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手裏剣をさぐるということ

手裏剣と一口に言っても長さも形状も様々な種類がある。
流派で手裏剣の形状が制定されているところもあるが、手裏剣というものは一見、長さや形状、重量などに差がないように見えて一つ一つに実にはっきりとした個体差が存在する。
同じ手裏剣を5本手に持っていても一つ一つに個性が存在する。これは例えば手裏剣が出来上がった最初の時点で個々に違いがあることもある。精密機器を作るのではなく職人が手作業で作る場合、仮に長さやグラム数などを極力合わせたとしても微細な誤差が生じるのは否めない。
さらに稽古で使っているうちにぶつかりへこみ、そこを修理した時に削られたりすれば長さや重量が変わることもある。
ましてや自分の手で糸などを巻けばその誤差は生じて当たり前なのである。だからこそ、糸を巻く際には調整なども出来る限りやろうと努めるが、投擲の一連の動きの中で手の中の手裏剣の摩擦や射出時の角度、飛んでいるときの空気抵抗や揚力、回転のかかり具合すべてをそろえるのは到底無理というものだ。手裏剣は一つ一つ違うのだ。
根岸流の逸話の話になるが、時の宗家が自分にとってとても感覚の合いよく刺さる手裏剣を「飛龍剣」と呼び次によく刺さるものを「銀龍剣」と呼び大切にした。この飛龍剣を再現し量産しようとしたがついぞ同じものは作れなかったという話だ。根岸流の場合、自分で糸などを巻くので手裏剣を調整をする余地は他よりも多い。それでも狙って同じものを作ることは非常に難しいというエピソードである。

結局のところ、手裏剣の規格を完全に揃えるのではなく打ち手の感覚で同じ結果となるように合わせるより他にない。
打つのは機械ではなく人間なのだ。ピッチングマシーンのようにすべて同じ条件でいつも打てるわけではないのだから当然と言えば当然の話である。

さて、では何をもって感覚を合わせるのか。人によって表現する言葉は違うかもしれないが、私自身は「重心」を非常に重要視している。
指などに棒手裏剣を置いて前後の重さのつり合いが取れる位置を私は「重心」と呼んでいる。この位置が非常に大切なのだ。
手裏剣を作る際、削り出す際にも糸を巻く時にも常にこの重心を意識する。
私にとって重心は長さや重さと並ぶ重要な一つの目安である。人によってはこの手裏剣はバランスがいいと表現することもある感覚がこれである。

手裏剣を持った時に私はまず指先の感覚で重心をさぐる。
手裏剣術の数ある流派の中にはこの重心に指を置く流派も存在する。しかしこの重心への指置きはそのあとに続く理論付けられた打法と、さらにそれ用にカスタマイズされた手裏剣を併用して初めて意味を成すことなので安易な真似はおススメしない。
多くの手裏剣術の基本は重心よりも切っ先つまり先端側が指の腹に触れるように持つ。つまり重心は手のひら側に引き込まれる。そして打剣の際に手裏剣が手から滑るように抜ける。
具体的にどのタイミングで手裏剣を手離れさせるかはその人の感覚にもよるが、重心が指先に来た瞬間だろうが、それより遅い瞬間だろうがどんなタイミングで手から離れようと打剣者が重心をきちんと捉える意識を持つことで手裏剣の姿勢はぐっと安定するし、方向性もよくなる。

参照した動画で私は長さも重さも形状もすべて違う手裏剣を9本連続で打っている。そのすべてをなるべく同じようなところに刺さるようにしているが、すべて飛び方が違う。特に最後の一本は平べったい特殊な形状をしているので打法を変えて半回転打法(反転打法)を使って打剣した。
完全なランダムで手に持った瞬間にその手裏剣の形状や重心などを把握して打っている。手元を見ていないのでどの手裏剣を手に持っているのか視認出来ないのだ。カメラに見せている間に指先の感覚で大体の重心位置をさぐる。
そして一度手をふっと落とす。このふっと落とすのが重要で、この時に腕の力を抜く。こうすることで手の中で自由落下した手裏剣をキャッチするような感覚が得られ、手裏剣の重さや重心の位置などを感じることが出来る。
その上で「この手裏剣は倒れにくいから力を加える場所を変えよう」とか「房が付いているからそれに合わせて打とう」とか「手触りが軽いから身体を重く使おう」と言った判断をする。これは感覚的なもので無意識の調整に近いものだが、その判断材料の大きなウェイトを占めているのが重心なのである。

私は比較的ひょいひょいと手裏剣を打つタイプだが、本来演武などを行う手裏剣術流派はゆっくりじっくりと打剣をするところも多い。
しかしゆっくりと動いても感覚は常に総動員だ。
手裏剣を漫然と持つだけでは勿体ない。持ってるだけに見えてその実、小さく動かしたりして情報を得る。
そのためにも手裏剣を握りしめてはいけない。自らが力を入れすぎると手にしたものの重さはわからなくなる。優しく持つ、余計な力を入れないという教えは手にしたものの重さをきちんと感じるうえで重要なことなのである。
そして重心をさぐる。手裏剣を打つ際に手の中の感覚は非常に重要視される。少なくとも私自身はそう感じている。


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