鼻息が手にしみる 盲導犬と暮らし、盲導犬と語る(20)

私と一緒に暮す盲導犬シールは、いつもだいたい夜の9時が就寝時間です。そのころになると床にペッタリ伏せて眠そうにしているので、二階の部屋にあるシールのベッドに連れて行きます。
私も同じ部屋に寝るので、シールのベッドのすぐとなりにふとんを敷きます。
そんな時、以前はシールがふとんの上に寝転がって「マッサージして」とよくねだって来たのですが、最近は日中にスプーンケアで気の流れを整えることが多くなったせいか、素直にベッドのところで丸くなります。
私はシールにおやすみを言ってから1階に戻ります。それでも毎日の早朝散歩のために朝の5時には起きるので、10時台には私も寝ています。

私が寝るころには、シールはベッドで丸くなってスヤスヤ眠っています。

ところが、朝に目がさめると、ほとんどいつもふとんの中の私の右手のところにはシールの頭があります。どうやら私が眠ってからしばらくして、シールは私のふとんの中に頭だけもぐりこんで寝ているようです(笑)。
なぜか、いつも身体全体でもぐりこんで来ることはなく、ちょうど首だけをふとんの中に入れて寝ているのでした。
たぶん、ふとんの中にもぐりこむのはいけないことだと思っていて、それでも少しは私のそばに来ようとして、その折衷案のようです(笑)。

そういえば、最初の盲導犬のスースーは、遠慮がちに前脚だけを時々ふとんに入れていたのを想い出しました(笑)。自己主張が強くマイペースだった二頭目の盲導犬シジミは、日中はあぐらをかいた私のひざの上に頭をのせてくつろぐのが大好きでしたが、夜にふとんの中に入ろうとすることはありませんでした。一度だけ、5年前に徳島の古民家に泊まりに行った時、標高の高いところに建っている古い民家で、その日は3月なのに雪が降ったため、あまりに寒くて、私のかたわらでわたしのダウンを上からかけていても寒そうにふるえていたシジミに
「シジミ、寒いからふとんの中においで」
と言った時だけは、すぐにいそいそとふとんにもぐりこんで来ましたが(笑)。

先日、私はふと夜中に目がさめました。
夢うつつでぼんやりしていると、右手の手のひらのところが妙に熱いな、と思いました。ねぼけながらも、ふとんの中で右の手のひらだけが熱いなんておかしい、と思いつつ、手のひらを動かしてみました。
すると指先がなんだか湿った感じのものにふれました。
それは、いつのまにかふとんに
もぐりこんでいたシールの湿った鼻先でした。
シールの鼻先がちょうど私の手のひらのそばにあったので、私の手はシールの鼻息でずっと温められていたのでした(笑)。

真っ暗な部屋の中で、ふとんの中からシールのスースーという寝息が聞えてきます。
犬の安心したような寝息の音を聞いていると、私も心地よい安心感に包まれます。私はこの寝息を聞いているのが大好きです(笑)。
私はシールのやわらかい耳のところをゆっくりなでながら、もう一度眠りについたのでした。


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