見出し画像

共犯者ABと「てんぷらとそばの丸一」(令和4年司法予備刑事実務)

宴もたけなわ
シメとして各人がお蕎麦を注文した。
「ここのお蕎麦は絶品ね。」と閑古堂所有者のご母堂。
「ええ。飽きない味ね。」と一 二三(にのまえ ふみ)さん
「あともりそば5人前追加していいですか。」と小兵
映画鑑賞会の後の宴である。
主役の小兵もいるので盛り上がらないわけはない。
それよりも、映画のシーンに関連して様々な推理を働かせた閑古堂所有者の御母堂。現在、手芸教室をご自宅で営んでおられるとか。しかし、酒の席で話されたご自身の周辺に起こった怪事件、難事件を針の先のような糸口から見事に解決した機知。そして、警察庁特命課長時代の逸話の数々。これからご母堂の経歴から、はばかりながらこれから御母堂のことを「京都のミス・マープル」と呼ぶことにする。

流石に今日は、小兵監督の演出、主役、撮影の映画を3本も見てしまったので深瀬も疲れてしまった。
そこで、京都のミス・マープルと一(にのまえ)さんとで、軽く夕食でも食べようかという話になり、誰とも言い出すことなくそば屋に来てしまった。
なぜか今日の立役者の小兵監督もいる。
なお、小兵は体重100キロと称していたが、問い詰めると130キロであった。この場を借りて訂正とお詫びを申し上げる。
「天ぷらとそばの丸一」
ここは、「京都のミス・マープル」いきつけのそば屋らしく、入ると和服姿の店主が深々と頭を下げた。

深瀬はジンジャエール、小兵はビールジョッキに並々と注がれたコーラ
京都のミス・マープルと一(にのまえ)さんは、熱燗を注文され、
小兵もいるので、てんぷらのコース松5人前、竹4人前、梅4人前を注文したところで、飲み物も揃ったので乾杯し、「京都のミス・マープル」と一(にのまえ)さん、小兵がおしゃべりに興じる中、深瀬は最後の回の上映を想い出していた。

最後の会は、夕方ということもあり、観客は小兵監督を含め4人までに減っていた。
その中、「おきばりやす法律事務所」の広告が流された後、小兵がサングラスを掛け、茶色の作業着と帽子を被り、胸の前にBと書いた30センチ四方のプラスチックの板を付けていて、警察官の取り調べを受けているシーンから物語は始まった。

※司法試験予備試験令和4年度刑事実務は証拠数が多いので、一部引用にとどめさせていただきます。
Bの警察官面前の供述録取書(3月12日付け)(証拠⑩)
「3月1日の夜、Aから電話で、『家に金をためこんでいるばあさんがいるらしい。一緒にその金を奪わないか。』と誘われ、金に困っていたので承諾した。それから何回か、Aと共に私の車でV方付近に行き、V方の様子を観察したところ、Vが1人暮らしで、昼前後はV方にいることが分かったので、昼過ぎ頃にV方に押し入ることにした。その後、Aと話し合い、私が宅配業者を装ってV方に入り、刃物でVを脅して現金とキャッシュカードを奪うこと、その際にVから暗証番号を聞き出すこと、発覚を遅らせるためにVを縛ること、その間Aが見張りをすることを決めた。Aから、宅配業者のような服とVを縛る道具を用意するように言われたので、茶色の作業着上下と帽子を購入した。Vを縛るためには、家にあった物干しロープを使うことにした。3月9日午後0時過ぎ頃、購入した作業着を着て、私の車でA方に行き、その後、Aに運転を替わってV方に向かった。Aは、V方付近のマンション前に車を止めると、『親父のだから、落としたりするなよ。』と言いながら、私にナイフを私てきた。そのナイフを受け取って作業着上衣のポケットに入れ、帽子をかぶり、軍手をはめてから車から降りた。その後計画どおりに実行し、V方のたんすの引き出し内にあった現金の束とキャッシュカード1枚を奪い、暗証番号を聞き出した。V方を出た後は、Aが待つ車の助手席に乗り込み、Aが車を発進させた。Aは、しばらくの間車を走らせていたが、30分ほど経った頃、Uコンビニエンスストアの駐車場に車を止め、『カードで金を下ろしてくる。』と言ってきた。そこで、私は、Vから奪ったキャッシュカード1枚をAに渡して暗証番号を伝え、Aにナイフを返した。Aが車から降り、私も飲み物でも買おうと思って車から降りた。店内では、私名義の交通系ICカードを使ってスポーツドリンク1本を買った。それから、Aと二人で車に戻ったが、この時Aが不機嫌そうに、『もう使えなかった。』と言っていたので、キャッシュカードが利用停止になっており、出金できなかったことが分かった。その後、A方に行き、Vから奪った現金500万円を2人で分けた。取り分は、Aが300万円で私が200万円だった。実行したのは私だったので分け前に少し不満はあったが、地元の先輩であるAには昔から面倒を見てもらっていて、私が学校でいじめられていたときに助けてもらったり、金に困っていたときに金を貸してもらったりしていたので仕方ないと思った。」

