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司法試験予備試験令和2年刑法

(はじめに)
予備試験の短答試験まで、泣いても笑っても1週間ですね。
昔、大学の先生が、「人事を尽くして天命を待て。」は間違いで、天命は必ずあるから、「天命を待って人事を尽くせ。」とおっしゃってました。
私の場合は、親の居宅介護で、とみに最近、仕事も休みがち(退職勧告も近い?)になるぐらい手間がかかり、すきま時間しか取れず、その時間を大好きなNOTEの執筆にあてているので、短答対策はほとんどしていません。
「人事を尽くさず、天命と八百万(やおよろず)の神頼み」派でしょうか。
お互い最後まで諦めずに頑張りましょう。

(司法試験予備試験令和2年刑法)

以下の事例に基づき,甲の罪責について論じなさい(特別法違反の点を除く。)。
1 甲(28歳,男性,身長165センチメートル,体重60キログラム)は,2年前に養子縁組 によって氏を変更し,当該変更後の氏名(以下「変更後の氏名」という。)を用いて暴力団X組 組員として活動を始めた。甲は,自営していた人材派遣業や日常生活においては,専ら当該変更 前の氏名(以下「変更前の氏名」という。)を用いていた。
2 甲は,X組と抗争中の暴力団Y組の組長乙を襲撃する計画を立てていたところ,乙が,交際中 のA宅に足繁く通っているとの情報を入手した。甲は,A宅を監視する目的で,A宅の向かい にあるB所有のマンション居室(以下「本件居室」という。)を借りるため,某月1日,Bに会 い,「部屋を借りたい。」と申し込んだ。Bは,暴力団員やその関係者とは本件居室の賃貸借契 約を締結する意思はなく,準備していた賃貸借契約書にも「賃借人は暴力団員又はその関係者 ではなく,本物件を暴力団と関係する活動に使いません。賃借人が以上に反した場合,何らの 催告も要せずして本契約を解除することに同意します。」との条項(以下「本件条項」という。) を設けていた。Bは,甲に対し,本件条項の内容を説明した上,身分や資力を証明する書類の 提示のほか,家賃の引落しで使用する口座の指定を求めた。 甲は,自己がX組組員であり,A宅を監視する目的で本件居室を使用する予定である旨告げ れば,前記契約の締結ができないと考え,Bに対し,X組組員であることは告げず,その目的 を秘しつつ本件居室を人材派遣業の事務所として使用する予定である旨告げた。甲は,Bに変 更後の氏名を名乗れば,暴力団員であることが発覚する可能性があると考え,Bに対し,変更 前の氏名を名乗った上,養子縁組前に取得し,氏名欄に変更前の氏名が記載された正規の有効 な自動車運転免許証を示した。また,甲は,養子縁組前に開設し,口座名義を変更していない 預金口座の通帳に十分な残高が記帳されていたため,Bに対し,同通帳を示し,同口座を家賃 の引落しで使用する口座として指定した。甲は,同日,前記契約書の賃借人欄に現住所及び変 更前の氏名を記入した上,その認印を押し,同契約書をBに渡した。Bは,甲が暴力団員やそ の関係者でなく,本件居室を暴力団と関係する活動に使うつもりもない旨誤信し,甲との間で 上記契約を締結した。この際,甲には家賃等必要な費用を支払う意思も資力もあった。 なお,前記マンションが所在する某県では,暴力団排除の観点から,不動産賃貸借契約には本 件条項を設けることが推奨されていた。また,実際にも,同県の不動産賃貸借契約においては, 暴力団員又はその関係者が不動産を賃借して居住することによりその資産価値が低下するのを避 けたいとの賃貸人側の意向も踏まえ,本件条項が設けられるのが一般的であった。
3 乙の警護役であるY組組員の丙(20歳,男性,身長180センチメートル,体重85キログ ラム)は,同月9日午前1時頃,A宅前路上に停めた自動車に乗り,A宅にいた乙を待ってい たところ,前記マンション敷地から同路上に出てきた甲を見掛けた。その際,丙は,甲のことを,風貌が甲と酷似する後輩の丁と勘違いし,甲に対し,「おい,こんな時間にどこに行くんだ。」 と声を掛けた。これに対し,甲は,無言で上記路上から立ち去ろうとした。これを見た丙は, 丁に無視されたと思い込み,同車から降りて甲を追い掛け,「無視すんなよ。こら。」と威圧的 に言い,上記路上から約30メートル先の路上において,甲の前に立ち塞がった。丙は,その 時,甲が丁でないことに気付くとともに,暴力団員風で見慣れない人物であったことから,そ の行動を不審に思い,乙に電話で報告しようと考え,着衣のポケットからスマートフォンを取 り出した。他方,甲は,丙が取り出したものがスタンガン(高電圧によって相手にショックを 与える護身具)であると勘違いし,それまでの丙の態度から,直ちにスタンガンで攻撃され, 火傷を負わされたり,意識を失わされたりするのではないかと思い込み,同日午前1時3分頃, 自己の身を守るため,丙に対し,とっさに拳でその顔面を1回殴ったところ,丙は,転倒して 路面に頭部を強く打ち付け,急性硬膜下血腫の傷害を負い,そのまま意識を失った。なお,甲 は,丙の態度を注視していれば,丙が取り出したものがスマートフォンであり,丙が直ちに自 己に暴行を加える意思がないことを容易に認識することができた。 甲は,同日午前1時4分頃,丙が身動きせず,意識を失っていることを認識したが,丙に対 する怒りから,丙に対し,足でその腹部を3回蹴り,丙に加療約1週間を要する腹部打撲の傷 害を負わせた。 丙は,同日午前9時頃,搬送先の病院において,前記急性硬膜下血腫により死亡したが,甲の 足蹴り行為により死期が早まることはなかった。

