広くなっている。
夏休みに入った時期だったと思う。快速電車はかなり混んでいたため、列車後部の広いデッキまで進んでいった。たどり着いたそこには、大きな旅行鞄を床に据えた金髪の若い男性が一人座っていた。席は沢山空いていたので空席なのか確認はしなかったが、何となく個室的な空間なので、ちょっと会釈ぐらいしたと思う。
シールがたくさん貼ってある、派手なトランクだなー、と思いながら、いつものように本を取り出して読もうとした所、英語で日本人ですか?と聞かれた。驚いて、そうですと答えると、なんと彼は、大変流暢な関西弁で、会話を始めたのだった。
お兄さんは名刺をくれて、トランクからビールを取り出し、気前よく勧めてくれた。下戸なので丁重にお断りすると、全く屈託なく一人で開けて、色々話してくれた。ニルス・ポールさんと名乗るその人はデンマーク人で、関西人の奥様と大阪にお住まいだそうで、ご職業は大道芸人。オランダには、フェスか何かでいらしていたのだろうか。
もう20年近く前の話なので、その後何を話したのか覚えていない。いただいた名刺は大切に保管してあったが、連絡は取っていない。只々、いろんな人生があるんだなぁ、と感じさせられる出会いであった。ニルスさん、どうしていらっしゃるだろうか。どうか、ご健勝でいらっしゃいますよう。
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