ここで、なぜか一(にのまえ)さんが登場し、「澤谷弁護士が所用があるとのことなので、私がナレーションを務めさせていただきます。私は、漢数字のイチ、ニー、サンと書いて、にのまえ ふみと申します。
設問1
(1) 上記の供述のうち本件被告事件に関与したのはAであるとする供述部
   分の信用性が認められると判断した検察官の思考過程について、具体
   的事実を指摘しつつ答えなさい。
(解答例)
(1) Aの犯人性について
 Bの供述のうち、
 ア 3月1日に共犯者と通話した点は、Bの携帯電話の通話記録からAと同
  日電話している客観的証拠(証拠⑪)がある。
 イ 共犯者からナイフを渡され、共犯者の父の所有物である旨言われ、犯 
  行に使用後、共犯者に返還した点は、A方でサバイバルナイフが差し押 
  さえられ(証拠⑫)、そのサバイバルナイフからBの指紋が検出(証拠
  ⑭)された客観的証拠とAの父の所有物であるとの同父の供述(証拠 
  ⑬)がある。
 ウ 共犯者に被害品の300万円とV名義のキャッシュカードを渡した点
  について、A方でそれらの被害品が差し押さえられた捜索差押調書(証
  拠⑫)がある。
 以上のことから、Aが犯行に関与した旨のBの供述は信用性が認められると検察官は考えた。

(2)Aに共謀共同正犯が成立すると判断した検察官の思考過程について、 
  具体的事実を指摘しつつ答えなさい。
(解答例)
 ア 心理的因果性について
   Aが電話で、「金を奪わないか」旨の話を、Bに持ちかけた点で共同で
  法益侵害を惹起する因果性があり、宅配業者を装って入り、刃物で脅し
  て現金とキャッシュカードを奪い暗証番号を聞き出す等詳細な計画を共
  同で立案し、その準備に作業着やロープ等の購入を促し、共同で下見を   
  して、在宅時間帯を確かめたこと等も実行犯であるBに共同惹起する心
  理に因果性を与えた。
 イ 物理的因果性について
   父親のサバイバルナイフを貸し渡したり、Bの実行中に見張りをした
  り、犯行時の運転役を引き受けたりして、物理的に共同行為を行った。
 ウ 領得行為について
   被害品のうち、現金300万円とV名義のクレジットカード1枚を領
  得した。
 以上のことより、Aに共謀共同正犯が成立すると検察官は考えた。