(解答例)
1 本件居室の賃貸借契約(以下「本件賃貸借」という。)を締結した点につ
 いて
 (1) 甲が本件賃貸借を締結する際に、変更前の氏名を使用していること
   が私文書偽造(法159条1項)、同行使(161条)に当たるかど
   うかを検討する。
 (2) 私文書偽造とは、私文書の作成名義人でない者が権限がないのに、
   名義人の氏名を冒用して文書を作成することを言うのであり、人格
   の同一性のそごが生じることが必要である。
 (3) 確かに、変更前の氏名は、甲の日常や自営業では流通しており、甲
   の近辺では同一性のそごは生じないものの、一般には流通しておら
   ず、Bとしては、「暴力団員でない変更前の氏名の甲」と契約する意思
   で、「X組暴力団員である変更後の氏名の甲」と契約しており、人格の
   同一性のそごをきたしている。
 (4)よって、甲には、私文書偽造、同行使罪が成立し、両罪は順次手段結
   果の関係があるので、牽連犯(法54条1項)になる。  
2 甲が、本件条項に反し、本件居室を借り受けた点について
 (1) 甲が、本件賃貸借の際、本件条項に反し、暴力団員であることや居
   住目的を秘した点が詐欺罪(法246条)の欺罔行為に当たると、甲
   には2項詐欺(法246条2項)が成立するのでその点を検討する。
 (2) 欺罔行為については、交付の判断の基礎となる重要な事項につい
   てなされていることが必要である。また、欺罔行為は、挙動による欺
   罔として、告知義務がありながらしないという不作為によっても成り
   立つ。
 (3) 本件については、県あげて暴力団排除の観点から本件条項を推奨
   し、また、暴力団員の居住に伴う資産価値の低下防止から本件条項が
   設けられていた経緯、Bが本件条項を口頭で説明したことからすれ
   ば、本件条項は「重要な事項」として表示されたといえる。
 (4) それにもかかわらず、X組組員であることや暴力団と関係する居住
   目的を告げないことは告知義務違反であり、不作為の欺罔行為であ
   る。
 (5) よって、甲には2項詐欺罪が成立する。
3 丙に傷害を負わせ死亡に至らせた点について
 (1) 甲が丙の顔面を殴る暴行(以下「第1暴行」という。)について、甲
   には顔面を殴るという暴行罪(法208条)の故意があったのだか
   ら、結果的加重犯として傷害罪(法204条)が成立し、死亡の結果
   が発生しているので、さらなる加重犯として傷害致死罪(法205  
   条)が成立する。
 (2) ただし、甲は丙がスタンガンを取り出そうと誤信しているので、誤
   想過剰防衛として、法36条2項の適用できるかを検討する。
 (3) 丙の態度を注視していれば、丙が取り出したものがスマートフォン
   であり、丙が直ちに自己に暴行を加える意思がないことを容易に認識
   することができたというのであるから、甲の行為が防衛行為として成
   り立たないことは容易に認識できたと言える。
 (4) 甲は暴行の故意犯であり、法36条2項がその非難可能性を、防衛
   行為の程度により減少する規定とするのであれば、甲は防衛行為を誤
   信した単なる過失犯であり、その非難可能性は減少しない。
 (5) よって、第1暴行については、甲には法36条2項は適用されず、
   傷害致死罪が成立する。
 (6) 丙を腹蹴りした暴行(以下「第2暴行」という。)については、第1
   暴行は、丙が意識を失ったことにより終了し、それを認識した上、甲
   が新たな侵害行為を開始したので、第1暴行との間に断絶がある。
 (7)また、第2暴行により傷害の結果が生じているが、丙の死期が早まっ
   ていないので、丙の死とは因果関係がない。
 (8) よって、第2暴行により傷害罪が成立し、第1暴行による傷害致死
   罪と併せて包括一罪が成立する。
4 罪数
  甲には、有印公文書偽造、同行使罪、詐欺罪は順次手段結果の関係があ
 るから牽連犯が成立し、包括一罪である傷害致死罪と併せて併合罪(法4
 5条)になる。

  





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