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2009年Liberec世界選手権(奇跡の金メダル)

自分が19年間全日本のコーチをしていて一番衝撃的な試合が2009年チェコのLiberecで行われた世界選手権で奇跡が起きました!

日本複合チームは1995年に自分と河野孝典さん(写真右)が引退してから毎年の様にルール変更があってかなり苦しい状況が続きました。

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どれくらいルールが変わったか簡単に説明すると、自分たちが金メダルを獲得した時のジャンプのポイントをクロスカントリーのタイムに換算すると5分以上の差がつきましたが、現在のポイント換算だと1分20秒ぐらいにしかならないので、いくら良いジャンプをしてもクロスカントリーが遅ければ勝てないルールになってしまいました。

コメント 2020-03-29 191429

それで日本チームの対策としては2001年からクロスカントリー専門のコーチをフィンランドから招聘し、クロスカントリーが強い選手を優先して強化して行く事になりました。
それでも世界の壁は厚くなかなか結果が出ないシーズンが続き、最悪の時にはワールドカップに出場できる資格を持った選手が高橋大斗選手1名になった時もありました。それでも複合チームは良い結果が出る時が来るのを信じてみんな明るくトレーニングに励んでいました。
又、当時は合宿や遠征費など十分では無くて強化するのに苦労していたのですが、2008年チェコ(Liberec)でのワールドカップで日本チームの応援に来てくれた「DENSO」チェコ支店長がその状況を知り、来年度は複合チームへ強化資金を援助してくれると言う事になりました。
それで2009年シーズンは複合チームだけヘッドスポンサーと言う事で「DENSO」を付けて試合に参加することになりました。

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このシーズンも世界選手権まではなかなか上位に食い込み事が出来ず苦戦していましたが、ノーマルヒル個人戦で小林範仁選手(写真左)が5位、湊祐介選手(写真右)が6位に入賞して久しぶりの良い結果にチームは盛り上がっていました。

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そして次の団体戦に向けて94年一緒に金メダルを獲得した河野コーチと誰をメンバーにするかかなり悩みました。
そして悩んだ挙句にキャプテンで低迷していた複合チームを長年一人で引っ張て来たエースの高橋大斗選手を外す決断をしました。
ベテランの高橋選手はいつも安定した結果を出せるが勢いが無く感じていたのと若い選手の勢いがあったので、翌年のオリンピックの事を考えると若い選手に大舞台を経験させたいと思い、若い選手4名で団体戦に挑む事になりました。
この時に思ったのは、自分がチームリーダーだったアルベールビルオリンピックでメンバーから外されたのも同じ感じだったのかなと思いました。
あの時は自分を外した指導者を一度は恨みましたが、まさか自分が指導者になり同じ様にエースを外す状況になるとは思ってもいませんでした。

ちなみにこの年の日本チームの実力は5番手前後でドイツ、ノルウェー、オーストリアの3強には歯が立たない状況でした。
そして迎えた団体戦前半ジャンプはみんなそれぞれの力を出し切って5位と言う結果でした。
そして後半のクロスカントリーのスタート30分ぐらい前に雨が少し振り出しましたが、もう日本チームも含めてほとんどの国のワックスマンは雨が降る前の決めたワックスでスキーを仕上げていました。
でも日本チームのチーフワックスマン(写真右)はここでワックスを塗り替える決断をしました!

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この決断が日本チームに勢いをつける事になり、1走の湊祐介選手が個人戦の勢いそのままで5位からいきなりトップで2走にバトンを渡しました。
その後もクロスカントリーが苦手な加藤大平選手もトップ集団に付いていき、渡部暁斗選手も強豪に食らいつき2位でアンカーの小林範仁選手へバトンを渡しました。
ここまで日本チームが素晴らしい滑りをする事が出来たのはスタート30分前にワックスを塗り替えたワックスマンの功績が大きかったです!
そしてメダル争いはドイツ、ノルウェー、日本の3ヶ国に絞られ、勝敗は最後のゴール前の直線までもつれ込みましたが、スキーが滑って体力を蓄えていた小林選手が最後の直線で抜け出しドイツを振り切って日本チームは世界選手権14年ぶりの金メダルを獲得しました!
この時のゴールシーンは本当に興奮しましたしすごく鳥肌が立ちました!
それと成績不振で苦しんでいた複合チームを応援(支援)してくれた「DENSO」チェコ支店様に少しは恩返し出来た様な気がしました。

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この金メダル獲得の瞬間は自分が金メダル獲得した時よりも衝撃的で感動しましたしスポーツやってて良かったと思いました!
そして金メダル獲得後に一番気になったのがメンバーから外したエースの高橋大斗選手でした。
試合後のセレモニーとか終わって宿舎に戻ってすぐに高橋選手の部屋に行き「大丈夫か?」と声をかけましたが、高橋選手からは「阿部さん絶対来ると思っていました。でも自分は阿部さんと違って、悔しさよりあいつら本当にすごいなって思ってるので大丈夫ですよ!」って言ってくれました。高橋選手(写真下)は自分が補欠で悔しい思いをしたことを自分の本「やめねぇでいがった」を読んで知っていたんです…自分より高橋選手の方が1枚上手でしたし高橋選手の言葉でメンバーを外した罪悪感から救われた気がしました!

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この世界選手権でスポーツって強い人(チーム)が勝つとは限らないし、弱いチームでも結束すれば勝つ事が出来るんだと言うのを知り、スポーツは結果が分からないから面白いんだと思いました。
そしてスポーツは競技をやっている選手やコーチだけでなく応援している人や観ている人に感動を与えられる素晴らしい事なんだと気づきました!
こんな大切な事を教えてくれた選手たちに感謝しています。

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最後に感動のゴールシーンをYouTubeにUPしたのでぜひご覧ください!


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