冬。ハルシュタットで。

(去年の冬のこと。少し冬が恋しくなったから投稿してみる。)
クリスマスから三日後、ハルシュタットに行った。
 
ハルシュタットって言ったらどれぐらいの人がわかってくれるかな。世界一美しい湖畔の街、ハルシュタット。
中学生の頃、暇になったらよく地元の本屋さんの奥の写真集・画集コーナーの「世界の絶景百選」みたいな本を立ち読みして、将来ここなんか行きたいねーとかワクワクしながら何時間も話していた。ハルシュタットはその場所の一つでもあった。
 
 
愉快で大好きなメキシコ人からハルシュタットの旅に誘われて、思ったよりも早く、私の将来の夢は叶った。
しかしメキシコ人と他のメンバーは同じオーストリアでも住んでいる場所が違うので、ハルシュタットで集合。私の家が一番ハルシュタットから離れていて、何と4時起床という野球部の朝練並みの早さで朝が来た。
 
それにしてもヨーロッパの早朝の駅は少し変だと思う。日本とは違う空気のビリビリ感。緊張感に包まれているというか、ぎりぎりバランスが保たれているような不思議な世紀末を感じる。言葉にするのが難しい。
とにかく、ウエハースを砕いで床に投げつける人、奇声を発する人、よくわからない雑誌を売りつける人、さまざまな人がいる。
私の場合、スーパーでレバーケーゼゼンメル(オーストリアの伝統的な軽食)を買い、待合室の椅子に座って食べていると、50代ぐらいの男性が沢山席は空いているのに、なぜか隣に座ってきた。
日本の母から電話があったのでかけ直し、日本語で話し始めると、何やら小声で話しかけてくる。するといきなりスマホを見せてくるので、覗きこむとそれはサンタコスをしたお姉さんが半裸になって胸を見せびらかしている写真だった。何それ?
あまりにもいきなりの出来事で耐えきれず吹き出してしまった。それでもこれは流石に変だと思い、すぐその場から立ち去った。もっと早く警戒して立ち去るべきだったと反省したが、ちょっと危険なハプニングがあるとワクワクする気持ちになる自分もいる。
 
このようなことが朝一番からあったせいで列車では一睡もできなかったが、車窓から見える景色はとても綺麗だった。
朝焼けの空と壮大な山々、山のてっぺんは雪が少し積もっていて、陽を受けた部分は淡いオレンジ色に染まっていた。
私は壮大な、デカすぎる自然を一人で見るのが好きだ。自然からすると車窓から山を見つめる私(18)はあまりにも小っぽけ。でもそんな私が山を一人で見ていると、美しさを全て独り占めしているような気持ちになるのだ。あの山々の美しさは私だけが知っている...みたいな。
穏やかな曲を有線イヤホンで流して、山を見る。これがぜいたくな時間なんだと思う。
 
意外と列車の時間はあっという間で、乗り換えチャレンジが開始される。残り時間3分、バス停に辿り着けるか....現地の老婦の方に声をかけ、このバス停で合っているか確認、OKをいただき、無事チャレンジクリアと思い、やってきたバスに乗り込む。
 
しかしチャレンジは呆気なく失敗に終わった。運転手にこのバスではないと言われ、渋々降りるとその瞬間、私が乗るべきだったバスが出発。
乗り間違えた。
絶望しながら時刻表を見ると次のバスは2時間後だった。スマートフォンで調べても、全て2時間後。そして待ち合わせの時刻からは計3時間遅れになる。犬の散歩をしている老夫婦しかいないような田舎で、一人放り出されたようなそんな気分。
メキシコ人に電話すると、謝らないでー!待ってるから!早く会いたい!と軽くてハツラツな声が聞こえた。泣きそうだった。
脳死で待つこと2時間。ドキドキしながらバスに乗る。合っていた。
 
窓際の席に座り、出発を待っていると三人のアジア人の観光客が。聞こえる言葉から日本人ではないとわかったが、アジア人が近くにいると心のどこかが安心する。ハルシュタットまで3度バス乗り換えがあり、彼らとは2度目も一緒だったので目的地が同じだとを確信し声をかけた。
音大生で、留学生のタイ人だった。その内の一人は日本語が流暢で、簡単な会話なら日本語で通じた。
これから会う友達のために日本のお菓子を持って行っていたので、少し渡してみる。すると喜んでくれ、お礼にタイのヌードルをいただいた。バスの中では留学生同士だから分かる苦悩やオーストリアの生活、好きな音楽のことを話した。目的地に着くと写真を一緒に撮り、また会おう。そう言ってハグをしてお別れをした。(後日インスタで連絡しあって、近いうちにまた会えるかもしれない!タイ料理作ってくれるかもワクワク)
 
旅は出会いがあるから楽しい。タイミングがチャンスをくれる時もあるが、新しい出会いを掴むためには少しの勇気とフレンドリーさが必要になる。今の私には出会いのある旅とない旅とでは意味が全然違ってくるな〜と思いつつ、チャンスを逃さないように楽しい人間でいようと決心したのであった。
 
それはそうとして、朝の始発のバスに乗ってからハルシュタットに着くまで7時間が経っていて、目の前には本に載っていたそのままの景色があった。
周りを見てみると7割がアジア人で、ハルシュタットはドイツ語ではない言語で溢れてかえっていた。
メキシコ人に電話をかける。教会の前でケバブを食べていた。
流石に3時間も待たせて申し訳ないと思い、教会まで全速力で走った。スマホを片手に持って写真撮影している観光客しかいないこの地で、謎にジョギングをしている夫婦を追いかけ、とにかく走る。
憧れだった景色がとても速いペースで目に入ってくる。なんでハルシュタットで走ってるんだろう、可笑しくて、心地よかった。
そして私はハルシュタットにいる。その事実だけでこの一週間、思い返してウキウキした気持ちになれた。
ようやくメキシコ人と他の友達に会い、ハグをし、百枚以上写真を撮り、町の隅から隅までを歩き、ベンチでホストファミリーのこと、学校のこと、友達のことを話す。レストランやカフェはあまりにも値段が高く、そしてほとんどが予約をしないと入れなかった。

日がどんどん落ちて、冷え込んできた外のベンチにまた戻って、座る。
メキシコ人に「今幸せ?それが一番重要なことだよ」と目を見て聞かれた。
中学生の私が思っていたよりも夕暮れのハルシュタットはとても綺麗だった。おとぎ話に出てくる、美しくて可愛くて、手の届かない小さな世界、そのままだった。
なぜか泣きそうになりながら、幸せだよって答えた。
 
今思い返しても夢を見てたんじゃないかって思うぐらい、ハルシュタットはいまだに夢の場所である。夏になったらもう一度行こうって約束をした。
 
 
 
 
 
 

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