共犯者Aは、公判請求され、公判事件は公判前整理手続に付され、検察官は証明予定事実記載書を裁判所に提出し、証拠の取調請求を裁判所にして、弁護人に証拠を開示した。その後、所定の手続を経て、弁護人は、「AがBと共謀した事実はなく、Aは無罪である。」旨の予定主張記載書を裁判所に提出し、検察官請求証拠に対する意見を述べた。
設問2
「裁判所は、検察官に対し、どのような事実と証拠に基づいてAB間の共謀を立証するのか、その主張と証拠の構造が分かるような証明予定事実記載書を提出するように求めた。」、この理由を公判前整理手続の制度趣旨に言及しつつ答えなさい。
(解答例)
公判前整理手続とは、公判の審理を継続的、計画的かつ迅速に行うための公判準備のことであり、争点及び証拠を整理するための手続であり(刑事訴訟法316条の2参照)、検察官のみならず弁護人及び被告人にも証明予定事実記載書(検察官につき同条の13、弁護人及び被告人につき同条の17)を提出させ、証拠調べ請求(同条の5第5号)、その決定(同8号)をして、裁判所に十分な審理計画(同条の13)を立てさせるものである。本件被告事件では、従前から被告人が黙秘しており争点が明らかでなかったが、弁護人の主張書面で、争点が、「共謀の事実」として明らかになったものであり、これを受けて裁判所が、この争点について、弁護側の争点関連証拠の開示(同条の20)も考慮し、さらに、公判前整理手続以降は、原則、証拠調べ請求ができないことも考慮して(同条の32)、釈明権を行使して提出を求めたものである。

本件被告事件では、Bを第2回公判期日で証人として尋問することが決定し、起訴後、Aについて、公判前整理手続の終了する日まで接見等禁止決定がされていたが、検察官は、同日、接見等禁止の請求をし、裁判官は第1回公判期日終了の日までとして接見等禁止決定をした。第1回公判期日後、再度、検察官は接見等禁止の請求をし、裁判所は、その終期を第2回公判期日終了の日として決定をした。
設問3
検察官は、上記接見等禁止の請求を第2回公判後しなかった。その理由
(解答例)
被告人は、弁護人以外の者と接見することができる(刑事訴訟法80条)、ただし、罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるときは、検察官の請求により弁護人以外の者との接見を禁じることができる(刑事訴訟法81条)。本件被告事件では、公判前整理手続に付され、審理計画が策定されており(同法316条の5第13号)、Bの証人尋問が決定されていたから、AはBの先輩にあたり、学生時代、いじめから救済してくれた事や困窮時、お金を貸してくれた恩があり、Aが第三者を通じて、Bの証言をAに有利に変更する旨を依頼する等して、Bが供述を変更するという罪証隠滅の恐れがあるため、Bの証人尋問が終了するまでを目途に接見等禁止の請求をしていたからである。

仮に、第2回公判期日に実施されたBの証人尋問の主尋問において、Bが「今回の事件は、全てAに言われたとおりにやった。当日私が着ていた作業着やロープもAが用意したものだ。」旨証言した後、反対尋問において、弁護人がその点に関し捜査段階でどのような供述をしていたかについて尋問を尽くしても、「覚えていない。」旨の証言に終始したとする。
設問4
(1) この場合において、弁護人は、Bの証人尋問終了後、「やむを得ない  
   事由」(刑事訴訟法316条の32第1項)があり、かつ、証拠能力も 
   認められるとして、証拠⑩の請求をした。その思考過程と証拠能力も
   認められると考えた理由にも言及して答えなさい
(解答例)
刑事訴訟法316条の32条1項の趣旨は、公判前整理手続を行っても、公判において、その証拠整理に拘束されることなく証拠請求ができることになると、公判前整理手続の証拠整理の実効性がなくなるからである。そのため、新たな証拠整理を制限したのである。証拠⑩のBの陳述録取書に反し、証人尋問ではBは責任をすべてAに押し付けような予想外の発言をしている。そこで、証拠⑩には、弁護人は同意していないので、証拠能力はないけれど、Bの自己矛盾供述として、公判廷でのBの供述を信用性を争う、いわば弾劾証拠(同法328)として、証拠能力があると考えたからである。

(2) 検察官が、「やむを得ない事由」があることは争わないとした上で、
  証拠意見として、「同意」でなく「異議なし」として述べた理由。
(解答例)
弁護人が、弾劾証拠(刑事訴訟法328条)として、請求したのであるから、証拠⑩の供述が真実であるという実質証拠として請求したものではない。したがって、検察官としても、実質証拠として、内容に「同意」するのではなく、弾劾証拠として提出することに、「異議なし」と発言したのである。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?