直打法と反転打法

手裏剣術の打法を解説するためにショート動画をご覧いただきたい。
この動画で私は直打法と反転打法(半回転打法)を交互に使っている。
直打法は折に触れて解説している通り、天井側を向いて射出した手裏剣の切っ先が90度つまり4分の1だけ倒れる打法で、手裏剣術の基礎と言える技術である。
反転打法は半回転打法とも呼ばれるが切っ先が手首側を向くように持ち、切っ先が270度回転して的に刺さる打法である。直打法に比べて習得が容易であるとされている。回転を極端に抑える必要がないので本能的な打法と言える。
この90度もしくは270度の回転をいかにコントロールするかが手裏剣術のおもしろさであり要だと私は感じている。どちらも回転が足りなかったり多すぎたりすれば手裏剣は的には刺さらない。

直打法のポイントだが、これは回転を抑える技術であると言える。どんな距離でも90度倒すということは言い換えれば90度しか倒さないということでもある。回転を抑えるために手裏剣が手から離れる瞬間に手裏剣の後ろ側を押さえることで回転しすぎないようにする。

半転打法のポイントは直打法とは少し違う。本来、棒手裏剣のような物体は回転しやすいのだ。直打法のようにそれを押さえるという動きが特殊と言ってもいい。直感的、本能的に棒状の物体を投げたら必ず回転するものなのだ。反転打法は本能的な打法と言った理由はここにある。それであるから反転打法の場合、感覚的な部分に頼るところが非常に多い。それでも習得が容易と言われるだけあって、習得まで時間がかかり刺さらないときは全く刺さらない直打法と比べて、初めて手裏剣を手にした者でも数をこなせばある程度の本数を的に刺すことが出来る。
反転打法のコツは感覚によるところなので人それぞれだ。
270度回転して飛ぶ軌跡をイメージしてそれをなぞるように打つ人、的の手前1~2メートルあたりで手裏剣を回転させるイメージを持つ人、逆に自分のすぐ前の空間に仮想の的を用意してそこにまっすぐ手裏剣を打ち出しあとは惰性で回るようにイメージする人など様々だ。おそらく100人いれば100通りの正解があるだろう。私は直打法に慣れてから反転打法の練習に取り組んだので90度と270度の回転数の差に最初は手間取った。今は手裏剣が離れた瞬間に天井側を向いている「手裏剣の後ろ側」を少し押し込むようにイメージして半回転打法を打つようにしている。

動画では同一の距離を直打法と反転打法で打ち分けている。
しかしこれは本来の使い方とはまた別なものであることを強調しておく。
この動画のような打ち分けは本来必要ないものなのである。
本来、直打法と反転打法は距離によって打ち分けるのが正しいのだ。
江戸期に教授されていた手裏剣術流派の引用だが「9尺以内直打法、それ以上は反転打法を使う」とある。9尺は約2.7メートル(1間半)である。
つまり、直打法で届かない(回転しすぎてしまう)距離になったら反転打法を使いなさいという教えである。
余談だが、手裏剣術を稽古していれば直打法で長距離を打つことが出来る方もたくさんいるので2.7メートルでもう反転打法を使うのは近すぎやしないかと疑問に思う方もいるだろう。この流派の使う手裏剣は7~8寸の火箸型である。7寸で21cm、8寸で24cmの長い箸型の手裏剣である。太さとの兼ね合いにも寄るが、長い手裏剣は基本的に回転しやすい傾向にある。その手裏剣を使うことを考えると2.7メートルは合理的に直打法を使える適正な距離と言える。

このように、直打法と反転打法は本来ならば同一の距離で打ち分けたりはしない。
私自身がなぜこれをするかというと、直打法を稽古する上で反転打法を見直す瞬間があったからである。
反転打法は昔から時には「稚拙な技術」や「邪道」と揶揄されることもあった。しかし、そのメリットは数知れない。まず、取得が容易であるということは速習性があるということだ。そして、直打法よりも多く回転しているので「回転による遠心力」を威力に転嫁出来る。打ち手に力がなくともそれをカバーすることが出来るということになる。さらに、いろいろな手裏剣やそれに類するものを打ったり投げたりする経験が増えると、中には保持しにくい形状のものや極端に重心が偏っているものもあり物理的に直打法の手の内が使えないものも出てくる。そんな時にも反転打法は役立つ。忍者を出自に持つ流派をはじめ「使えるものは何でも使う」という考えを持つところも多く、どんなものでも使えるようになるにはその打法も直打法一辺倒では対応できないケースがある。だからこそ直打法に徹底してひたむきに向き合った人ほど、ある時期に反転打法を見直してそこに戻ってくるということは多くあり得る。そして、回転のコントロールの楽しさに改めて気が付く。

手裏剣は「一人一流派」と言われることがあるほどに感覚による部分は大きい。直打法も反転打法も個々の工夫や感覚であり、その人の打法はその人だけのものなのだ。しかしそれは分け合うほどに輝きを増すと私は考えている。
だからこそ、私なりのポイントを述べさせていただく。
私の理解では直打法は回転を押さえる技術、半回転打法は回転を加える技術である。
失敗をした時のことを考えるとよくわかる。
直打法の失敗は立ち飛びを除けば切っ先は下を向くことが多い。
反転打法の場合、私は切っ先が上を向いて的に当たり刺さらない失敗となることが多い。直打法も反転打法もそれ以上回転をした結果の失敗ということはほとんどない。つまり、直打法は90度回転させるところを180度回転してしまったから刺さらず、反転打法は270度回転させるところを180度しか回転させられなかったから刺さらなかったと言える。どちらも差は90度である。
360度の回転を意識する必要はない。この90度を押さえるか加えるか、それを意識するだけで成功率は格段に上がる。
そして本能的な感覚も手裏剣術には必要である。これを磨くには数をこなし慣れるしかない。そのために必要なことは一つだけである。
ただ楽しめばいいのだ。

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